★こんな先生方にオススメ
- 探究を進めていく中で、時間不足や先生方同士の温度差を感じている方
- 探究学習の授業設計にお悩みの方
- 生徒たちが立てる問いに課題を感じている方
昨年末に開催した「冬の探究サミット2022」ではリアルタイムでのLIVEセッションを配信しましたが、普段の仕事で忙しい先生のために、期間中、都合のよいタイミングで見られる動画セッションも用意しました。
教室での探究を推進していくためのヒントになるような、「4つの壁」「学習メンター」「ファシリテーショングラフィック」「当社教材付録の特別公開」の4本がご覧いただけます。
この記事では、そのうちの3本の動画について一部内容をご紹介します。
動画ごとに異なる学びがありますので、ぜひ探究の実践に役立てていただければと思います。
動画①:探究学習における4つの壁を事例と共に考える~時間不足・課題設定・温度差・評価の壁~
株式会社トモノカイ 経営投資部門事業開発リーダーの高橋毅氏が、探究学習における4つの壁について、事例を含めて話しました。
探究を進めていく上での4つの壁
探究学習は、学校現場で進めていくにあたって理想と現実のギャップが存在し、乗り越えていく4つの壁がある、と高橋氏はセッションを始めます。
それは「フィードバック・課題設定」「教員間の温度差」「時間不足」「評価方法」という4つの壁です。
探究学習は通常の授業のように一つの共通のテーマに対して答えが一つというものではないため、これらの壁が生じやすく、それらを乗り越えていくための対策が一つひとつ紹介されました。
「フィードバック・課題設定」の壁には、Will Can Mustと外部の力
1つ目は「フィードバック・課題設定」の壁です。
高校の先生方も「フィードバック・課題設定」の専門家ではないことや、どこまで生徒に教えるべきかの線引きが難しい中、その壁を乗り越えるためにリクルート発祥である「Will Can Must」のフレームワークが有用だと高橋氏は話します。
「自分は何をしたいのかというwill」 「自分にできることのcan」「社会や企業地域から何を求められているのかのmust」という3つの視点が重なる部分を探究テーマとして設定することで、自身の興味ある等身大の社会的テーマが見えてくると。
課題も一度設定したら終わりではなく、生徒がフィードバックを受けながらどんどんアップデートしていくことが重要です。
ただ、ここは必ずしも先生がフィードバックを行わないといけないというものではなく、専門家など外部の力も取り込んでよい、と高橋氏は話します。
例えば、生徒が探究学習の伴走者役であるトモノカイの探究メンターと話し、疑問を言語化することで自身の課題の目的意識に気づくようになった事例も多くあるそうです。
「教員間の温度差」の壁を越えるには、フォロワーの存在が大事
2つ目は「教員間の温度差」の壁です。
探究は新しい取り組みだからこそ、先生ごとに向き合い方の温度差が出てしまいます。
その解決事例として、知識偏重型教育の意識が残っていたある高校での話がありました。
進路部長が、ある探究学習の大会出場という分かりやすい目標を立てて、先生・生徒全員を巻き込みました。
「難しいもの」と考えられていた探究を、実践を通して他の先生・生徒に理解させようとしたのです。
いざ校内から全国大会に出場するチームが出ると、担任の先生が積極的に関わるようになり、大会で出会う人から刺激を受けて触発され、進路部長の右腕的存在になっていくという現象も見られたそうです。
「組織の中だと、実はフォロワーと呼ばれる1人目の後に続く人たちをいかに見つけるかというところが大事になってくる」と高橋氏は語り、続いて第2、第3のフォロワーが増えていく好循環で温度差の解消がなされる、と話を続けました。
「時間不足」の壁には専門性を
3つ目は「時間不足」の壁です。
探究学習において、先生一人の担当生徒数が多かったり、先生自身の専門領域以外のことを調べたりと、多くの時間が割かれてしまいます。
ある愛知の私立高校では、生徒10人に対して先生1人で個別の面談をしていたのですが、探究学習が進んでいる学校ゆえに専門的な内容に踏み込むケースも多かったそうです。
