本記事は、2019年9月15日「未来の先生展」内で講演した内容について、当日話した具体的なことも知りたい、というお声を受け、記事化したものです。
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セミナーでは、以下3点についてお話しました。
1)計画の立て方のポイントとは
2)意識のばらつきへ対応するために
3)生徒へどう関わるか
今回は、1)について、ダイジェスト版でお伝えします。
探究活動の計画を立てるときの体制
まず、探究活動の計画を立てるときの体制について触れます。
皆様の学校ではどのような体制で探究活動の計画を考えているでしょうか。
筆者が見てきた探究活動を実践している学校の多くは、探究計画について話し合い、全体を統括する中核チームを結成し、そのメンバーを中心に探究活動を推進していく形を取っていました。
学校によっては、このような中核チームがなく学年ごとに主担当を立て、それぞれが計画を立てて動いていくというところもあります。しかし、やはりその場合は学年ごとに学びの連携が取りにくくなってしまい、3年間全体で一貫した学びを生むことが難しくなる傾向がありました。
したがって、基本は中核チームを結成し、このチームが(学年ごとの連携を当然に考えた上で)3年間全体の計画を立て、学びに一貫性を持たせることがよいと思います。その上で、計画内容を学年で共有して、実行という流れを作っていけるとよいでしょう。
押さえておきたい2つの探究のパターン
計画の立て方の本題に入る前に、もうひとつ押さえておきたいことがあります。
それは、探究の「パターン」です。筆者は、多くの学校現場で探究活動を見てきた結果、探究活動には2パターンあるということに気づきました。
1つ目は「アイデア提案型の探究活動」です。
これは課題に対する解決提案をしていくタイプの活動で、課題の設定の仕方は例えば、「自分の街のゴミの量を減らすにはどうすれば良いか?」というように(手法を探る)HOW型の問いになります。よくあるのは、地域課題に対する解決提案をしていこうとか、企業と連携して商品開発をしていこうというような探究活動がこれにあたります。
2つ目は「テーマ研究型の探究」です。
何かしら自分の興味関心や社会ごとについて研究していくタイプの活動のことを指します。結果を論文やレポートにまとめることも多く、アカデミックな大学での研究をイメージするとわかりやすいかもしれません。課題の設定の仕方も、例えば、「日本のゴミの分別は細かいのに、なぜゴミのリサイクル率が他国と比べて低いのか?」というような問いになります。
それでは今、学校はどのような活動を行っているのか。
これは、アイデア提案型もしくはテーマ研究型のどちらか片方を実践している学校もあれば、両方の活動を実践する学校もあります。どちらが正解ということはなく、学校によって決めるべきものだと思います。
ただ、ここで重要なこととして、型の種類によって進め方やそこで身に付けられる力が違うということはお伝えしておきたいと思います。これは計画を立てる上でも理解しておいた方がよい点ですので、ぜひ頭に入れておいてください。
今、多くの学校で起こっている「学びの質の薄さ」
筆者は多くの学校を見学させていただいていますが、下記のような状況を目の当たりにします。
アイデア提案型の場合は、「なんとなく形にはなったものの、提案内容が薄っぺらい」ということ。例えば、ある地域の魅力化をテーマに探究活動を行った学校では、商業施設を作ればいい、ゆるキャラを作ればいいという表面的な提案にとどまり、その実現方法や効果についての具体案が語られていない薄い提案内容に先生方が頭を抱えておられる、なんて場面がありました。
テーマ研究型の場合は、「問いが立てられない」や「ただ原稿用紙を埋めただけ」という状況も。ひどいケースでは「コピペした文章で提出された」などいったことが起こっていました。どこから指導していいか、困ってしまいますよね。
せっかく時間をかけて探究活動をするなら、生徒たちにいい機会を提供したいですよね。・・・ということで、ここからは本題の、「よりよい探究活動を行うための計画の組み立て方のポイント」を説明していきます!
