探究活動を通じて身につける「8つの力」とは? 関西を代表する進学校が続けてきた探究活動とその効果

★こんな先生方にオススメ★

  • 進学校における探究活動に興味がある方
  • 進学と探究の両立に課題感をお持ちの方
  • 学校独自の探究スタイルを作り上げていきたい方

2022 年に創立126年を迎えた神戸高校は、兵庫県下で最も伝統のある高校のひとつであり、有数の進学校でもあります。

SSH(スーパーサイエンスハイスクール)の指定も複数回受けており、かねてより高校理数教育推進の中核的役割を果たしてきました。

そんな同校における探究活動への取り組みは、総合理学科の「課題研究」と普通科の「神高探究」として知られ、その内容も年々進化し続けています。

今回の記事では、「神高探究」を主導する総合理学探究部部長の岡田和彦先生、次長兼探究活動担当の桑田克治先生に、進学実績と両立した神戸高校ならではの探究について伺いました。 

左から岡田和彦先生、桑田克治先生

1年生から学ぶ探究の基礎、ルール

神戸高校では、2022年度から1年生の探究の授業の教材として『一生使える探究のコツ ~入門編~』が導入されました。

桑田先生は「カリキュラムの改編にあたって、これまで2年生のみの実施で、内容を少し詰め込みすぎたという意見もあったことから、今年度の新入生から1年生での探究活動を開始することになりました。最初は講義と演習から始めたいと思い、何か良い教材はないかと探していたところ、この教材にたどりつきました」と経緯の説明がありました。

『一生使える探究のコツ ~入門編~』は段階的に探究しながら、探究のコツを学べる初心者向け教材です。

最短10コマで探究の流れを学べるので、導入教材に最適です。
神戸高校は65分授業のため、それを6コマ分に改編して実施しました。

『一生使える探究のコツ ~入門編~』

岡田先生は「1年生のうちにまずはじっくりと理論を教える必要があります。参考文献の引用ルールなど探究を進める上でのルールをしっかりと浸透させることで、2年生の探究へとスムーズに移行できるようになると思います」と基礎の大切さを話されました。

もっとも、基礎的な学びから得た理論やルールを実践する場も必要です。

神戸高校では、1年生の後半から、プロジェクト探究1という名前で、各クラスで3名以上のグループを作り、テーマを決めて、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現までの探究の流れを体験する実践的な活動を行っています。

こうした基礎的な活動が、後述する2年生からの探究活動にもつながっていくのです。

探究における基礎の重要性を説く桑田先生

「神高探究」の要、2年生の一年間をかけて行うグループ探究

2022年度における神戸高校の2年生は、一年間で2回の探究活動を実施しています。

最初の3カ月は、探究活動の一通りの流れを体験する事に主眼を置き、先生から提示されたテーマを一つ選び、グループで探究活動を行います。その後、自分たちで半年をかけて探究するテーマを立案し、6月に本テーマを決定していきます。

また、2年生の探究では、テーマごとに3人以上のグループを作って取り組むのが大きな特徴と言えます。

「文系の生徒が理系のテーマを、逆に理系の生徒が文系のテーマを選ぶこともできます。テーマは自由ですが、取り組むうちにテーマがどんどん変わってくるグループもありますし、チャレンジしてみたけれども遂行が難しくテーマ変更となるケースもあります。それでも6月に作ったグループで最後まで一緒にゴールを目指します。グループによっては、男子の中に女子がひとり、その逆、といった例もあり、グループ構成もさまざまです。」(桑田先生)

神戸高校では毎年約70グループが発表を行うとのことですが、担当する先生方が、一人4グループ程度約20名の生徒を担当として持っています。

テーマの中には、専門分野の知識が必要になってくる場合もあります。

「例えば、化学系の実験を伴う場合、専門的な知識を持った教員がサポートしたほうが望ましいケースも出てきます。そうした難しいテーマにも対応できるよう、先生の得意分野も考えながら担当を決めています」(岡田先生)

このように生徒と先生が伴走して探究に取り組んでいることも、神戸高校における探究の特徴といえます。

生徒たちが一つのゴールとして目指す先は、2月の発表会。ここに至るまでにも中間発表会やポスター発表会など、成果を共有する場が複数あります。

また、発表会には後輩である1年生も参加することで、彼ら自身が来年行う探究活動へのイメージをつかむなど、先輩の背中から学ぶことができる仕組みとなっています。

探究を進める中で、テーマに沿った資料集めや実験、データ分析などを積み重ねながら、節目で発表を行うことで、生徒たちは自分たちに足りない点や新しい視点に気付いていきます。このように試行錯誤とチャレンジを繰り返すことによって、探究活動が深められていくのです。

トモノカイの質問に答える岡田先生

「神高探究」を牽引する総合理学科の取り組み ~“8つの力”を育む~

神戸高校には、普通科の他に、自然科学に強く国際社会で活躍できる人材の育成を狙いとした総合理学科があります。「神高探究」のベースとなっているのは、総合理学科2年生を対象としてかねてより行われてきた「課題研究」です。

