探究的な学びを「キャリア」に生かす “自律的”な考え方が身につく探究とは?

★こんな先生方におすすめ★

・探究的な学びを、生徒に「自分事」として捉えてもらいたい先生方
・ICTを活用した授業実践に不安を感じている先生方
・キャリアと探究的な学びの結びつきが気になる先生方


大東文化大学第一高等学校は、板橋区に位置する共学校で、大東文化大学の板橋キャンパスが隣接しています。

同校では、身近なあらゆる課題を自律的に考えられる探究の時間を大切にしています。

また、ICTを活用した教育にも挑戦しているなど、新しいことにも学校全体で積極的に取り組んでいく姿勢が印象的です。

本記事では、同校の探究的な学びをリードする教育研究開発室の浅子香織先生より、「自律」に重きを置いた探究的な学びや、ICT活用への想いを伺いました。

10月に拝見した1年生の授業から、探究的な学びの実践の様子もお伝えします。

取材当日の様子。


総合的な探究の時間は「キャリア」につなげる

大東文化大学第一高等学校の探究は、3年間に共通する「自律」への意識を持ちながらも、学年ごとにその特徴が異なります。

1年生では、探究的な学びの基礎を固めることに重点を置かれていることから、『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き~導入編~』)が取り入れられています。
「探究とは何か?」という初歩的な学びからはじめ、いずれは生徒自らで探究のサイクルを回せるようになるまで、段階的なステップアップが期待できます。

『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き~導入編~』)

2年生では、1年生で身についた探究の基礎的な力を生かしたゼミ活動が行われます。
1つのゼミは20名程度で構成され、1学期は関心のある領域を選択して、2学期は自分の掲げたテーマで活動を進めていきます。

選択する領域は、先生方の専門性とも関連しており、教育改革からファッションまでと実に多様です。

いよいよ3年生では、キャリアに関連して「進路探究」が行われます。
ここで、ゼミ活動などを通じて見えてきた、自分の得意な事・好きな事といった、自分の“特性”という観点から進路を考えていきます。

どんな大学に進むのかを考える際も、偏差値やキャンパスの立地だけでなく、こうした自分の“特性”から考えることもできれば、キャリアの可能性が広がりますね。

自身のキャリアを考えることは、まさに答えのない問いに向き合うことです。
生徒たちが1年生の頃から学んできた基本的な探究のサイクルを応用して考え抜くその先に、自分の進む道が見つかるのが、まさしく探究的な学びの集大成といえます。

『高等学校学習指導要領 「総合的な探究の時間編」』より引用
出典:文部科学省


生徒それぞれが、各々の進路を考え始めるこの学年だからこそ、探究のサイクルを自身のキャリア探しに生かしていくことには、大きな意味があります。

「探究学習の意義が分からない」というお悩みを、先生からも生徒からも、時にその保護者の方からも、伺うことがあります。

しかしながら、大東文化大学第一高等学校における「進路探究」のように、探究的な考え方を進路設定に活用していくと、探究自体が自分の人生につながっているということがわかります。

この「自分の生き方・在り方」に関わるという点が、探究の意義そのものなのではないでしょうか。

「正解はない」 各クラスで異なる授業の様子

大東文化大学第一高等学校の「総合的な探究の時間」は、各学年の探究をそれぞれリードする3人の教育研究開発室の先生方が中心となって定めた授業方針に沿って、担任や副担任の先生方が各クラスで授業を行うという形式です。

大東文化大学第一高等学校における探究的な学びをリードする、教育研究開発室の先生方。
左から、岡田英雄先生、浅子香織先生、今井純先生。
※写真撮影時のみマスクを外しています。

声掛けのタイミングなど、授業の進行方針には決まりきった形はなく、むしろ先生方がそれぞれでアレンジできるようになっています。

今回筆者が見学した授業では、『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き~導入編~』)のインタビュー調査のlessonを応用し、その発表資料を個人で作成する回でした。
浅子先生が作成したワークシートを基に、生徒は自身の資料を作成していきます。

