SDGs時代に求められるグローバル教育の“今”と“これから”

目次

  1. なぜ、グローバル教育が求められているのか
  2. 文部科学省が提唱する「グローバル人材」とは
  3. 学校のグローバル教育はどうなっているか
  4. これからのグローバル教育に求められること

 

なぜ、グローバル教育が求められているのか

国際化・多様化の必要性が叫ばれて久しいが、いよいよその変化の波は経済界だけでなく、教育界へも押し寄せている。2020年度から始まる大学入学共通テストでは「英語4技能評価」が導入される。これは従来の読み・書きだけでない、聴く・話すという要素も含めたコミュニケーションツールとしての英語教育が重視されていることの表れだ。

その背景には世界的にグローバル化が進む中で、このままでは日本が取り残されてしまうという国の危機感があるように思う。少し古い資料にはなるが、文部科学省の「グローバル人材の育成について」によれば、日本の英語力はTOEFLの結果を指標とした場合に、163カ国中135位、アジア諸国のなかでも30カ国中27位と低位置にあるとしている。

「グローバル人材の育成について」(文部科学省)

こうした状況を踏まえて、文部科学省は初等中等教育からの外国語教育を強化することとし、さらに高校の「コミュニケーション英語」という必修科目に見られるように、「コミュニケーション」を重視した英語教育を推進している。

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また、経済界からも教育現場に対するグローバル人材育成の要請は強まってきている。これまで企業は素養のある学生を採用し、社内で教育をしてグローバルに活躍できる人材を確保してきた。しかし、少子高齢化などを背景とした国内市場の縮小とそれに伴う収益力の低下に直面している状況において、社内で育成する余裕がある企業は多くないようだ。

こうしたことから、教育現場でのグローバル人材の育成はますます注目を集めてきている。

文部科学省が提唱する「グローバル人材」とは

ところで、そもそもグローバル教育とは何なのだろうか? グローバル教育によって育成を目指す「グローバル人材」について、文部科学省は先に紹介した資料の中で以下のように触れている。

グローバル化が進展している世界の中で、主体的に物事を考え、多様なバックグラウンドをもつ同僚、取引先、顧客等に自分の考えを分かりやすく伝え、文化的・歴史的なバックグラウンドに由来する価値観や特性の差異を乗り越えて、相手の立場に立って互いを理解し、更にはそうした差異からそれぞれの強みを引き出して活用し、相乗効果を生み出して、新しい価値を生み出すことができる人材。
(「報告書~産学官でグローバル人材の育成を~」、産学人材育成パートナーシップグローバル人材育成委員会,2010年4月)
「グローバル人材の育成について」(文部科学省)より

世界的な競争と共生が進む現代社会において、日本人としてのアイデンティティを持ちながら、広い視野に立って培われる教養と専門性、異なる言語、文化、価値を乗り越えて関係を構築するためのコミュニケーション能力と協調性、新しい価値を創造する能力、次世代までも視野に入れた社会貢献の意識などを持った人間。
(「産学官によるグローバル人材育成のための戦略」、産学連携によるグローバル人材育成推進会議,2011年4月)
「グローバル人材の育成について」(文部科学省)より

この定義を踏まえると、グローバル人材の条件として「主体性」「多様性」といった言葉が鍵となりそうだ。すなわち、グローバルに社会とつながり競争/共生していくためには、他者と積極的にかかわりながら自分の考えを伝えていく「主体性」と、バックグラウンドの異なる人々と理解し合い共に歩める「多様性」を認める姿勢が必要ということだろう。

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学校のグローバル教育はどうなっているか

では、学校現場ではこの「主体性」「多様性」はどのように育まれているのか。筆者の少年期を思い浮かべると、英語の授業では歌を聞いたり、教科書に書かれた文章を読み上げるなど受動的な内容の印象が強いが、最近はだいぶ様変わりしているという。

体制面でいえば、英語を話せる教員も増え、ネイティブな外国人教員を常勤させる学校も増えている。教材についても実社会との接続を意識した、実践的な場面を伝えているものも多い。

また、交換留学やターム留学、海外研修、イングリッシュキャンプ、海外への修学旅行と限られた期間で異文化交流するためのメニューは豊かになってきている。昔に比べて、「多様性」への理解を育むインプットとしての刺激を受ける機会は、はるかに多くなっていると言えるだろう。

一方で、グローバル人材の要素として必要なもう一つの「主体性」を育む取り組みとしては、まだ課題が残る。他者とコミュニケーションを取るための主体的な行動を持続的に練習する“実践の場”が不足しているのだ。

冒頭で挙げたように日本はアジア諸国の中でも、英語力は低位置にあるとされている。この結果は他のアジア諸国との違いを考えたとき、日常環境も大きく影響しているのかもしれない。日本においては輸入品の説明書なども日本語に翻訳されているし、英語力を求められる場面はそう多くはない。しかし、他のアジア諸国では英語を公用語とする国もあるほど、英語を使って生活している人が多いのだ。

主体性というものは勉強して一朝一夕に身につく、というものではなく、日々の成功体験の積み重ねによって育まれるものだと筆者は思う。その意味では、自分の思考力・判断力・表現力を使って異文化コミュニケーションをするような場面の少ない日本の環境では、「主体性」を育むにはまだまだ足りないものがあるように思える。

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これからのグローバル教育に求められること

この「主体性」については、グローバル教育だけでなく、探究活動においても重要とされる要素だ。すなわち、自立的に行動し、積極的に課題を解決していこうとする姿勢。その際には、英語など特定の科目に限らず、学際的に知識や情報を動員して臨む。そうした体験を積んでいくことで、生徒は達成感や自己肯定感を感じることができ、また主体性へとつながっていくのではないだろうか。

そうした英語だけでない、学際的なグローバル教育を実践する学校も出てきている。「JICA地球ひろば」で紹介されている授業の実践事例には以下のようなものがある。

「自分も世界も未来へ向かって ~パラグアイとの出会いから~」(社会)

中学2年生向けの社会の時間に実施したというこの授業では、パラグアイを題材としながら世界が直面している課題に触れ、SDGsの学びへと接続していている。避難訓練時にインフラが使えない状況を想像させて開発途上国の生活への理解を進めたり、パラグアイの写真を使いながらフォトランゲージ(※)などを行なった。個人の学びだけでない、他者への共有なども実践し、テーマに掲げた【異文化理解、SDGs、コミュニケーション、キャリア、自己理解】の学びを深めている。

(※)フォトランゲージ……写真やイラストなどのビジュアル素材をみんなで観察し、気づいたことや思ったことなどを話し合うアクティビティの手法。

消化と吸収」(理科・家庭科・道徳・総合・学活)

こちらも中学2年生向けの事例だが、実践教科は理科を軸にしながら、家庭科などと連携させて実施。家庭科の調理実習でザンビアの主食である“ンシマ”をトウモロコシから作って食べ、理科の時間では消化酵素の働きについて学び、コメとンシマの違いについて考察するなどを行なった。その考察結果をザンビアの学生にメールで送り、さらに考察を深めたフィードバックをもらうということを実施した。

このように探究的な活動を通じて、グローバルを意識できるテーマを扱うことで主体的な学び、そして多様性への理解が育まれていきそうだ。

2030年に向けて“SDGs”として、あらゆるモノ・人を動員することで社会課題に立ち向かおうとしている現代。探究的なグローバル教育によって、主体性と多様性を備えた真のグローバル人材を育んでいけるのではないだろうか。

(執筆:小川史晃/THINK TANQ編集部)

記事公開日:2020年10月2日

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