「SDGs達成を目標に、身の回り半径50cmから行動を起こす」。
この理念をもとに、日々行動しているのが高校生により結成された学生団体「50cm.」(以下:50cm.)です。
現在のメンバーが4代目となる50cm.は、学生団体総選挙で準グランプリを受賞したり、テレビや新聞などのメディアに取り上げられたりと、輝かしい功績を積み上げています。
SNSにおける情報発信もさかんな同団体は、代表も含めて全員が高校生です。メンバーに大人は含まれていません。
これには既成概念にとらわれず、高校生らしく“一見実現不可能に思えることでも全力で取り組みたい”という、設立時の想いがあるとのこと。
そんな想いを体現するかのように活発に活動する様子は、先に触れたように各方面からも注目されています。
では彼らはなぜ、高校生の力のみで、SDGsという社会課題を自分事としてとらえ、世に発信し、自ら積極的に行動していけるのでしょうか。
その秘密を探るべく、今回は50cm.の現代表である内野そらさん、副代表である小野由月さんにインタビューを敢行しました。
目次
学生団体50cm.とは?
ーー50cm.は、どんな活動をしている団体なのですか?
内野さん:SDGs達成を目指し、身近なところから行動を起こしていくことを目指す高校生のみの団体です。
今の主な活動としては、TwitterやInstagram、Facebookで社会問題に関する情報発信をすることがあります!
メンバーがそれぞれ、SDGsに関して、興味や課題感を持っている分野で記事を書いて投稿しています。
また、コロナ禍ということもあり、普段はつながりのない小学生や中学生に集まってもらい、みんなでテーマについて話し合うオンラインでのイベントも行っています!
実際に参加者が活動できる場を提供することで、参加者である小中学生やそれを見守る教師や保護者の方など、さまざまな方がSDGsに興味をもってもらうきっかけとなればと考えています。
ーー興味深い活動をされていますね! お二人が50cm.を知ったきっかけは何だったのでしょうか?
内野さん:団体の創設者が、私が通っている高校の先輩だったことです。
私たちの一学年上の先輩からのすすめもあって、50cm.での活動に興味を持ちました。
ーーそうなると、やはり同じ高校の方がメンバーに多いのでしょうか?
内野さん:もともとはそうでしたが、4代目にはいろんな学校の生徒がいます。
今は27名のメンバーが所属しているのですが、17校から集まっています。
最近は、メディアに取り上げていただくことが増えたので、集まるメンバーの個性の幅も広がりました。
SNSや、ホームページでの発信を見て参加してくれたメンバーもいます。
ーー学校の壁を越えて活動されており素晴らしいですね! そんな4代目の皆さまの目標はなんでしょうか。
内野さん:まず一つは、同世代のみんなに、SDGs知ってもらいたいというのがあります。
学校だと、どうしても大人から「教わる」構造になってしまうので、なかなか自分から積極的に社会課題に接する機会が持てないという一面があります。
学校とは別のところで、「同世代」の私たちだからこそ伝えられることを、みんなと同じ目線で伝えていきたいという想いを持っています。
もう一つは、SDGsの「本質」を伝えていけるようにするということです。
SDGsは、どうしても上辺だけで語られてしまって、その本質が見えにくいことがあります。
そうではなくて、本当に身近な社会問題としてとらえてもらえるように、日々活動しています。
ーー本質を伝えていくための工夫としては、どんなことをしていますか?
内野さん:まだまだ私たちも課題に感じている点なのですが……。
SDGsを、できるだけ自分たちの行動と紐づけるように意識しています。
実際に、「プラスチックごみを燃えるゴミとして捨てたことによってどんなことが起こるか?」という題材を取り扱ったイベントを行ったりもしました。
社会課題をいかに自分事としてとらえてもらえるかが大切だと考えています。
社会課題を自分事としてとらえるには?
ーーSDGsなどの社会課題を、自分事としてとらえることはなかなか難しいと思います。メンバーの皆さんはどのようにしているのでしょうか。
小野さん:実は、初めからSDGsに興味があったわけではなかったんです。
「自分の性別ってなんだろう」「自分は女性なのか」「男性と女性の違いってなんだろう」。
こんな風に自分のことを改めて見つめ直す中で行きついた先が「ジェンダー」という社会課題でした。
ーー自分の持つ違和感や問題意識が、SDGsにつながっていた、ということでしょうか?
内野さん:そうですね。
私自身も、中学生のときに実感した塾と学校との教育格差が、SDGsに興味を持つきっかけになりました。
学校では教わらないレベルの学習が、塾では当たり前に行われていて。
その違いに衝撃を受けたんです。
例えば経済的な事情などがあって塾に通えない学生は、こうした学びを体感することができないということに、違和感を覚えました。
他のメンバーを見ても、個々の問題意識が、結果としてSDGsへの関心につながっているという印象を受けます。
私たち50cm.は、SDGsという共通項によって結ばれている個人の集まりなのだと思います。
ーーご自身の経験が、社会課題への興味につながっていたのですね。
では逆に、そうした経験を持っていない方はどうしたら社会課題を意識することができると考えますか?