ワークとしては個人のものでありながらも、周りの生徒にも相談しながら考えられるのは探究の時間ならではでしょうか。
クラスによっては、4人ぐらいのグループを作って話し合うところもあれば、周辺の生徒同士で軽い意見交換を行うところもあるなど、多様です。

グループで話し合いながら、それぞれの課題を進めている生徒たちの様子。


また、浅子先生は、探究の時間が生徒にとって「安心・安全」である必要があるといいます。

同校においては、まずは生徒の意見を否定せず「認める」こと、そして先生自身が「楽しむ」ことで、生徒が安心して探究できる環境を整えています。

どのクラスにも共通して温かい雰囲気があったのは、まさに生徒が「安心・安全」を感じていることの表れでしょう。

今後「総合的な探究の時間」を本格的に実施していく中では、いかに先生方が「やらなくてはいけない」という意識にならずに、まずは楽しんでいけるか、ということが肝になるのかもしれません。

大東文化大学第一高等学校の「総合的な探究の時間」で、『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き~導入編~』)が用いられている。


中には、「これが正解! というものはないから」と、生徒に声掛けをしている先生も。
生徒が個人でワークを行っていると、自分の考えていることや方向性が合っているのか不安になってしまうことがあります。

しかしながら、こと探究的な学びにおいて絶対解はありませんし、失敗も学びの一環です。
なにも間違いにはならないから、安心してワークに取り組んでよいという環境は、探究に不安を感じる生徒にとって特に重要といえます。

「“SDGs”という言葉をはじめから使わずに、SDGsを学ばせたい」

浅子先生が大切にしている考えの一つとして、「“ワード”から入らず、身近なところから学んでいく」というものがあります。その姿勢は、「SDGs」に関する学びにも色濃く反映されています。

取材に答える浅子香織先生。言葉ひとつひとつが印象に残る。


「SDGsという”ワード”から解説してしまうと、生徒たちにとってどこか他人事になってしまう」と言う浅子先生。

例えば、フードロスの問題やゴミの量の増加などは、SDGsに関わる身近な問題です。
だからといって、入り口を「SDGsとは~……」としてしまうと、どうしても自分たちの生活と直接結び付けて考えにくくなってしまうというのです。

だからこそ浅子先生は、生徒たちの“興味・関心”を起点と出発して、自分たちで“体感”して学ぶというように、学びの入り口を身近なものにすることを重要視しています。

1年生の後半で行われる「グローバル探究プログラム」は、まさに“体感”する学びが表れている取り組みです。

「グローバル探究プログラム」とは、日本の大学に通う外国人留学生とともに「英語」を用いて探究的な学びを行うもので、大東文化大学第一高等学校では、1年生の全員が参加しています。

今年度のテーマは「“食”から知る世界」。
生徒たちは自分自身が食べたものの写真を用意し、普段食事をするときよりも一歩深い視点で、使われている食材に注目します。

例えば朝食に食べた「食パン」から、原料に使われている「小麦」に注目してみるだけでも、多くの問題が見えてきます。

日本における小麦の食料自給率は14%程度で、ほとんどを海外からの輸入に頼っていること。
その輸送にはどれだけのエネルギーが使われているのか。輸送する上で、環境にはどのような影響を及ぼしているのか。また、小麦の廃棄率はどれほどなのか、など。

ただ一つ、朝食の中の「食パン」だけでも、切り口次第で様々な問題が見えてきます。
そこに、「地産地消」や「フードロス」といった視点を加えるだけでも、SDGsにつながる学びに結びつきます。

このように、自分たちの身近にあるところから社会に目を向けていくことで、漠然としているような言葉でも独り歩きをさせずに自分事として学ぶことができるといいます。

自分事として社会の問題を捉えていく姿勢には、まさに「自律」が体現されていました。

同校の「グローバル探究プログラム」では、留学生と協力しながら、「英語」を用いてそれぞれの学びの成果を発表します。
普段使わない言語での発表というところで、生徒たちは苦労もするといいますが、それよりも留学生とのコミュニケーションを楽しんでいる様子が目立つといいます。

