新時代の教室をリードする探究学習とは?:教員向けガイドと実践事例

新時代の教室をリードする「総合的な探究の時間」(以下、探究学習)は、生徒が自ら取り組みたい問いを見つけ、それを追求、考察し自分なりの考えを深めていくための力を育む教育です。この記事では、探究学習とはなにかをあらためて整理し、教員に期待される新たな役割、学校での実施事例、そして探究学習を成功させるための提案までを紹介していきます。

VUCA時代と呼ばれる予測不能な現代社会において、生徒たちが将来直面するであろうさまざまな課題に対応するための力を養うことが求められています。教育の現場で、教員が生徒の未来のために探究学習をどのように活かし、どのように生徒とともに成長していくかの参考としてお役立てください。

探探究学習の重要性とその必修化の背景

現代社会は、情報技術の急速な発展や経済開発とともに、持続可能性の低減や格差の拡大など、未知の問題に直面する機会が増加しています。従来の理論だけでは解決できない課題を抱える社会の流れに対応するため、教育現場では生徒たちが自ら問いを立て、その解を得るためになにができるかを考える力を育む「総合的な探究の時間」を中心に実施される探究学習の重要性が高まっています。

この探究学習は、2022年の学習指導要領の改訂により高等学校で必修化された新しい科目です。必修化から一定の時間が立った今、生徒たちが将来、社会のさまざまな場面で活躍できるように探究学習をめぐる教育環境が整い始めています。

学習指導要領における探究学習の目標

※高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間 編 P11より引用

学習指導要領における探究学習の目標では「自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力」を育成することを目指すと目標として明記されています。
生徒は自分の興味や関心を出発点に、情報収集、整理・分析、まとめ・表現というプロセスを経て、主体性や他者との協働性を身に付けていきます。これは予測不能な現代社会の課題を解決していくために重要な資質・能力なのです。

「VUCA」な時代の探究学習が育む生徒の力とは

先にも触れたように探究が求められる社会的背景には、グローバル化、戦争、異常気象による災害など世界を取り巻く状況が1日単位で変化する予測不能な時代となっていることが挙げられます。
このような時代のことを「VUCA」と呼びます。
VUCAとは、「Volatility (変動性)、Uncertainty (不確実性)、Complexity (複雑性)、Ambiguity (曖昧性)」を意味する言葉で、現代社会が直面している状況を表します。
この時代を生き抜くためには、不確実性を乗り越え、迅速に適応する力が必須と言われています。

また、このようなVUCA時代の課題に対応するためには、既存の知識や技術だけでは不十分で、新たなアイデアや解決策を生み出す創造力が必要です。
さらに、これらは国境を越えて影響を及ぼすため、グローバル/グローカルな視点に立った異文化理解や国際協力の精神も同時に求められます。探究学習は、これらの社会的背景に対応できるようになるための教育として、今後もますますその重要性を増していくことでしょう。

大学入試も変化ー学生とのマッチングを重視

VUCA時代への変遷を背景に大学入試も変化しています。単なる知識の暗記を超え、問題解決能力、批判的思考力、そして特に探究心を重んじるようになってきました。

※文部科学省 令和3年度国公私立大学・短期大学入学者選抜実施状況の概要より引用

総合型選抜や学校推薦の枠が拡大し、これから入試の主流になる可能性が大きいといわれています。実際、この文部科学省が発表した図にあるとおり、総合型選抜を利用した大学入学者が増えてきているのも事実です。
これは、大学も「自分の興味関心をつき詰めて考えられる人材」を求めているためです。
このような動きは、ひとつの見方として、学生自身が自分の好奇心や関心を追求し、深い学びに没頭するチャンスが拡大していることを示しているとも言えるでしょう。

探究学習の進め方:探究サイクル

それでは、探究学習は具体的にどのように進めるのでしょうか。下図は学習指導要領で挙げられている探究のサイクルを表した図で、この一連の学習サイクルを繰り返して取り組んでいきます。

