2022年度から本格的に導入が始まった「探究」。日々、実践していく中で見えてきたお悩みを抱えておられる先生方も少なくないかもしれません。
日ごろからそのような声をお寄せいただいているトモノカイはこのたび、先生方に探究推進にまつわる“モヤモヤ”を持ち寄って共有してもらう場として開催された「みんなで探究セッションMeetUp」というオフラインイベントのお手伝いをさせていただきました。
この記事では当日の様子をお伝えします。
モヤモヤを共有するオフラインイベント
今回、初開催となった「みんなで探究セッションMeetUp」は、「学校で探究学習を広げていきたい!」「今やっている探究学習を深めたい!」と考えている先生が現場で抱える探究へのモヤモヤを、学校の垣根を超えて共有しあい、新しいヒントや学びを得られるようにと生まれた場です。
記念すべき初開催は、神奈川県大船駅から歩いて数分の場所にあるコワーキングスペース「はじまる学び場。」で行われました。
まるで森の中へ遊びに来たような空間が、参加者の緊張をほぐします。
今回は総勢10名の参加者がおり、参加した学校のOB生の参加も見られました。
会場に入ってすぐに、葉っぱを形どった紙が一人一枚渡されました。
ウェルカムアクティビティとして、ここに書き込むのは「あなたにとって“探究”とは? 一言で表してください」という問いに対するそれぞれの解です。
「難しい!」という声もちらほら上がっていたものの、全員がそれぞれの想いを書きあげ、会の終了まで手元に置いておきます。
この会が終わった後に、どんな変化があるのでしょうか。
およそ定刻の18:30より、吉田(株式会社トモノカイ)による進行のもと、会がスタート。
一つ目のプログラムは自己紹介です。
ここでは「相手が知らないであろう自分の一面」を必ず一つ添えて自己紹介をするというテーマで、メンバーを入れ替えながら2回実施しました。
当日は同じ学校同士の先生方も参加していましたが、普段関わりのある相手が知らないことを考えるというのは意外と頭を使います。
しかし、意外な趣味や特技などが飛び出したことで話が広がり、どのチームもスタートから大変な盛り上がりを見せました。
ちなみに、本イベントのコンセプトは「ゆるくラフに」。
軽食やドリンクを片手に語り合える場なので、適度に肩の力が抜けた雰囲気が生まれ、初対面の先生方同士も気軽に交流できていました。
みんなのモヤモヤをみんなでシェアする時間
大盛り上がりの自己紹介で会場も温まったところで、いよいよ次のプログラム。
実は先生には事前に、下記2つについてのモヤモヤを用意してもらっていました。
①探究の枠組みについて
- 探究カリキュラムの悩み(時間数の確保)
- 組織上の悩み(他の先生方との温度差など)
- 外部連携の悩み(連携先が見つからないなど)
- 評価の悩み など
②探究内容について
- テーマ・課題設定の悩み(テーマが決まらない・曖昧など)
- フィードバックの悩み(どうフィードバックするかなど)
- 探究が深まらない悩み(調べ学習的になるなど)
- 専門性のカベの悩み(先生の専門分野で対応しきれないものが出てくるなど) など
これらを匿名の“モヤモヤカード”として机に並べながら、気になるテーマについて話していくというものです。
まずは「①探究の枠組みについて」のカードを並べ、皆で眺めていきました。
「“いい評価”を得るための問いを立てて、やりたいこととは離れた探究をしようとする生徒がいる(それって探究なのか?)」
「先生間で温度差がある」
「“やること増えた感”でテンション上がらない点」 ……。
現場で日々探究に向き合っている先生方の切実なモヤモヤたち。
特に「温度差」や「時間不足」に関連して、似たような悩みを抱えている方もいました。
論点の一つとなったのは
「長年培ってきた総合『学習』に対する愛着。」というモヤモヤです。
その学校では、「総合的な探究の時間」が必修化するよりも前から、総合学習としていわゆる探究的な活動を色々と行っていました。それが「探究をやらなくてはいけない」と変化したことで、これまで行ってきた愛着も歴史もある総合学習を簡単になくしたくないという先生方と、そこに代わってしっかり探究学習としてのカリキュラムを改めて構築していかねばならないと考える先生方が存在してしまう構図が生まれたといいます。