内野さん:まずは情報収集から始めるのが良いかもしれません。
社会課題に興味がわかないという方は、そもそもそういったニュースや情報にたどり着けていないのだと思います。こうした状況を解決する一歩目としてまずは、全然関係のないところからでもいいから、とにかく情報に触れることが大事だと思います。
特に中高生なら、SNSはよく目にすると思うので、いろいろな情報に出会えると思います。
これは、50cm.がSNSの運営に力を入れている理由の一つでもあります。
例えば小野さんは、今高校生の間でも人気のある「古着」をテーマにしたSDGsの記事を書いたりもしています。
社会課題への問題意識に直接はつながらずとも、自分の好きなものや興味のあるものなど、身近なところから課題への意識が芽生えるといいですよね。
小野さん:結局、人は楽しい方にしか行けないと思うので。
やっぱり自分が興味を持つものからつながって、社会課題を意識できるといいですよね。
もし、自分の興味がわからないなら、友達や周りの人の真似から始めてみるのがおすすめです。
まずは人の真似をしてみると、「これは自分には合わなかったな」というような感じで、自分の興味に関していろいろ発見できると思います!
SDGsは、日常の中、身近なところに。
ーーそう思うと、SDGsは意外と身近なところにあるものなのですね。
内野さん:そうですね。
とはいえ、社会を客観的に見て考え、さらに行動に移す、というのはある程度精神的・経済的に余裕がないと難しい場合もあるかもしれません。
だからこそ、まずは誰もが心に余裕を持てるような社会になればいいと思います。
「SDGsなんて考えている余裕がない」と思うその原因は、今の社会にあるのかもしれません。こうした現状を変えようと働きかけることも、社会をより良くしていくことにつながると思います。
また自分の興味のあることを楽しみながら広げていく中でも、SDGsにつながる場合もあると思います。
本来SDGsは、単にきれいごとを掲げて強制的に私たちを縛り付けるものではないはずです。
多くの分野を包括しているものだからこそ、身近なところからでも少しずつ課題に気づいていけたら良いと思います。
小野さん:今、自分がどんな立場にいるのか、どんな不便を感じているかを考えてみると、気づいたらSDGsに辿りついていることもあります。
私自身は、ちょっとしたイライラや悲しみを感じた時にその理由を調べるようにしています。その中で、自分の感じていた違和感というのが、実は他の人も感じていることであったり、社会問題とも関わっていたりするということに気づくことがあります。
負の感情は変化を求めるエネルギーにもなると思うので、自分の感じた疑問を大切にしてどうしてそうなのかを調べてみるとよいのではないでしょうか。
今後、二人が目指す50cm.の未来。
ーー今後の50cm.での抱負はありますか?
小野さん:私自身は、自分の興味がきっかけで、楽しみながら主体的に調べていくなかで偶然、SDGsに出会いました。
だからこそ、今はSDGsに興味がない同世代の皆さんにも、私のようにフラットに社会課題の解決に取り組んでいる姿を見てもらえたらと思っています!
もっと肩の力を抜いて、社会課題に向き合ってもらえたら嬉しいです。
内野さん:私はSDGsに興味がない人にこそ、少しずつでも意識してもらえたらいいなと思っています。
そのために50cm.から、多くの人が何気なく社会に目を向けるきっかけとなるような情報発信やイベントをどんどん行っていきます。
ゆくゆくはいろんな同世代の人と日常会話をする感覚で気軽に社会問題について議論できる未来を目指したいです。
編集後記
SDGsの解決に向けて行動する50cm.の内野さん、小野さんが取材にご協力くださった今回。
日々自らの考えで行動する現役高校生と話す貴重な機会に、筆者自身のSDGsへの意識を振り返るきっかけとなりました。
近年、SDGsという言葉をよく耳にするようになり、その必要性を感じる一方で、そもそもの本質を見つめることはなかったと反省しています。
彼女たちと話す中で、SDGsを、どこか自分とはかけ離れた理想像のようにとらえていた自分に気づいたのです。
だからこそ、自分の持つ興味や、日常にあるちょっとした違和感が、社会課題への問題意識につながるというお二人のお話には衝撃でした。
こうしたちょっとした気づきへの考えを深めていくことこそ、まさに探究ですね。
この記事を読んだ皆さんも、ぜひ今生きている日常への視点を、ちょっとだけ変えてみてはいかがでしょうか。
(執筆:佐瀬 友香/THINK TANQ編集部)
取材日:2021年12月9日