生徒が主体的に動き出すためには、どうすればよい?

中学に続いて、高校でも、総合的探究の時間の試行期間に入り、まずはやってみよう、と探究活動に取り組み始めた学校も多いことと思います。

ここで、いざやってみたものの、これでいいのだろうか?と疑問がわいたり、
生徒が受け身になってしまう…生徒の思考がなかなか深まらない…など様々な悩みが出てくることもあるのではないでしょうか。

特に、多くの悩みとして挙げられるのが、「生徒が主体的に動かない」「課題が自分ごと化しない」ということ。
せっかくの探究活動も、受け身の活動になってしまっては、もったいないですよね。

もちろん学校によって、生徒の状況は異なりますし、ここについての明確な答えは、あるとはいえません。一方で、長年探究活動に取り組まれてきたベテランの先生方にお話を伺った際に、共通して出てきたキーワードを今回はご紹介したいと思います。

目次

  1. 机上で終わらせない、『五感を伴うリアル体験』を
  2. 『自分で決めた感』を持てているか
  3. 『安心安全の場を生み出すこと』で生徒は動き出す
  4. まとめ -探究活動における生徒との関わり方-

机上で終わらせない、『五感を伴うリアル体験』を

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さまざまな学校様から、課題が自分ごと化しない問題のお声を受け、なんとかできないかと思い、ある山梨県の県立高校で、長年探究活動に取り組まれているベテランのH先生に、お話を伺いにいきました。
H先生はご自身で探究活動に長年取り組まれているだけでなく、日本全国のあらゆる最先端の取組み事例を見学に行かれ、探究活動に精通されている先生です。

「H先生、生徒が主体的に動かない、とか課題が自分ごと化しない、というお声をよく伺うのですが、ここに対して、どのような工夫をしていけるとよいのでしょうか?」
そのH先生から、まず一番に出てきた言葉が、この言葉でした。

H先生「机の上だけで探究活動を終わらせていませんか?」
–え、机の上??
H先生「探究活動が、ネット検索や文献検索だけに終始してしまうと、課題が自分ごと化せずに、やらされになってしまうことが多いんですよ」
–なるほど…!
H先生「五感を伴う体験が、探究のプロセスにあることがとても大切だと思っています。実際に現場に行ってみたり、人と話してみたり。そんな五感を伴うリアルな体験から、徐々に生徒はおもしろいなって思い始めて、自分ごと化していくきっかけになると思うんですよね」

また、同じく探究活動を10年以上取り組まれている岡山県のベテランN先生にもお話を伺ってみました。
N先生「机の上だけで探究をやるのではなくて、外に出ることじゃないですかね」
–あ、H先生と同じこと、おっしゃられている…!
N先生「外に出るっていうと、地元の人などにインタビューするイメージを持たれることも多いと思います。そうすると、企業など訪問先になりそうな外部のつながりがないのでムリです、と思われる先生もいらっしゃるみたいなのですが、そうではなくて。」
–ふむふむ。
N先生「例えば、僕の学校では、地域のことを探究する際に、こちらからMissionという感じで課題を提示します。
ここで、Missionのテーマが、仮に『地域の自然』だったときに、『河』に興味を持つ生徒もいれば、『生き物』に興味を持った生徒もいました。
『河』の場合は、メンバー全員で家の近くの河に出向いてみて、水を取ってこようとか。
『生き物』の場合は、学校周辺で見かけた虫の写真を撮りまくれ、とか。
そういうことをやりました。これも立派な情報収集ですし、リアルな五感を伴う体験がある。そのプロセスの中で、生徒は自然と疑問や、こうしたいという想いが生まれる。
それが重要ですよね。だからこそ、生徒には、とにかく行動、学校の外に行け!と伝えています」
–それなら、確かにどの学校でもできそうですね。
N先生「ときどき、学年全員でバス貸し切って、地域の人の講演聞いて、質問の場を設けるなどやって、リアルな体験をさせています。ですが、自分ごと化しないんです、という相談を受けることがあります。
これは、生徒の立場からすると、大勢のうちの一人でしかなくて、そりゃ自分ごと化しないですよね。生徒にとって、自分ごと化しやすい、グループのサイズも大切です。
自分ごと化していくには、3-5人くらいの小さなグループで、個別に動いていくことも重要だと思います。3-5人くらいのグループだと、学校によっては、100組くらいグループができてしまうから、大変に感じるかもしれません。ただ、探究のやり始めを教師側が手を抜かずに丁寧に生徒に寄り添えば、1年後くらいには勝手に生徒から動き出していますよ。”先生、□□企業の〇〇さんとアポ取れたんで行ってきまーす”、みたいにね」
–すばらしいですね!!大変勉強になります!!