探究のサイクル

※高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説 総合的な探究の時間 編 P12 をもとにトモノカイで作成

探究サイクルを通じて、生徒たちは自らの手で学びを深め、新たな知見や解決策を導き出します。さらに、表現(成果)をそのままで終えず、周囲からのフィードバックなどを通じて、自分の探究成果に不足していることやできなかったことを把握し、次に向けて新たな課題(問い)を生み出し、最初に立てた問いをスパイラルアップして自分の問いを磨いていきます。こうした取り組みを繰り返すことにより、生徒たちの探究的な視点を養うことにつながっていきます。

探究サイクルの各ステップの解説

探究学習における探究サイクルは、生徒たちが自らの学びを深め、問題解決能力を養うための重要なプロセスです。
ここでは、探究サイクルを構成する各ステップについて詳しく解説します。

探究学習の最初のステップは、課題設定です。この段階では、生徒たちは興味・関心のあるテーマを見つけ出し、それを具体的な課題(問い)として設定します。

課題の設定ができたら、次に必要な情報やデータを収集します。この段階では、図書館の資料、インターネット、専門家の意見など、様々な情報源から必要な情報を得ることが必要です。学校内外でアンケートを行ったり、企業や自治体などに話しを聞きに行くなども有効な手段です。

収集した情報をもとに、整理と分析を行います。このプロセスでは、情報を整理し、問題の本質を探ります。また、情報の信頼性を評価し、異なる視点から考えることも重要です。

実験や調査の結果をもとに、結論を導き出します。この段階では、収集したデータや証拠を分析し、問題に対する解決策や新たな知見を明らかにします。
最後に、探究の成果を他者に伝えるための表現を行います。レポートの作成、プレゼンテーション、ポスターセッションなど、様々な方法で成果を共有していきます。
このプロセスは、生徒たちが自らの取り組みを振り返り、他者とコミュニケーションを取る機会となり、ここからさらに新たな問いを見つけていきます。

学校での探究学習の実施事例

探究学習の必修化から一定の時間が経つ中、学校現場ではさまざまな取り組みを行っており、学校ごとに個性や特色が出てきました。以下では、高校で実施されている探究学習の具体的な事例を紹介します。

ゼミ、プロジェクト形式で先生も積極的に参加できる個人探究を実現

東京都立成瀬高等学校では、「成瀬BB!プロジェクト」という3年間のプロジェクトとして探究を行っています。1年次はチーム、2年次はゼミに分かれて探究に取り組みます。
「#(ハッシュタグ)」を活用して先生と生徒をマッチングさせるなど、生徒も先生も楽しみながら探究に取り組める工夫を行っています。

詳しくは、下記の記事でご紹介しています。

地域協働を通じて身近なテーマから視野を広げて生徒の主体性を引き出す

兵庫県立伊丹高等学校は、地域社会と連携した探究学習に力を入れている学校です。たとえば、地域の歴史や文化に関する調査研究、地域の環境問題に取り組むプロジェクトなど、多岐にわたるテーマで地域協働の取り組みを実施しています。

生徒たちは、地域の人々や団体と協力しながら、実社会の問題に対する解決策を模索します。このプロセスを通じて、生徒たちは地域社会に貢献するとともに、実践的な学びを深めることが可能です。

詳しくは、下記の記事でご紹介しています。

市販教材を取り入れて体系立ったカリキュラムを設計

大阪府の早稲田摂稜高等学校は、早稲田大学の系属校で定員30人で構成するWコースに探究学習用の市販教材を導入。
1年次の探究プロセスの学びやレポート作成などを経て、2年次はゼミ活動と集大成として文化祭での論文発表を行っています。
市販教材を指針として使い三年間の系統立った独自カリキュラムを作った探究の事例です。