そこで、言語を可視化するツールを利用しながら、専門分野に詳しいトモノカイの探究メンターがフィードバックすることで、生徒の気づきが促進され、テーマの焦点が絞れていった事例もあるそうです。
「評価方法」は生徒本人含めた複眼で
4つ目は「評価方法」の壁です。
「総合的な探究の時間」の学習指導要領では、評価において「多面的・信頼のおける評価」「過程を評価」が必要だと記載がありますが、その中でも「多面的評価」は、多様な評価方法や評価者を組み合わせて適切に運用する必要がありました。
そこを、ある京都の高校であった事例のように、まず生徒自身が自己評価すること、そして大学生や大学院生のようなメンターが評価すること、そして先生がそれを確認・承認するような流れにより評価の過程が可視化され、多面性を持った評価になっていくのではないか、と高橋氏は本人も含めた複眼視点評価の重要性を説きました。
▼トモノカイの探究メンターについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
動画②:生徒が自然と自ら学ぶ~「学習メンター式」探究授業の作り方~
この動画では、生徒が自然と自ら学ぶ授業をつくるための事例について、株式会社トモノカイ 学習デザイン領域 放課後支援部門の放課後ラボ室長 末松達氏とプログラムディレクター 山﨑英里奈氏が紹介しました。
放課後学習支援サービスを担う学習メンターは、厳しい独自採用条件のもと選ばれている
まず、学習メンターという存在は、トモノカイの放課後学習支援サービス「学習メンター式プログラム」を運営する現役の大学生であるという説明がされました。
「学習メンター式プログラム」は 首都圏や関西を中心に40校以上で導入されており、学校課題・目標に応じてカスタマイズして教育の支援を行っているそうです。
学習メンターは難関大学の学生が多いですが、ただ単に難関大学の学生であることや科目の指導が上手という理由でだけではなく、高校の生徒の成長目線に立って話せることや、教育・人の成長に強い関心を抱いていることなどをもとに採用されている、特別な大学生から構成されているそうです。
また、高校の生徒の憧れの対象となれるような人間的魅力を備えていることも学習メンターの条件に入っており、そのため大学の授業にしっかりと取り組み、自らも学習者である大学生が求められているようです。
生徒の探究心を促進する「学習メンター式」探究授業の4つの特徴
「学習メンター式」探究授業には4つの特徴があり、1つ目として「個人と集団」があります。
これは、個人と集団を行き来する授業展開を一つの特徴としており、全ての授業で、テーマ説明の後に個人ワーク、そしてグループワーク、最後に再び個人ワークに戻るという流れで行われます。
このサイクルを全ての授業に取り入れているところに、生徒が主体的に学べるようなカギがあると考えているそうです。
2つ目の「フレームワーク」は、社会的・学問的な事象・課題に対して思考や考察の手助けとなる思考のフレームワークの活用です。
ただ闇雲にアイデアを出させるのではなく、考察を広げるためのテーマに合わせてフレームワークを活用しているそうです。
3つ目としては「講師の学び」を活用した授業の実施。
講師である学習メンターは現役の大学生ゆえに、自身が興味関心のある学問分野の事象と課題に対し、より分かりやすく生徒さんに伝えることができるようです。
最後の4つ目の特徴は「進路選択へ」。
これは、そのまま進路選択につながる授業設計をしているということです。
講師が入れ替わりで授業を行うことで、生徒がさまざまな学問分野に触れられ、その中で生徒自身の興味のあること、ないことが選別できるきっかけともなるようです。
「学習メンター式」探究授業の経験者の声から分かること
動画では、「学習メンター式」探究授業に参加した生徒、先生、学習メンターの声などが紹介されました。
生徒からは「興味の幅が広がった!」「進路を考える面白さを発見!」などの声が聞かれ、先生からも「生徒がとても楽しそうにイキイキと授業に参加している」などの感想が寄せられました。