これはすなわち、探究に対する温度差にも直結するところであります。
やはり先生同士の温度差といった、学校全体での探究への向き合い方については課題に思う先生方も多いようで、議論は細かい学校の事例にまでおよぶほどに白熱していました。
ほかのテーマにも議論が広がりつつ、次は「②探究内容について」に移ります。
カードには、こんなモヤモヤが並びました。
「学校でやる必要があるのか…」
「専門外の内容の伴走、また接続先が地方だとなかなか見つからない」
「テーマについて、進路と結び付けさせるべきなのか、それとも自分の興味を
とことん突き詰める方がよいのか。」
先の話題とも関わりがあったので、カード内に書かれているテーマに限らず話題は広がり、先生たちは思い思いにモヤモヤをぶつけていました。
中でも「生徒に最初から“探究”という言葉で表現してしまっていいのか」というある先生からの問いかけは印象的な話題の一つでした。
「自分たちでも“探究”そのものをよく理解しきれていない間に、生徒にもそれをそのまま伝えるのはすごくレベルが高いことだと感じています」。
これには共感の声も多くあがりました。
「総合的な探究の時間」が高等学校で必修化となってから1年以上がたった今、探究の授業や内容以前に、そもそもの根本的な概念にモヤモヤを抱えている先生も少なくないということがわかりました。
参加者の想いが集まり葉が生い茂る
話は尽きず、あっという間に終了時刻に。
ここで、もう一枚新しい葉っぱの紙が配られ、改めて皆さんに問いかけがありました。
「あなたにとって“探究”とは? 一言で表してください」。
表現は人それぞれであるものの、全体を眺めてみると、良い意味で最初より肩の力が抜けたような回答が増えた印象です。
最後には、一人ひとりが葉っぱの紙を見せつつ、本日の感想を発表しました。
「今の時代には素材も機会も恵まれていると改めて感じたからこそ、探究に本気で取り組まないのはもったいないことに思えた」
「先生も生徒も関係なく、みんなが探究をしているところなんだと感じた」
「探究についてのモヤモヤはこれからも生まれるけれど、話し合うことで気づけることもある。このまま一緒に頑張っていこう!」
それぞれの感想に拍手を送りつつ、お互いに気持ちを高め合って会は終幕しました。
会全体を通じて共通していたのは「うちの学校ではこんなこともあった」「どこかの学校ではこんなこともあったらしい」というように、学校の壁を越えた交流の場でこそ共有できる情報がたくさん出ていたことです。先生方それぞれがもつ情報を共有し合いながら対話を重ねることで、新しい発見や気づきにつながっていたように思います。
また、ラフな雰囲気だからこそ話せる本音もあり、日頃のモヤモヤがだいぶすっきりしたのかもしれません。
帰る先生方の表情は来た時よりもどこか明るく、足取りも軽やかに感じました。
開かれた場こそ探究推進には必要
教科の指導に学校行事、進路指導など多くの業務があるなかで、探究という大きな労力がかかる活動も推進していく難しさを感じる、という声をよく耳にします。なかなか学校全体での体制にならないという学校も多いようで、そうした環境で孤軍奮闘されている先生も、本記事の読者の中にもおられるかもしれません。
しかし、今は生徒の探究と同じように、先生も探究を探究している状況であると言えると思います。そう捉えると、探究に必要な社会との接続という観点からも、やはり校外にも目を向けて、同じく探究を探究している先生とつながることが、より良く推進していく手段の一つになるのではないでしょうか。
今回のイベントでも見えてきたように、同じようなモヤモヤを抱えている先生方は多くいらっしゃいます。そうした先生方とモヤモヤを共有することで、新たな進むべき方向が見えてくるかもしれません。
今後も、トモノカイでは、先生方が開かれた環境でつながれる場づくりのお手伝いをしてまいりますので、ぜひご興味をお持ちの方は、お気軽にご参加いただければと思います。
(執筆:日本探究部 編集部 佐瀬友香)