なぜ、大学は総合型選抜に力を入れるのか? ――大学が語るこれからの時代に求められる人材像

高校における探究学習×入試との向き合い方


――「探究学習と入試対策、どちらを優先させるべきか……」

先生方から、こんなお悩みの声を聞くことがあります。たしかに、学校生活の限られた時間の中では、生徒の進路のためにより効果的な学びを提供したいと考えるのは自然なことですよね。でも、少し考えていただきたいのは、そもそも“どちらか”を優先させると考えるべきなのか、ということです。

大学進学を目指す生徒であっても、長い人生の中で見た場合に大学入学は通過点でしかないと思います。大事なのは、大学に入ってから何を、どのように学んでいきたいのか。これが明確になっていないと、入学すべき適切な大学を選ぶことは難しいですし、入学自体が目標になってしまうと、大学生になってからの学びの動機が失われてしまいます。

高等学校学習指導要領の総合的な探究の時間の第1の目標として下記が掲げられています。

探究の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。

『高等学校 学習指導要領(平成30年告示)』/文部科学省(2022年10月27日に利用)

これは、探究学習はすなわち、各教科・科目等で学んだ「見方・考え方」を統合的・総合的に働かせ、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら探究することのできる力を育成するものとされています。つまり、探究することは進学を含めた生徒のキャリア形成に接続されるもの、だといえるわけです。

このような探究学習と大学進学の接続について、受け入れる側である大学の考えが述べられたのが、2022年10月15日に関西大学主催で行われた教員向けセミナー「探究学習で入試をリード! 総合型選抜の”ブラックボックス”を紐解く」です。

VUCA時代に求められる人物像

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本稿では、同イベントの第1部に登壇した桐蔭横浜大学学長である森朋子氏の「探究学習で入試をリード!総合型と大学の接続を本気で考える」という講演について触れたいと思います。

森氏は、学力には「見える学力(学んだ力)」「見えにくい学力(学ぶ力)」「見えない学力(学ぼうとする力)」という3つの要素があるとし、従来は部活やイベントで育成してきた「見えにくい学力(学ぶ力)」「見えない学力(学ぼうとする力)」を含めてカリキュラムで組織的に育成していくことを目指すべきとしました。

その背景にはVUCAと言われる時代としての特性があり、社会から求められる力、そして働き手の意識が変化してきていることを挙げました。そのため、企業としては、ビジネスチャンスを生かし、国際競争力を発揮できる人材として、「見えない学力」「見えにくい学力」を備えた人材を求めているといいます。

また、社会人予備軍となる人材の育成を行う大学でも、求めている人材像が変化していると森氏は続けます。森氏は立命館大学の大学新聞を取り上げ、「(在学中の学生の)10%が退学を検討、25%が休学を考えている」という調査結果が掲載されたことを紹介しました。

その理由として、学ぶことへのミスマッチやチャレンジできない、学習に関して主体的・自律的ではない、などの学生の実態が挙げられており、これを回避するためにも「見えにくい学力」「見えない学力」を備えた高校生を大学も求めているというのです。

そうした背景もあり、今では大学入試が多様化して総合型選抜による募集枠も広がりを見せているのは、みなさんもご存知のとおりです。

全ての入試が総合型選抜に置き換わるわけではないものの、生徒の意思や特性に合わせて一般入試・学校推薦型選抜・総合型選抜などを選んでいくと良いとして、森氏は講演を締めくくりました。

◇ ◇ ◇

VUCAな時代に突入し、それに伴って社会の要請が変化し、そのための人材育成も方針転換が求められています。大学の学びを実りあるものにするためにも、そこに接続する高校での探究は生徒のキャリアにとって大きな影響を与えるのではないでしょうか。

教科・科目での学びを総合的・統合的に活用していくためにも、探究する力を効果的に育んでいく仕組み作りが高校の現場にも求められているといえそうです。

THINK TANQでは、今後も総合型選抜・探究入試について、掘り下げて行きたいと思います。

執筆:小川史晃(THINK TANQ編集部)

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