戦後から現在に至るまで、日本の学習スタイルは多くの知識を身につけるインプット型が中心でした。
しかし、昨今ではインプットした知識をさらにどのように活かすかといった、アウトプットに重点を置いた学習に注目が集まっています。
この背景には、目まぐるしく社会の状況が変わる中で、子どもたちが自分自身で考えて決断していく力を備えることが、生きることに直結すると考えられるようになったことがあります。
新型コロナウィルスの流行によって生活が大きく変容したように、いつ何が起こるかは誰にも予測ができません。
このように、予測不可能な時代のことが「VUCA時代」とよばれ、最近注目されています。
VUCA時代にはIT化やグローバル化によって、仕事や働き方に大きな変化が起こるといわれています。
仕事だけではなく、衣食住に関係することや他者との関わり方など、現在において当たり前の行動が次の瞬間に「当たり前」ではなくなるかもしれません。
そこで今回は先の見えない「VUCA時代」を生き抜くために必要な「探究学習」について解説していきます。
目次
- 予測不可能な時代「VUCA」とは 当たり前がない時代
- 2030年、VUCA時代の日本社会について
- 探究学習はこれからの時代に必要である
- 探究で何を学び、何を身につけるか
- 探究学習における指導の課題
- 今こそ、子どもたちに探究を
予測不可能な時代「VUCA」とは 当たり前がない時代
「VUCA」という言葉を初めて聞く人もいれば、どこかで聞いたことがあるという人もいるでしょう。
VUCAとは、
Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった言葉です。
要するに、どうなるかわからない、だれも予測できないことがおきるのがVUCAの時代です。
例えば、Netflixのような動画サブスクリプションが台頭し、テレビがなくても手軽に映画やドラマが観れるようになりました。
その結果として全国のビデオレンタルショップは規模を縮小し、またテレビを持たないという若者も増えました。
もはや、「当たり前」や「常識」は、存在しないといっても過言ではありません。
そのため、これまでの言われたことをただやるだけの機械的な考え方ではなく、自分で考えて行動する、自分の意見を持つといった「主体性」が求められるのです。
2030年、VUCA時代の日本社会について
2030年の日本社会について文部科学省がまとめたデータを元に見ていきましょう。
2030年の日本は少子高齢化がより加速し、65歳以上の割合が人口の3割に到達すると予測されています。
その後は人口減少も相まって、高齢化に歯止めが効かず、より深刻な問題になるでしょう。
(出典:文部科学省)
さらに、生産年齢人口も比例して減少し、それに伴う働き手の不足や介護、医療体制など多くが問題となっています。
下のグラフを見ると、約10年毎に1500万人ずつ生産年齢人口が減少していることがわかります。
2030年の時点で高齢者との比率が1:2と、働き手2人で高齢者1人を支える社会になると予測されています。
(出典:文部科学省)
また、仕事に目を向けると、急速なグローバル化や情報化、技術革新によって職業のあり方が大きく変化するとされています。
オックスフォード大学のマイケル・オズボーン氏は、今後10年から20年で半数近くの仕事が自動化されると予測しています。
多くの仕事が変化するとなれば、子どもたちは今以上に、答えのない問いに向き合うことが求められるでしょう。
VUCA時代ではこのような課題に直面するため、これまで教育の目指していた「生きる力」を育むことに再度焦点が当てられています。
探究学習はこれからの時代に必要である
これからの予測不可能なVUCAの時代を生きていくために必要な学習が、「探究学習」だとされています。
どうして探究学習が注目されているのでしょうか。
それは、探究的な活動が自分の知識や情報を総動員させながら、問いに対して自分なりの考えをまとめ表現していくという、今まさに求められている力を身につけられる学びのスタイルだからです。
予測不可能な時代でも主体的に目の前の課題に向き合い、自らの人生を生き抜く力を培うという点でも重要性が高いのがわかりますね。
2022年度からは、高等学校において「総合的な探究の時間」が本格実施されます。
小学校・中学校で行われてきた「総合的な学習の時間」を基盤に、「探究の見方・考え方」を働かせて課題を発見し解決していく能力を育むことが期待されています。
次に探究学習の進め方を見ていきましょう。
(出典:文部科学省「高等学校学習指導要領」)
探究学習では、
①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現
というプロセスを繰り返していきます。
課題に対し、ぐるぐるとプロセスを繰り返していくうちに、日常生活にも探究的な考え方を応用できるようになっていきます。
これが、探究学習に期待される「生きる力」につながります。
日常から自己や社会の課題を見つけ出し、プロセスを応用しながら解決の糸口を探ることができれば、どんなことが起こっても自分で対応していくことができるのです。
探究で何を学び、何を身につけるか
探究学習では、課題発見や解決の手法を学ぶだけでなく、他者との関わりをもつ上で重要になる「協働性」を身につけることも期待できます。
たとえば、「総合的な探究の時間」では共通の課題に対してチームで考えていくグループワークも頻繁に行われます。
チームで探究のプロセスを繰り返していくこと。また、そのチームの中で、自分ができることを進んで行い、協働していくこと。
そして自分だけでなく他者の意見や視点を捉えることで、物事の多様さを理解していく。
これこそ、「生きる力」そのものであり、どんなことも起こり得るVUCA時代において必要とされる力です。
もちろん、生きる力を身につける探究は、たった一度で完結することはありません。
課題や実施内容を決めれば実際に行動に移し、振り返りをして次への準備を始めて、繰り返していくことが重要になります。
探究学習における指導の課題
生きる力を育む探究学習は指導も一筋縄ではいきません。
特に生徒の興味関心を引き出すことは、先生や指導者の技量が必要不可欠です。
そこで重要なのが「問い」です。
ただ単純に興味のあることは何か?と聞くだけでは、生徒から答えが返ってこないこともあるでしょう。
そんなときは問い方を変えて、
「最近の気になるニュースは?」
「最近疑問に思った出来事は何か?」
と切り口を変えてみましょう。
そうするだけでも、同じ興味のあることでも違った答えが引き出せます。
この問いが探究学習における最大の課題であり、より生徒の学びを加速させる鍵を握っています。
問い方を工夫すればよりよい課題設定や振り返りとなり、生徒の主体性を引き出すことができるので、ぜひ探究の指導の際にはヒントにしてみてください。
今こそ、子どもたちに探究を
これからの予測不可能なVUCAの時代を生き抜くために、探究学習で主体性や協働性、自分の課題に自ら向き合っていく力を培うことが重要になってきています。
しかし、探究学習は一筋縄ではいきません。
生徒の意欲や考えを引き出すには、問いを工夫し、適切な課題設定と振り返りが大切です。
子どもたちがこれから必要な課題解決力を身につけるために、問いから始まる探究学習に取り組んでみましょう。
(執筆/堂本 杜和)
記事公開日:2021年11月18日