講師である学習メンターからみても、生徒は普段の講義形式の授業と異なる多角的なディスカッションや個人ワークの学び方に興味を覚えたり、様々なテーマを深く考えることで興味の幅を広げているようです。
生徒自身が探究して主体性を持つように授業が作られているので、ここで紹介された「学習メンター式」探究授業の作り方は、各学校における授業設計にも役立つものと言えます。
▼学習メンタープログラムについて詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください。
動画③:ファシリテーショングラフィックの考え方を参考にしたテーマ設定のコツ。問いかける、見える化、構造化。
人材開発事業×街づくり事業を行う、株式会社ビジネス・サクセスストーリーのCEO川九健一郎氏から、探究学習におけるテーマ設定のコツについてお話しいただきました。
また、このサミットの場で、キャリア教育の講師としても活躍する室伏長子氏との掛け合いによるテーマ設定ワークの実践も行われました。その様子の一部を以下に紹介します。
探究で求められる力は企業でも必要とされている
文部科学省が提示している「総合的な学習(探究)の時間」の学習指導要領では「実社会や実生活と自己との関わりから問いを見出し、 自分で課題を立て、情報を集め、整理・分析して、まとめ・表現することができるようにする。」とありますが、これはなかなか難しいことが書かれている、と川九氏は語ります。
学生だけでなく、企業の現場でも新商品のほか働き方改革や新規事業などアイデア発散というのは色々なケースで求められるものの、なかなかアイデアは出てこない、と続けます。
そこで川九氏がヒントとして提示するのが「ファシリテーショングラフィック(議論を描いて見える化して場を活性化)×システム思考」の考え方です。
テーマ設定は難しいが、自分自身で考えるようになるために大事なこと
社会人でも苦労するというテーマ設定は、高校の生徒に考えてもらおうとしてもなかなか難しいもののようです。
ただ、ある高校の探究テーマから見ると、偏差値がとても高い時代と、まだ高くなかった時代、どちらも高度なテーマを設定できていました。
「入学時の偏差値と研究力は関係ないということ。ワクワクできたら子供たちは夢中になれる」という高校の先生の言葉を引用した後、川九氏は「自分で考えていくということが探究学習のテーマなので、これをどうやってできたらよいのかについて進めていきたいと思います」と、次項でのテーマ設定の具体手法の提示を示唆しました。
ファシリテーショングラフィック×システム思考で、テーマ設定をする
「ファシリテーショングラフィック×システム思考は、問いかけるということと、見える化する・構造化すること」と川九氏は説明します。
「問いかける」は、当事者が抱えている考えや問題解決方法に気づくよう導くこと。
自分自身で考えるということができない人もいる中で、他者から問いかけられて自分が何を考えているかを気づけることがあるので、2人1組で行っていく方法をとるそうです。
「見える化・構造化」については、整理することによって自分や他者の理解促進のサポートをするという狙いとのこと。
考えをビジュアル化することで他者と共有がしやすくなります。
最後に川九氏と室伏氏でテーマ設定のワーク実演も行われ、「ファシリテーショングラフィック×システム思考」の使い方が分かりやすく提示されました。
最後に
答えが一つではない探究学習では、高校の現場で推進する上でさまざまな壁が存在します。
そこをトモノカイなど外部の力や、思考のフレームワークを有効に活用することで解決できることが分かりました。
今回の動画セッションは、期間中に繰り返し見ることができるので、一度ではよく理解できなかったところも復習できます。また、リアルタイムで行われるLIVEセッションと一緒に活用いただくと、さらに探究学習への学びが広がります。
今回の内容を見て、今後予定されている探究サミットでのLIVEセッションへの期待がますます高まりました。
執筆:向井小次郎
企画:佐瀬友香(株式会社トモノカイ)