詳しくは、下記の記事でご紹介しています。

▼この事例記事は、PDFで無料ダウンロードできます。
https://go.tankyu-skill.com/l/974063/2024-03-13/4cpdj

教員に期待される新たな役割

探究学習の普及に伴い、教員には従来の指導方法とは異なる新たな役割が必要となります。

探究学習における教員のポジションとは

探究学習において、教員は知識の伝達者というよりも、学習プロセスをガイドするファシリテーターとしての役割を大きく求められるようになります。教員は生徒が自ら問いを見つけ、解を探究する過程を支援し、フィードバックを通じて、生徒が探究に夢中に取り組めるよう支援することが重要です。

伴走者、指導者、メンターの役割

教員は探究学習のプロセスで生徒を支援するために、「伴走者」「指導者」そして「メンター」という主に3つの役割を担います。

「伴走者」として、教員は生徒が直面する挑戦や困難に共感し、励ましとサポートを行います。伴走者の存在は、生徒が障害を乗り越える過程で重要なものです。

「指導者」としての役割では、教員は生徒に情報収集や批判的思考、プレゼンテーション技術など、探究活動を進める上で必要な知識やスキルを教えます。これにより、生徒は自立して学ぶための土台を築くことが可能です。

また、「メンター」として、教員は生徒の個別の興味やニーズに対応し、目標設定や自己反省を通じて個人的な成長を促進します。この役割を組み合わせることで、教員は生徒が自信を持って新たな挑戦に臨み、学びを深める過程を効果的に支援することが可能です。

探究学習を通じた教員自身の成長

探究学習は、生徒だけでなく、教員自身の成長にも寄与します。教員は、新しい教育方法や技術を学び、授業設計や学習評価の方法を革新する機会を得ることが可能です。

また、生徒との対話や協働を通じて、教員自身の教育観や価値観を深めることができます。教員は自らも探究者としての姿勢を養い、教育実践における新たな洞察を得ることができるでしょう。

探究学習を推進するためのヒントと提案

探究学習は、生徒にとっても教員にとっても、学びのプロセスを豊かにし、生きる力を身に付けるための重要なアプローチです。

探究学習による「自分なりの変化・変容」

探究学習を通じて、生徒は自らの興味や関心に基づいて学び、自分なりの変化や変容を経験します。このプロセスは、生徒が自己のアイデンティティを探究し、自信を持って新しい挑戦に取り組むための基盤を築き上げるものです。

教員は、生徒一人ひとりの成長を支援し、その変化を肯定的に評価することが重要です。

探究学習の計画立案のヒント

探究学習を計画する際には、生徒のモチベーションを高めるためにいくつかの重要なポイントを考慮する必要があります。まず、生徒の興味や関心に合わせてテーマを選定するサポートをすることが重要です。
初めの課題設定に悩む生徒も多くいます。まずは自分の興味のあること、憧れることをきっかけに問いをつくることをおすすめします。
自分の興味や憧れのなかからちょっとした「違和感」「なぜ」という気持ちを問いにつなげていくと、探究のきっかけとして取り組みやすいでしょう。

さらに、探究活動を支えるために必要な情報やツール、外部の専門家への質問ができる環境を整えることも重要です。生徒が探究につまづいたときに、自分だけで解決するのではなく、外部の力を頼ることもすすめると良いでしょう。

探究学習では、教員として「こうであるべき」「こうでなければならない」という意識を持つ必要はありません。教員だからといって、すべてを先導する必要はなく、生徒と一緒に考えていく、一緒に「探究」するという気持ちで臨むと良いということを、探究学習を軌道に載せている先生からもよくお聞きします。

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まとめ

VUCAな時代の“生きる力”を育む探究学習は、唯一の正解を追い求めるわけではありません。他の教科とは異なって、課題に取り組む姿勢そのものを育むことが目標の一つといえます。その過程では、生徒がわからないことは先生もわからなくても構わないのです。先生もわからないことに取り組む姿を見て、生徒も学ぶところがあるかもしれません。

先生も探究を探究する、そんな姿勢で臨んでいただくことが生徒の学びにつながっていく近道だと思います。そんな先生とともに、トモノカイでは探究を推進するサポートを全力でお手伝いいたします。

執筆:日本探究部編集部

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