こうした、探究的な学びにグローバルな要素をかけ合わせて、世界へ目を向けられるような取り組みは非常に画期的です。

“自由な世界”で可能性を広げる 「 ICT教育」の充実

今年の1年生から、全員がiPadを所持

探究的な学びを推進するにあたって、活用していきたいのが「ICT機器」です。
大東文化第一高等学校では今年度の1年生から、全員がiPadを所持することになりました。

このiPadは、同校における授業全般に用いられており、探究の時間においては、ワークシートの共有や、成果物の作成にあたって活用されています。
授業を見学した際も、ワークシートが全員に送信され、生徒が個人でワークに取り組んでいる様子が見られました。


iPadに配布されたワークシートの記入は、手書きでもタイピングでも良いため、生徒それぞれの使い方ができる。

テキストの大きさや色も個人で選べるのは、デジタル端末であるiPadだからこその良さです。
タッチペンを用いて、手書きで書いている生徒もいるなど、生徒それぞれの自由な表現が際立っていました。

探究的な学びでは、生徒の自律的な「情報収集」が非常に重要になります。
いかに自身が必要とする情報を効果的に収集できるかが、課題の設定にも解決にも関わるからです。

その面では、iPadは、調べたいことをその場ですぐに調べられるので非常に便利です。
生徒たちは情報収集をしながら、同時進行で成果物を作ることもできるため、ワークが非常にスムーズになるといいます。

また、「授業で積極的にICTを取り入れていくこと自体が、ICT機器活用の練習にもなる」と浅子先生は言います。

かつてはなかった取り組みを始めたという点では、接続不良や操作の相違などイレギュラーな問題も起こるそうです。しかし、それをどう解決していくか、同じ失敗をしないためにはどうすればいいかを考えることも含めて学びになります。


iPadと教材を併用して行われる授業。
文字の入力やデータの保存方法など、端末の利用方法自体の学びにもなっている。

大東文化大学第一高等学校では、まだICTを取り入れて間もないということもあり、先生も生徒も少しずつ学びながら活用をしている段階です。

今後もICTの活用が求められる中で、まずは試行錯誤しながらも徐々に慣れ親しんでいき、いずれは先生も生徒も使いこなしていくという長い目で見た考え方は、ぜひ参考にしてみたいですね。

「iPadに、自由な世界がある」

浅子先生の言葉です。
動画から学ぶもよし、ノートがわりに使うもよし、大切だと思った瞬間に写真を撮るもよし。
生徒が次々に新しい活用方法を見出していくので、可能性は無限大です。

自身の目的に合わせて、情報を収集したり、活用方法を見出したりしていくことも、まさに「自律」が表れています。

総括

大東文化大学第一高等学校における探究的な学びは、ICTや教材を活用しながら、生徒一人ひとりが自律的に考え、そして自分の人生につなげることができるようになっていることが特徴的でした。

大東文化大学第一高等学校における探究的な学びに関わる資料を広げながら、
どんな質問にも丁寧に答える浅子先生。

「社会をハッピーにするために、自分を生かす」。

探究において、浅子先生がこうした考えを大切にしていることも、その一因といえるでしょう。
自分の好きなことや得意なことを知って、どのように社会貢献していくかを考えていく。
このように、自分のことを見つめ、社会に目を向けることは「総合的な探究の時間」だからこそできることなのかもしれません。

ぜひ、大東文化大学第一高等学校の探究的な学びを参考にしてみてはいかがでしょうか。

※掲載内容は取材時点でのものです。

◇ ◇ ◇

今後も、探究的な学習においてお悩みの先生方のお役に立てるよう、様々な角度から取材を行い、事例を紹介して参ります。

<大東文化大学第一高等学校に使用していただいている教材>

『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き~導入編~』)

トモノカイの探究教材『一生使える探究のコツ』シリーズご紹介ページはこちら


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(執筆:佐瀬友香/トモノカイ)

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