神戸高校では、将来、生徒が国際社会で活躍するために身につけてほしい力として「グローバル・スタンダード(8 つの力)」を挙げています。

神戸高校の掲げるグローバル・スタンダード(8つの力)

8つの力は、「問題を発見する力」「未知の問題にチャレンジする力」「知識を統合して活用する力」「問題を解決する力」(コアの力)、「質問する力」「議論する力」「発表する力」「交流する力」(ペリフェラルの力[周辺領域の力])で構成されています。

「課題研究」で行われるグループでの探究、すなわち少人数での共同研究は「コアの力」を、中間発表会などを始めとする複数回の成果発表は「ペリフェラルの力(周辺領域の力)」をそれぞれ育むことを目的としています。

長い時間をかけて行われる探究で身につけられるこれらの力は、今後、社会に出て必要とされる正解のない問いに自分で向き合う際にも役立ちます。

総合理学科で行われてきた「課題研究」は、関西を代表する進学校である神戸高校の実績を支える主軸ともいえましょう。

なお、「課題研究」の担当教師は理科5名、数学科2名。家庭科1名の計8名。

「課題研究」では、生徒40人が各担当教師のもと、8班に分かれて1年間の研究活動を行うため、非常に手厚くきめの細かいサポートができる体制が整っています。

また、中間報告会や課題研究発表会にはOBやサイエンスアドバイザーを中心とした研究者が招かれるほか、先輩である3年生も参加して、2年生に質問をするということもあり、レベルの高いフィードバックが行われていることが分かります。

前段で触れてきた普通科の「神高探究」は、まさにこの「課題研究」の取り組みをなぞらえたもの。

桑田先生は「総合理学科の生徒は、課題研究を通じて相当シビアに鍛え上げられます。この取り組みを神戸高校全体にどう落とし込んでいくかが本校の一つの課題でした」と語ります。

同校では現在も、総合理学科での先行したノウハウを活用しながら、全校的な探究への取り組みを展開しています。

かねてより校内で行われている取り組みを主軸として、全校的に探究的な学びを広げていくという事例は参考になるのではないでしょうか。

また、神戸高校にみられる「8つの力」の育成を目標に置いた課題研究のように、学校全体で掲げる育てたい生徒像や学校像を探究活動につなげて考えることは、学校全体での共通認識が生まれ、探究に対する目線を合わせやすくなるという点も、参考になります。

探究的な学びが進学の武器に

自分たちでテーマを選び、実験・調査・検証を重ね、大勢の前での発表につなげていく。長い時間をかけて丁寧に行われる一連の探究活動は、生徒たちの「自ら考える力」を育む土壌となっていきます。

自ら考える力がつくと、例えば「将来どうしていきたいか」 「何を成し遂げたいか」といった、今後の進路を考えていくなかでぶつかる正解のない問いについても向き合うことができるようになります。

つまり、今後のキャリアを考えていくうえでも、探究的な学びは欠かせないものと言えるのではないでしょうか。

トモノカイの探究教材も適宜参照しながら取材を行った

また、単なる知識のアウトプットではなく、自分の考えを他者に対して的確に伝える表現力や、課題解決に必要なものを取捨選択する判断力などを問う入試が増えている現状からも、自ら考え主体的に課題に取り組む姿勢は、むしろ今の大学受験に求められている力とも言えます。

実際に、自身で進めた探究テーマが希望する大学への入学に直接つながったという生徒もいるという神戸高校。

このことからも、探究活動の取り組みは大学進学と切り分けられるものではなく、探究そのものが進学の武器にもなり得ることが分かります。

探究活動と受験勉強の優先順位に悩まれる先生方の声を伺うことがありますが、これら2つは互いに邪魔をし合うものではなく、むしろ探究で身につけた課題解決に向けて自ら考え、取り組む姿勢やそれで培った力こそが、大学進学を支える礎となるのではないでしょうか。

総括

神戸高校の探究は、テーマ選定から生徒の主体的な取り組みに任せています。

だからこそ、ときには、テーマ選定が難航してしまう場面もみられますが、そんなときは担当の先生たちが伴走し、生徒のやりたいことを見極めながら軌道修正を手伝います。

進路と探究学習の関連性について不安や懸念がある先生方にとっても、非常に参考になるような神戸高校の事例をお伝えしました。

これから探究学習に本格的に取り組まれる際にも、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

岡田先生、桑田先生、ありがとうございました

※掲載内容は取材時点(2022年6月)のものです。


今後も、探究的な学習においてお悩みの先生方のお役に立てるよう、様々な角度から取材を行い、事例を紹介して参ります。

<兵庫県立神戸高等学校にご導入いただいている教材>

『一生使える探究のコツ 入門編』

トモノカイの探究教材『一生使える探究のコツ』シリーズご紹介ページはこちら


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執筆:李香
企画/編集:佐瀬友香(トモノカイ)

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