【教材導入事例】若手中心のチームを編成し、3年計画の探究活動を|焼津中央高校

この記事は、『河合塾雑誌「ガイドライン2019年7・8月号 探究のポイント 第2回」』で掲載された内容です。

河合塾雑誌7・8月号

(以下、河合塾発行 2019年7・8月号「ガイドライン」の掲載記事を記載)

静岡県立焼津中央高等学校は、近年、国公立大への進学実績を伸ばし、部活動も盛んな高校である。2017年度から「教育改革への対応準備」「ミドルリーダーの育成」を目標として教育改革を進めており、今年度からは 「総合的な探究の時間」を中心に、探究活動に力を入れている。学校改革を推進する小関直樹校長、活動の中核を担う進路課長の露木隆先生、総合的な探究の時間の計画・推進を担当する山梨達也先生に、お話をうかがった。

企画・運営に若手を抜擢し教育改革を推進する

探究活動を行う高校生

静岡県立焼津中央高等学校では、今年度の1年生から、学年進行で総合的な探究の時間(2・3年生は総合的な学習の時間)の内容を大きく変えた。この取り組みは、 2017年度に小関校長が赴任してから始まった、学校改革の一環として進められているものである。過去に、県内の進学校である富士高校、静岡東高校で学年主任・教務主任などを経験、藤枝東高校、韮山高校では管理職としてリーダーシップを発揮してきた小関校長は、赴任当時の状況を次のように語る。

「本校の生徒は、勉強にも部活動に熱心に取り組み、非常に高い資質を持った生徒が多いのですが、大学受験でもあまりチャレンジは望まないなど、のんびりした校風だと感じました。今後、生徒たちが変わりゆく社会に適応できるように、持っている力を最大限に引き出し、自信をつけて将来のキャリアにつなげていけるように、進路指導の体制を改善するとともに、学校風土の改革を進めることが急務だと考えました」(小関校長)

そこで2017年度は、重点目標に取り組む学校に予算がつく、県教育委員会の「学力向上ネオアドバンス事業」 に応募。「進学実績向上と、学習指導要領改訂・新テスト導入を見据えた指導体制構築」を目標に掲げ、指定を受けた。翌2018年度には、さらなる「知性を高める学習の充実」に取り組む拠点校として、県指定の「コアスクール」に認定された。

事業を推進する「ネオアドバンス委員会」「コアスクール委員会」のメンバーには、20~30代の若手教員を8人ほど抜擢した。委員会のリーダーで進路課長の露木隆先生は、現在38歳、探究担当の山梨達也先生は28歳である。若手抜擢の理由を小関校長は次のように説明する。

「大学入試改革や学習指導要領の改訂など、教育改革への対応は、今の若手教員がこの先もずっと直面していく問題ですから、危機感も意欲も強いと考えました。また、彼らがいずれ学校を引っ張っていくことができるよう、ミドルリーダーとしての資質の育成も兼ねたいという思いもありました。委員会の教員には、全国の先進校の視察をはじめ、教育改革の調査研究にどんどん具体的に取り組んでもらい、ベテラン教員にはオブザーバーとして若手を支えてもらうべく、『委員会のやることに協力してほしい』と伝えました。そして、委員会を立ち上げて2年間、大学入学共通テストや民間の英語資格・検定試験、活動報告書やeポートフォリオ、次期学習指導要領など、さまざまな情報を収集し検討する中で、『これからの社会に役立つ力を身につけるためには、どのような教育が最も重要か』という観点で、注目したのが『探究』だったのです」(小関校長)

1年生で「探究の基礎」を学び
1・2年生合同の混合チームで「SDGs探究活動」に取り組む

総合的な探究の時間はどのように検討を進めたのか。3年間の指導計画の策定を担当した、山梨先生の解説を交えながら紹介しよう。

各学年の目標は、「たくましさ」「たしかさ」「ゆたかさ」を育む、という焼津中央高校の教育理念にのっとり、1学年では「たくましい基礎力(探究の基礎を学ぶ)」、2学年では「たしかな教養(探究を活用していく)」、そして、3学年では「ゆたかな心情(探究のリーダーになる)」とした<図表1>。また、育成する生徒像としては、「変わりゆく社会に適応できる、『リテラシー』と『コンピテンシー』を身につけた生徒の育成」とした <図表2>。