『自分で決めた感』を持てているか

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続いて、ベテランH先生からはこのような話も出ました。
H先生「主体的に動く、という観点では、『自分で決めた感』、というものも大切だと思います。人から決められたことって、誰しも乗り気しないものでしょう」
–確かにそうですよね。ちなみに、生徒さんのレベルによっては、課題をある程度、先生側で渡した方がよいケースもあるかと思います。その場合はどうすればよいのでしょうか?
H先生「こちらである程度課題を設定して渡す場合も、生徒に選んでもらう工夫はできますよ。それは、選択肢を複数用意して、選んでもらえばよいのです。
例えば、地域のことを探究する場合、”特産品”、”観光”、”自然環境”などとテーマを設定したとします。もしくは、”地元の特産品をどのようにPRするか?”、”地元を外国人観光客を誘致するためには、どのようなツアー企画を作るとよいか?”などと課題を渡すケースもあるかもしれませんね。要は、複数の選択肢を提示すれば、自分で選ぶ、決める、ということができます。
どのテーマ、もしくは課題に取り組むのか、自分で意志決定するプロセスを大切にできるとよいですよね」

他にも、10年以上前から探究活動に特化した学校を運営されているS先生にもお話を伺いました。
S先生「長年子供と関わっていてわかったのは、子供たちには好奇心が爆発する探究サイクルがあるということです。」
–すごい!それは何ですか!?
S先生「それは①自由選択→②集中→③達成感のプロセスを生み出すことなんですよね。まず初めに、自分で決めた、という実感が大切です。これを関わる大人側が意識しておけるとよいと思います」

初めに、『自由選択』、なんですね。お話を伺った先生方が、「自分で決める」という観点について、同じことをおっしゃられていることが印象的でした。

なお、“とりあえず、選ぶ”、のではなく、”自分で意志をもって決める”、というプロセスになるように、うまく工夫していきたいですね。

『安心安全の場を生み出すこと』で生徒は動き出す

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続いて、こちらは東京都の私立高校のS先生のお話です。
S先生「安心・安全な空気づくりは非常に大切だと思います。この場では絶対に否定されない、何でも受け止めてもらえる、という感覚があることで、生徒は初めて心の奥底にある本音を出し始めます。それが’やらされ’にならないようにするために重要なのではないでしょうか」
–確かに…!
S先生「生徒に対して、こうあるべき、こうすべきという想いで、教員はついつい、接してしまいがちですが、それは、相手をこうしたいとコントロールすることにつながります。
そうではなく、それでいい、と生徒を受け止めること。その在り方を先生が続けることで、生徒は自然と自分から動き出すんですよ」
–先生の在り方だけで、自然と動き出す…そうなんですね!すごいですね…!

この学校の生徒は一体どのように動き出したのか!?
気になる方は、以下の記事をご覧ください。
「探究活動における生徒との関わり方とは」

なお、全く別の学校の先生でも、同じようなことを言われていた方が複数名いらっしゃったことが印象的でした。
生徒のありのままを受け止める、安心・安全の場。
経験の有無に関係なく、意識ひとつで、変えていけそうですね。

それにしても、ベテランの先生方のご経験は、本当に勉強になります!

まとめ -探究活動における生徒との関わり方-

探究活動で、生徒が課題を自分ごと化し、主体的に動き出すために、明確な答えはないかもしれませんが、いくつかポイントがありそうです。

ぜひ、探究活動を設計する時や生徒と関わる時に、以下の3点を意識してみるのも、よいのではないでしょうか。

① 五感を伴ったリアルな体験
② 自分で選択した感
③ 安心・安全の場を生み出すこと

このお話が、少しでも現場で探究活動を進める上で役に立てれば幸いです。

(執筆:神原洋子/トモノカイ)

記事公開日:2019年12月16日

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