大学の研究室で研究活動をリードできる人材育成を!生徒のワクワク感を大事にしたゼミ活動がメインの探究とはー。

大阪府茨木市にある早稲田摂陵高等学校は、早稲田大学(東京都新宿区)の系属校で、定員30人で構成するWコースには、早稲田大学系属校特別推薦枠が設けられています。

Wコースでは、大学の研究をリードできる人材育成をミッションに、総合的な探究の時間と、少人数での専門演習(ゼミ)に力を入れています。

本記事では、同校Wコースの探究を支える3名の先生に、3年間を通した探究活動、今年度から導入したトモノカイの教材の活用方法、生徒の活動を支えるモチベーションなどについてお話を伺いました。

本記事でお話を伺った先生
・小田泰之先生(教育企画部⾧)
・米田謙三先生(Wコース⾧)
・西田剛先生(1年W組担任/ 進路指導部)

右から、米田謙三先生、小田泰之先生、西田剛先生

1年生は教材で探究の基礎固め、その後レポート作成までを体験

早稲田摂陵高等学校Wコースの探究活動は、1年生の「総合的な探究の時間」、2〜3年生の「専門演習」に分かれます。小田先生は、Wコースの探究の位置付けについて「早稲田大学へ進学することに特化したコースなので、大学入学後に研究室やゼミに入ったとき、研究をリードできる人材を育成するためのプロセス」と説明します。

1年生では、まず探究の基礎を学びます。同校では、教材として『一生使える探究のコツ』シリーズの入門編、実践編、練習編の3冊を導入しています。

探究のコツシリーズ
『一生使える探究のコツ』入門編・練習編・実践編

「4月から秋の始めくらいまでは、入門編のテキストを使って探究の基礎的なプロセスを学びます。授業の流れもわかりやすく書かれており、この教材一冊あれば授業ができるので、フル活用していますね。」と小田先生。「その後、一人ずつテーマを設定した探究を行い、レポートが完成したら、次はプレゼンテーションに向けて、『練習編』を使って、周りの人にわかりやすく伝えるコツを学び、プレゼン力を磨いていくというイメージです」

1年間かけてまとめたレポートを基に、2年生の初頭にコース全員の前でプレゼンテーションを行います。その準備のために「練習編」を使ってプレゼンテーションのコツや必要なスキルを身につけていきます。

2年生の2学期末からは、本格的な卒業論文執筆に向けた個人での研究活動が始まり、3年生の1学期末に卒業論文を提出します。小田先生は「卒業論文執筆前に『実践編』を使って、研究計画の立て方や研究成果のまとめ方、論文を描くときの要点を指導したいと考えています」と教材の使い方の流れを説明します。

これら3年間のカリキュラムを確立するまでには試行錯誤があったそうです。「まずはいろいろなコンテンツを試そうと、関西大学に協力してもらってSDGsを学ぶ機会を設けたり、大学生が行っている国際協力について話を伺ったりしました」(小田先生)

小田先生
Wコースの3年間の探究計画
※2023年取材時点、提供資料より抜粋

取り組みを続けるなかで小田先生が感じたのが、体系立ったカリキュラムの作成と、その指針となるテキストの必要性でした。

「特に、1年生にとっては最初の問いを立てるところがとても難しい。そうした課題を感じているときに、サンプルで届いた『一生使える探究のコツ』シリーズ を手に取ったのが導入のきっかけです」と小田先生。

「教材に沿って順を追っていくことで体系立った授業ができるので使いやすいです。指導する側の経験の差に左右されない点もいいですね」とテキスト導入の効果について話していただきました。

また、体系立ったカリキュラムがあることは、生徒の探究を計画的に推進していくことにも寄与しているようです。

「これまでに1年生が進めてきたのは質的研究(インタビューや記録などの主観的データを基に研究対象の社会的・文化的な解釈を深める研究)です。関西大学にお願いをして、質的研究とは何かについて実際に大学生と大学院生の方々に教えていただいたり、大学のキャンパスを歩いている学生さんにインタビューをしたりといった外部と連携した課外活動も取り入れています」(小田先生)

このように、ただ探究の進め方を学ぶだけでない同校の活動は、探究の高度化・自律化につながるものと言えるでしょう。まさに大学入学後の研究をリードできる人材を育成しようとする狙いを感じることができます。

生徒が取り組むテーマは「食品ロスの削減」「思春期の心の病の原因と接し方」「英語のスピーキング力向上方法」「どの色が暗記・集中力を高められるのか」などさまざま。まずは生徒が興味を持ったテーマを提案し、探究のテーマとして成り立つかどうかを先生方とのディスカッションを通して絞り込んでいきます。最終的に生徒が選んだテーマは3人の先生が分類して、それぞれの専門により近いものを担当するという形で指導しているということです。