図表1探究プロジェクト全体
図表2探究活動を通じて育成を目指す資質・能力

そして、指導の上で大切にする「探究 活動の3箇条」として、先進県として視 察した広島県の高校を参考として、以下の3点を挙げた。

①生徒の「わくわく感」を一番に考える。
→生徒の期待感にふさわしいステージの準備。外部の人から「イイネ!」がもらえる状態を整える。
②高校で完結させる必要はない。
→未完成の経験が志望動機につながる。
③成果物のクオリティは求めない。教え込まない。
→過程で身につける力が大事。

「計画を立案する際に、特に心掛けたことは、「探究」という新しい取り組みで教員の負担感増加は避けられない中で、いかにして先生方の負担を減らせるか、という点です。市販のテキストやワークシートも活用することで、教材作成の手間を減らし、生徒と向き合う時間を確保することにしました」(山梨先生)

そこで、1年生の総合的な探究の時間 は、株式会社トモノカイが開発した 『一生使える探究のコツ』の入門編と練習編(旧:『思考の手引き』)をテキストとして活用することとした。
<『一生使える探究のコツ』の詳細についてはGuideline2019年4・5月号 参照>

一生使える探究のコツ教材
写真の教材は改訂前のものとなります。
現行は『一生使える探究のコツ』シリーズの入門編・練習編として展開しております(2022年12月現在)

3年間の具体的な授業の流れを、<図表3>に沿って見ていこう。

図表3探究活動と評価の流れ

まず1年生の4~12月は、最初の授業で「探究」に取り組む意味を説明し、その後は『一生使える探究のコツ』 のテキストに沿って、情報収集のノウハウ、知り得た情報を人にわかりやすく伝えるコツ、情報を構造的にとらえるレッスンなど、段階を踏みながら「探究の基礎」を学ぶ。思考力・判断力・表現力を強化する、いわば実践 に向けての土台作りの時期である。

1年生1月~2年生6月には、「SDGs」をテーマとした探究活動の実践に取り組む。

SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)とは、国連加盟193カ国が2030年までに達成するために掲げた目標であり、「貧困をなくそう」「ジェンダー平等を実現しよう」「安全な水とトイレをみんなに」等、17の「ゴール」と、それを細分化した169の「ターゲット」が示されている。
「SDGsを活動テーマに選んだ理由は2つあります。1つは、現代社会が抱える幅広い課題が示されているため、生徒が自分の関心事を見つけやすいこと。2つ目は、それらが国際的な課題であることです。今から世界に目を向け、グローバルな視点を養ってほしいと考えています。 探究活動は、近いテーマの生徒が集まる『ゼミ』単位で行う予定です。ゼミの中ではさらに、1年生2人と2年生2人が合同で4人班を組むことを考えています。2学年合同での混合授業は、部活動をヒントにしました。高校では、部活動以外に学年を越えて協働する機会があまりありませんが、昨今は、部活動に加入する生徒の割合が下がったり、活動時間が短くなったりするなど、縮小傾向にあります。そこで、総合的な探究の時間が、部活動のように先輩が後輩にアドバイスできる場になればいいな、と発案しました」(山梨先生)

各ゼミでは、教員(主に副担任)1人がゼミ長を務め、 生徒の活動にアドバイスする予定である。基本的には1年1月~2年6月の探究活動期間は、同じ教員がゼミ長を務める予定だが、異動などに伴い、途中で変更になる可能性もある。そのため、生徒が教員に依存しすぎないよう、教員は「アドバイザー」の役割に徹するように呼び掛けている。

オープンキャンパスも組み込み進路指導と連携した「探究」を実践

探究活動の授業風景

活動内容については、進路指導課会議で何度も議論した。さまざまな要望が寄せられ、特に進路課からは「探究活動の内容を進路選択につながるものにしてほしい」 という声が上がった。

「そこで、進路選択に直接つながる探究課題として、夏休みを利用して各大学のオープンキャンパスに参加する、グループ探究活動を計画に盛り込むことにしました。オープンキャンパスへの参加はどの高校でも推奨していると思いますが、本校の場合は、探究活動の一環として位置付けている点が特徴です。各班の4人が、それぞれ異なる大学のオープンキャンパスに参加し、夏休み後、それぞれが得てきた情報を発表し合い、グループで共有するようにしています」(山梨先生)

この点について、進路課長の露木先生は、次のように 期待を語る。

「今後の大学入試では、志望理由書や面接やプレゼンテーションなどが、これまで以上に重視されると考えら れます。オープンキャンパスと探究活動を関連付けることで、生徒の志望理由も深まることが期待できます。また、班の4人全員が別の大学のオープンキャンパスに参加するため、生徒は自分が参加した大学だけでなく、他のメンバーが見聞きした大学の情報も聞くことができ、視野が広がるという効果も期待しています。