探究活動の計画の立て方3つのポイント
探究活動の計画の立て方には、以下の3つのポイントがあります。
①目的(育みたい力)から活動内容を設計する
②段階的に難易度を設計する
③行事も活用し、一貫性のある計画に落とし込む
さっそく、1つ目から見ていきましょう。
ポイント①:目的(育みたい力)から活動内容を設計する
学校で行なう探究活動では、「どのような生徒を育てたくて、そのためにどのような力を育みたいのか」が重要になります。一見遠回りのように見えますが、ここを決めて見据えることが本当に大切です。
もし学校全体で目指したい生徒像や育みたい力がまだ明確になっていなかったとしても、「総合的な探究の時間において育みたい力」を明確にしておくことが重要です。
皆様にとって、子どもたちに育んでほしい力とは、どのようなイメージでしょうか。例えば、とある岡山の県立高校では、総合的な探究の時間で育みたい力をこのように設定されていました。
・論理的に情報を整理できる力
・違う意見が出ても受け止めて対話ができる力
・地域に対して何かをしたいというマインド
・失敗してもそれを学びに変える力
このように、どのような力を育てるかを軸に据えて、その力を育めるように活動内容を計画していくことが大切です。
では、実際の活動内容は、どのように考えていけばよいのでしょうか。
ここで、いきなり活動内容を考えることが難しいと感じる場合、「探究の型」「テーマ」「表現方法」の3つに分けて考えることをおすすめします。
順番に見ていきましょう。まず1つめ。図の左側、「探究の型」について。
大きな方向性として、アイデア提案をさせたいのか、アカデミックに研究していくことを目指したいのか、要は探究の型はアイデア提案型にするか、テーマ研究型にするかを決めます。
2つめ。図の中央、「テーマ」について。
テーマについては、自分の興味関心でやるのか、または社会ごと(地域の課題やSDGsなど)もしくは、企業ネタ(企業の商品や事業)などで実施するなどが考えられます。
そして3つめ。図の右側、「表現方法」について。
生徒にプレゼンテーションさせたいのか、論文やレポートを書かせたいのか。要は話すのか、書くのか、です。
この3つの観点に分けて活動内容をイメージすると、考えやすくなるのではないでしょうか。
明確なイメージを持っていただきたいので、ここはもう少し丁寧に説明しますね。
具体例を考えてみましょう。例えば、生徒たちに、
・試行錯誤する力を付けて欲しい
・論理的に書く力を付けたい
・自分の興味あるテーマで自分の進路を考えることにつなげさせたい
と考えている場合、テーマ研究型で自分の興味関心のあることをレポート/論文で表現するという形になります。
例えば、生徒たちに、
・地域の社会課題にも目を向けて欲しい
・自分たちなりに課題を自分事として捉えて、何ができるか考えて欲しい
・発信する力を鍛えたい
という場合であれば、アイデア提案型で地域課題についてプレゼンで表現するという形になります。
このように、どのような力を育みたいのか、から活動内容へと落とし込んでいくことをぜひ意識してみて頂ければと思います。
なお、どのような力を育みたいのか、が明確になると、評価基準や生徒との関わり方も明確になります。これから計画を立てたい学校、あるいは既に探究活動を実施している学校、どちらも「探究活動で育みたい力が明確になっているのか?」をぜひ見直してみてはいかがでしょうか。
ポイント②:段階的に難易度を設計する
「活動内容がイメージできたら、計画は完成」と思うかもしれませんが、もう少しだけお待ちください。ここで、段階的に難易度を設計することの大切さについてお話をしていきます。
冒頭にお話ししたように、探究活動に取り組んでいるものの、なかなかうまくいかないと苦戦している学校も少なくはありません。筆者が多くの学校現場に見学に行き、うまくいっていない学校はなぜなのか、その理由を考えたところ、生徒にいきなり難しい探究活動をさせているからなのではないかという結論に至りました。
探究活動を仮に野球に例えると、バットを振ったことがなく、練習試合をしたこともない生徒に甲子園で試合してみろと言っても、無理がありますよね。甲子園で試合をさせるには、筋トレをしないといけないし、練習試合もしておく必要があります。
探究も同じで、いきなり何の経験もない中、解決策の提案をしてとか、論文を書こうと言われても、生徒にとっては難易度が高すぎるのではないか、ということです。
探究活動も、スポーツと同じで、筋トレや練習試合といった段階を踏んで進んでいく必要があるのではないでしょうか。
それでは、段階的に設計するには、具体的にどうすればよいのか。私たちは「課題設定」「アウトプットレベル」という2種類の難易度の考え方を、意識して設計に取り入れるのがよいと考えています。
1. 課題設定の難易度
まず課題設定ですが、難易度には2段階あります。
「与えられた課題で探究する」→「自ら設定した課題で探究する」と難易度が上がっていきます。
ここで、「探究活動とは自分で課題設定しないといけないものじゃないか」と思っている先生もいらっしゃると思います。しかし、必ずしもそうではありません。中には、課題設定を生徒にさせねばならない、と思って模索した結果、1年間ずっと課題が決まらず右往左往してしまい、活動につなげきれなかったという話も聞きました。
大切なことは、探究活動のプロセスを通じて、生徒に育みたい力を身に付けられるかどうかです。ですので、生徒が課題について自分ごと化できて、探究活動のプロセスを通じて育みたい力を身に付けられるのであれば、テーマや課題は先生が与えたものでも問題ありません。
例えば、ある都立の学校では、学校の中に大きなイチョウの木があり、大量の落ち葉の処理費用がかさんでいることに困っていました。その落ち葉に注目した先生が、落ち葉を堆肥にできたらどうかと思い立ち、さらにこれを生徒の探究活動の課題にしてはどうかと思いつきました。それを同僚の先生に話したところ、おもしろいね!と盛り上がり、実際に探究活動としてチャレンジしてみることになったそうです。
