東京都内の5つの中学・高等学校が参加して、探究活動の成果を発表しあう「探究合同発表会」が12月16日、東京都多摩市の多摩大学多摩キャンパスで開かれました。生徒、教育関係者、一般参加者を合わせて約400人が参加。公立・私立の垣根を越えて、他校の探究活動に触れる貴重な機会となりました。本イベントの様子をリポートし、他校の生徒と触れ合いながら、自校の探究を見つめ直す新しい試みを紹介します。
生徒200人がプレゼンテーション
参加した学校は、多摩大学附属聖ヶ丘高等学校、東京都立成瀬高等学校、大妻多摩高等学校、東京都立大泉高等学校・附属中学校、多摩大学目黒高等学校の5校です。イベント当日、会場となるアリーナでは、各校の探究活動ごとに約40グループがブースを設けて、会場をまわっている方を対象にプレゼンテーションを行いました。中学3年から高校2年生まで、約200人の生徒が参加。各校とも立候補制で参加者を決めました。
午後2時から発表会がスタート。「良かったら聞いていきませんか」「見ていってください」――。掲示ポスターを眺めていると、生徒たちから積極的に声を掛けてくれます。多摩大学附属聖ヶ丘高等学校の生徒は、同校の「探究ゼミ」の一つ、PRゼミの活動を紹介してくれました。「探究ゼミ」は8つのテーマに分かれて同校2年生が全員参加する活動です。
生徒は「学校内だけではできない良い経験だと思います。他校がどんな活動をしているのかも気になるし、発表を聞くのも楽しみです」と話してくれました。他校の生徒の存在が良い刺激になっているようです。
また、東京都立成瀬高等学校の2年生は「発表は緊張しました。なかには厳しい意見もありましたが、いろいろな意見が聞けて参考になりました。スライドの作り方など、もらったアドバイスは今後に生かしたいです」と力を込めていました。
生徒たちの発表形式は自由。パソコンを持ち込んでパワーポイントを駆使して説明したり、動画を流したりと、それぞれがわかりやすく伝える工夫をしていました。
先生方も、生徒たちの変化に驚いていました。東京都立成瀬高等学校の宇都宮先生は「もう始まった瞬間から急に生徒たちの顔つきが変わりました」と驚きの表情。「校内とは違って、全然知らない人たちに説明しないといけないので、すごく刺激を受けているなと感じています。今まで内向きになりがちだった生徒たちでもここまで楽しそうにやっているのは、こちらとしても嬉しいですね」と笑顔を見せます。
先生自身も他校の探究活動に興味津々です。「他校が組織的にどんな取り組みをしているのか興味がありますし、生徒さんがどのくらいのレベルのものを出してきているのかも気になります。他校の探究の成果発表を見ることはなかなかないので貴重な機会だと思います」
生徒同士が刺激し合い成長の糧に
今回の発表会は、多摩大学附属聖ヶ丘高等学校の出岡由宇先生が、日頃交流のある探究担当の先生方に声を掛け、実現しました。発表会の目的の一つは、高校生同士が互いの成果を発表し合う場を作ることです。「高校生同士が発表を聞き合って刺激を得る機会はすごく希少だと思ったので、探究でお付き合いがあった学校の先生たちに声を掛けました。同い年の生徒がどんなことをやっているのか、大学生や偉い人の話を聞くよりずっと刺激になるでしょう。お互いにどんなに出来が良かろうが、悪かろうが、絶対にみんな、すごいって感じるはずです」(出岡先生)
プレゼンテーションを実践することによる成長への期待もあります。出岡先生は「プレゼンの仕方もそんなに練習していなくても、いざやってみれば意外とできる。自分たちでその場でいろいろ修正もしていくし、今日一日の経験だけでも随分変わるのではないかなと思います」と話します。会場には地域住民をはじめ一般の方も来場して、生徒たちの発表を熱心に聞いていました。「いろんな大人が一緒になって高校生を育てる。教員の出番なし、それでよし、です」と満足そうな表情でした。
他校の活動は先生たちの刺激にも
参加した先生方も、生徒たちの発表風景からたくさんの示唆を得たようです。
大妻多摩高等学校の小関先生は「本校の生徒たちにも、もっともっと頑張ってもらえるように、探究の授業の仕組みをしっかり作っていかなければならないという思いを改めて強くしました」と話します。「教員自身が、探究の意義が分かっていないと、生徒にしっかり語りかけられない。今日は、探究を頑張れば生徒たちがこんなに生き生きするんだということを目の当たりにすることができたので、これから生徒に語りかけるときに、言葉にもまた力が入るんじゃないかなと感じました」(小関先生)
出岡先生は、探究活動における横の連携の重要性を説きます。「探究をどうやって進めればいいか悩んでいる先生は多いですが、手法よりも、まずは何かを面白がったり、人とのつながりを楽しめたりするマインドが大事。学校内だけで完結するのではなく、人と人がつながることを楽しむマインドがあれば、自然に連携は生まれると思います。逆に言えば、探究がそうした連携のきっかけづくりになる可能性もあると思います」(出岡先生)
発表会に参加した生徒も先生も、互いに大きな刺激を受けていました。学校の垣根を越えて交流することで、多様な意見に触れ、探究活動自体もブラッシュアップされていくのではないかと大きな期待を感じさせるイベントでした。学校の枠組みを越えた連携が各地で広がることで、探究自体もより深みのある活動になるのではないでしょうか。
執筆:李香
企画・編集:佐瀬友香(株式会社トモノカイ)