こうして1年間をかけて探究の基礎力を培った上で、2年生以降のゼミ活動へとつなげていきます。

ゼミではテーマ研究に集中。集大成は文化祭での論文発表

2年生になってすぐに、1年生のときに取り上げた探究テーマについてプレゼンテーションを行い、そのテーマに基づいて所属するゼミを決定します。

「プレゼンテーションには、質疑応答の時間があって結構盛り上がります。先輩のプレゼンを後輩も一緒に聞くのですが、1年生の後輩たちが興味を持って、いろんなことを突っ込んで聞くので、先輩の方がたじたじになったりするのも興味深いですね」(小田先生)先輩たちの1年間の成果が後輩たちへの良い刺激となる好循環が生まれています。

ゼミのテーマは、例えば「American and English Works Analysis」「法と正義」「物理を英語で学ぼう+物理チャレンジ」「日本美術史入門」など多岐にわたります。「2年生、3年生が一つのゼミに所属していたり、学年ごとに別々のゼミに入っていたりと、いろいろな形態があります」(小田先生)

テーマによって、個人、グループで探究活動を行い、3年生の1学期をかけて個々人がA4用紙で8枚程度の論文に仕上げ、9月の文化祭が論文発表の舞台となります。

米田先生は「生徒たちみんなが探究の時間を楽しみにしている雰囲気があります。やはり一人ひとりのワクワク感が一番大事。さらに教員自身も楽しみながら学べるというのが従来の学習スタイルとは全く違うところだと思います」と説明します。

米田先生

先生も共に楽しむ。誰も知らないことを学ぶ楽しさ

生徒の学びを先生たちも一緒に楽しむ。これも同校の探究活動の興味深い点です。

西田先生が紹介してくださったエピソードもその一つです。

「2、3年生のゼミで理科の実験的なことをしたときです。私がそのテーマを設定したのは、私自身が知りたかったことで、かつおそらくまだ誰も知らないことだったんですね。そうしたら、私では思いつかない実験の方法を生徒が提案してくれて、いろいろ試していくうちに、私が当初想定していた方法よりもその方法が有効である可能性が高いということが分かったという経験があります。実験を通して手作業の楽しさや考えることの楽しさ、今のところ誰も正解を知らないけど、自分たちで正解を作り出す可能性に気づいてもらえたみたいで、探究だからこそ得られた収穫だったと思います」

西田先生

小田先生も「生徒との関わり方も探究だと変わります。教えるというスタンスから、一緒に探したり、考えたり。教科の枠組みがあるとなかなか伝えることが難しい、学ぶ楽しさが探究によって開けた感覚があります」と話します。

系属校の強みを生かした横のつながりを

同校のWコースは、今年度初めての卒業生を出します。今後、系属校同士の連携にも期待が寄せられています。早稲田大学の他の附属校、系属校でも探究活動は盛んで、生徒たちの論文集なども発行されています。小田先生は「系属校同士、横のつながりで、合同の発表会を開いたり、一つのテーマを他の学校の生徒と一緒に研究してみたりするなど、違う学校の生徒と一緒に何かできることがないかという意見も出ています。高校時代から探究を通して顔馴染みになった生徒たちが、同じ大学に進学して大学生活を送るというのも面白いかもしれません」と話していました。

まとめ

同校の探究のカリキュラムは、1年生の1年間を通して、探究の基礎から実践までを一通り経験することで、2、3年生のゼミ活動への移行がスムーズになるという工夫がなされています。さらに、教材を指導の指針として取り込むことで、体系立ったカリキュラムの運用がスムーズになされています。先生方の中に指導の核となるものが共有されていることで、探究への取り組みもより一層深いものになっているようです。

誰も知らないことだからこそ、その先に何があるかを知りたい。これこそまさに学びの本質であり、探究がその楽しさに気づけるきっかけになっていることがお話の中から伝わってきました。

先生たちが、生徒の取り組みを面白がり、共に学ぼうとする姿勢は、探究に関わる先生たちにとって大いに参考になるのではないでしょうか。

<早稲田摂稜高等学校様にご導入いただいている教材>

◆一生使える探究のコツ 入門編

『一生使える探究のコツ 入門編』ご紹介ページはこちら

◆一生使える探究のコツ 練習編

『一生使える探究のコツ 練習編』ご紹介ページはこちら

◆一生使える探究のコツ 実践編

『一生使える探究のコツ 実践編』ご紹介ページはこちら


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※掲載内容は取材時点(2023年12月)のものです
執筆:李香
企画/編集:牧野宏季(トモノカイ)

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