進路課では、このほかにも、生徒が志望理由を深めたり、進学先の大学の視野を広げたりすることに力を入れており、3年生の1学期に、第一志望の大学の志望理由書を書き、新聞記者に添削してもらう取り組みや、鳥取大学や富山大学などの先生を招いて、地方の国公立大学の魅力を語ってもらう講演会なども開催しています」

また、2年生の6月には「SDGs」に関連する研究に取り組んでいる大学の先生を招いた講演会を開催予定だ。

「『SDGs探究』を経験したうえで、専門家の話を聞くことで、自分たちが選んだ課題への興味や、探究の方法論についての理解がぐっと深まるのではないかと考えています。課題への興味を掘り下げられることで、生徒の学習意欲が高まり、自ずと学習習慣が身についていきます。学習習慣が身につけば、教科学力の向上も期待できますから、進路課としてもさまざまな企画を立てて、幅広い角度から生徒に刺激を与えていきたいと思っています」(露木先生)

実践の中で見えてきた課題を受け止め走りながら改善を続ける

今年4月から総合的な探究の時間をスタートしてみて、 いくつかの課題も浮かび上がってきたという。

「総合的な探究の時間は今年度の1年生から学年進行で実施ですが、実はそれに合わせて、今年度の2年生の総合的な学習の時間も、探究をより意識した内容に変えました。2年生も現在、『一生使える探究のコツ』を使って授業を行っていますが、最初はペアワークが中心の授業に新鮮さを感じて、生徒たちも楽しそうな様子でしたが、ステップが進み、教材のテーマが、『説得のある主張とは?』や『論理的なおかしさを見抜く』といった、少し難しい内容になってからは、指導にも工夫が必要だと感じています」(山梨先生)

一生使える探究のコツの使用授業

また、探究のスキルは、週に1時間の総合的な探究の時間だけでは、なかなか身につかない。

「探究のスキルは継続的に取り組まなければ、なかなか身につきません。総合的な探究の時間と、各教科の授業を連動させるなど、工夫する必要があります。それぞれの教員が、総合的な探究の時間で扱った探究の手法を各教科の授業に取り入れ、より深みを増した授業を展開していくことができたら理想的ですが、それには時間がかかるでしょう。しばらくは試行錯誤しながら手探りで進めていくことになると思います」(露木先生)

最後に、小関校長に現時点での手応えと今後の展望について聞いた。

「4月からスタートして、生徒に〝楽しい〟と好評なのがうれしいですね。また、2年間の準備期間に『探究』の研修・研究を積み上げてきた、若手のコアメンバーが 指導者としてめきめきと成長し、彼らを支えるベテランの先生方も前向きな気持ちで、『探究』を含めた教育改革に学校全体で取り組んでいくんだ、という気概に満ちていることを感じています。授業や進路指導に対する教員の意識や指導の視点が変わることで、長く60名程度で推 移していた国公立大学への合格者数が、2018年度には110名を超えるなど、ここ3年間の合格実績は、京都大など難関大も含めて開校以来の実績に上がっています。

大学合格実績だけが目標ではありませんが、生徒や保護者、地域の期待にしっかりと寄り添い、応える高等学校でありたいと思い、大切な指標の一つと考えています。

『探究』のポイントは、自分で考え、自分で調べて、自分で意思決定できる力を育むこと。大学の選択にも将来の職業の選択にも、変化の激しい社会を生きていくのにも、その力が必ず生きてきます。実行第一で、まず走り出しながら『探究』に取り組んでいるので、課題もどんどん出てくるでしょうが、そのつど軌道修正や改善を行いながら、前進していこうと思っています」(小関校長)

まとめ-静岡県立焼津中央高等学校の「探究のポイント」

◯教育改革の一環として、総合的な探究の時間の内容をリニューアル
◯「探究活動の3箇条」として『生徒のわくわく感を第一に』『高校で完結させる必要はない』『成果物のクオリティは求めない。教え込まない』を掲げる
◯市販の教材も活用し、1年生で「探究の基礎」を身につける
◯1、2年生の混合チームによる「SDGs探究活動」で、先輩のアドバイスを受けながらテーマを探究
◯オープンキャンパスを活動に組み込み、「探究」を進路指導につなげる
◯ミドルリーダーとしての資質育成も兼ね、企画・運営に若手を抜擢
◯実践の中で見えてきた課題を受け止め、走りながら改善を続ける

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