このように、先生が考えたテーマや課題でも構わないということを理解できると、活動も段階的な設計がしやすくなります。例えば、高1では先生からMissionを渡す形で探究を進めることでプロセスを学び、高2で自ら課題設定を行なって探究に臨む、などの段階的な設計がイメージできるようになるのではないでしょうか。
ぜひ課題設定においても、段階的に難易度を設計してみて頂ければと思います。
2. アウトプットレベルの難易度
2つ目はアウトプットレベルの難易度です。アウトプットのレベルは、「調査報告」→「論証・企画提案」と難易度が上がります。ここで、調査報告と聞くと、「調べ学習? 探究活動ではただの調べ学習ではダメなのでは?」と思われる方もいらっしゃるかと思います。
もちろん最終的に目指したいのは論証や企画提案をすることですが、論証や企画提案をするためには、まずはしっかりと調査した内容を報告することができていないといけません。ですので、まずは調査報告をしっかりとできるようになる必要があり、その次に論証・企画提案というように段階を踏んだ探究活動を経験していけるとよいでしょう。
なお、ここでいう調査報告とは、ただなんとなく調べた情報をコピペする、という活動ではないことを押さえておく必要があります。きちんと情報源を確認し、確からしい情報か確認したり、多角的に情報を得たり、相手意識を持って情報をまとめたり、そのようなプロセスを学んでいくことが大切です。
以上、2種類の難易度について、話をしてきました。これらをまとめると、以下のイメージになります。
Hop :自ら立てた課題で調査報告
Step :与えられた課題で論証や企画提案
Jump :自ら立てた課題で論証や企画提案
図のようにHop-Step-Jumpという3ステップを設計することで、段階的に探究活動を進めていくことができるのではないでしょうか。ぜひ難易度を段階的に設計して、目指したい探究の形を実現して頂ければと思います。
ポイント③:行事も活用し一貫性のある計画に落とし込む
活動計画も明確になったところで、最後に、具体的な年間計画に落とし込んでいきます。このとき、通常の学校では長期休みや文化祭などの行事があるかと思いますが、 探究活動にぜひともそれらをうまく活用しながら、成果発表の場を設計していくことをおすすめします。
よくあるパターンの1つは、文化祭を探究活動の成果発表の場にするというものです。例えば、文化祭に発表する、とゴールが定まると、「夏休みにフィールドワークをしておく必要があるな」とか、「それならば、1学期のうちに課題設定をしておく必要があるな」などと、具体的にスケジュールをイメージできるようになるでしょう。
他のパターンとして、学年の最後に発表させるというケースもあります。そうすると、「文化祭を中間発表の場にしてみよう」とか、「修学旅行をフィールドワークの場にしてみよう」などのイメージもわくかもしれません。
例えば、実際に、文化祭を中間発表の場として活用し、全ての生徒が外部の人の前でプレゼンする経験を積めるように工夫し、最終発表のブラッシュアップにつなげている学校があったりします。他にも、学年末の最終発表で、市役所の方や地元の住民の方を学校に招待し、地域を良くする提案内容を発表する学校もあります。
発表の場の設計は生徒のモチベーションにも大きく影響する部分なので、ぜひクラス内発表などにとどめず、うまく工夫をしてみるとよいかと思います。
そして、限られた時間の中で、探究活動を動かしていく必要があるため、行事や長期休みなどをぜひともうまく活用して計画を立ててみてください。
今回のまとめ
いかがだったでしょうか。
今回、探究活動の計画の立て方のポイントを紹介してきました。
そのポイントは3つありました。
①目的(育みたい力)から活動内容を設計する
②段階的に難易度の設計をする
③行事も活用し一貫性のある計画に落とし込む
また、これらのポイントに加えて、最後に計画段階で注意しておけるとよいことをお伝えしておきます。
・やることを目的化しない。プロセスを大切に。
最も大切なのは、探究活動のプロセスの中で、どのような学びが生まれているのか、ということです。とにかく論文を書かないと、地域課題の解決策を提案しないと、などと“行なうこと”にハマってしまっていないか。何のためにこの活動を行なっているのか、目的を見失わないようにぜひ気を付けていただければと思います。
・いきなり難しいことをさせない。段階を追って順々に。
どうしても、生徒にこのようなことを経験してみてほしい、などと想いが強かったり、逆に目的を見失ってやることにハマってしまっていたりすると、難しいことをいきなりさせてしまうことがあるようです。大切なのは、生徒にどのような学びが生まれているかです。生徒の状況を見ながら、調整して段階的にステップを作っていただけたらと思います。
・ネット検索で終わらせない。必ず五感を伴う実体験を。
生徒が、取り組んでいる課題が自分ごと化しない、という悩みをよく聞きます。ここで、ベテランの先生が共通して言われていたこととしては、ネット検索だけ、など机の上だけで終了する探究になってしまうと、“やらされ探究”になってしまうことが多いようです。ここで、外に出てフィールドワークをしたり、学校外に出ることが難しくても、実験をしてみるなど、五感を伴う経験を課題設定するプロセスで入れていくことが、とても大切だ、ということです。生徒にとって、体感を伴うことが、自分ごととして捉えて主体的に動き出すきっかけにつながります。ぜひとも、ネット検索だけで探究を終わらせないようにすることを意識してもらえればと思います。
ぜひこれらのことを意識して、総合的な探究の時間の計画を立ててみてくださいね!
(執筆:神原洋子/トモノカイ)
記事公開日:2019年11月8日