学習指導要領の改訂に基づき、2022年度から高等学校で段階的に必修となる【総合的な探究の時間】。探究学習を通して育みたい力など目標が明確になったものの、具体的な探究活動に臨むためのテーマ・課題設定には悩まれる方も多いのではないでしょうか。
探究学習では、生徒が主体的に課題に取り組み、自分で意思決定するプロセスが重要です。せっかくなら、生徒にとって自らが選び、学びの実感がある有意義な時間にしたいですよね。
テーマといえば、「地域社会、SDGs、企業が抱える課題……」などいろいろなカテゴリーがあるなかで、今回は、生徒の“好きなこと”からテーマ設定の糸口を見つける方法を考察していきたいと思います。
目次
- よりよい探究活動を行うために、テーマをどのように設定する?
- 【探究学習の具体例】興味・関心のある事柄を深堀りしてみよう
- 授業だけではなく、日常の体験からヒントを得る方法
- テーマを探究することで気づく、社会の一員としての自分
- まとめ
よりよい探究活動を行うために、テーマをどのように設定する?
「総合的な探究の時間」とは次のように記されています。
総合的な学習(探究)の時間は、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標にしていることから、これからの時代においてますます重要な役割を果たすものである。
上記のことから、探究のテーマは「社会的に価値のあるものに設定しなければならない」と思い込んでいないでしょうか。
私たちは、探究活動とはどのようなテーマで学ぶかということ以上に、生徒が主体的に課題に取り組み、どのように学びを深めるかが重視されるべきだと考えています。
探究的な学習において、学校側が「どのような力を育みたいか」を軸に、テーマへ落とし込んでいくことはとても重要なのですが、そればかりを意識してしまうと生徒にとって“やらされ感”が強くなってしまうため、結果として生徒の主体的な学びにつながりにくくなると言えるでしょう。
では、探究活動を有意義なものとなるよう生徒が主体的に取り組むためには、どうすればいいのでしょうか。
まずは、探究学習の入り口を生徒の“好きなこと”でテーマ設定し、練習してみることをおすすめします。たとえば「趣味、特技、部活動、流行、教科」など。興味・関心があることをきっかけに、探究へのハードルを下げること。それが、はじめのステップとしては入りやすいのではないでしょうか。
”好きなこと”をより探究したい気持ちが芽生えたり、そこから派生するテーマを見つけられたりと、練習としての第一歩から本テーマに昇華させることも可能です。そして、自分の興味のあることであれば、与えられたテーマ以上に自分事化しやすいのは想像に難くないと思います。
ここで気をつけるべき点は、“好きなこと”に関する情報をインターネットなどで検索するだけで終わってしまうこと。なんとなく疑問に思ったことを調べてみると、それらしき答えが見つかることもありますが、そこで終わってしまってはあまり意味がありません。探究活動では「どのように課題を解決するか」のプロセスにおいての学びが非常に重要なのです。
つまり、答えを出せば終わりではなく、課題を自分事化できるよう、教員も生徒も意識することが大切になります。
【探究学習の具体例】興味・関心のある事柄を深堀りしてみよう
先ほど例に出した、“好きなこと”=趣味から具体的に問いを広げてみましょう。
たとえば、Aというファッションブランドでよく買い物をするとします。
Aを好きな理由は、種類が豊富で流行のデザインが安く手に入り、商品の入れ替わりが早いから。
<問い>このブランドは世界にどれぐらいの店舗があるのかな?
▶ インターネットで調べ、世界中に展開された店舗数を知る
ここで終わってしまえば、単に興味があることを調査したに過ぎません。問いを深堀りできるよう、以下のように切り口を変えてみます。
<問い>商品の入れ替わりが早いのは、生産の仕方に関係があるのかな?
▶ インターネットで調べ、外国では低賃金のうえ過重労働を強いられる人々がいるという事実を知る
ここで重要なのは、その情報源が正しいかどうかを見極めることです。インターネットは確かに便利ではあるのですが、信憑性に欠ける情報も混在しています。スマートフォンやPCを駆使するだけでなく、地域の書店や図書館を利用し、紙の媒体からも情報を収集しましょう。
集めた情報を整理し、分析してみます。そうすると、今まで見えてなかったものが見え、自分のなかに芽生える違和感に気づきやすくなります。その違和感を大事にすることで、さらなる探究していきたいという主体的な考えに変化し、掘り下げていくようになるのです。
商品の入れ替わりが早い、ということに着目してみると、“流行の移り変わりが早いこと”に違和感を覚えるかもしれません。
<問い>流行はすぐに去る、では余った商品はどこへいくのだろう?
▶ さらに調べ、大量に廃棄処分されている現実を知る
家庭ゴミも含め、衣料品の廃棄は地球環境にも悪影響を及ぼしているようだ
<解決方法の提案>ゴミを減らすには、リサイクルという手がある
<行動>リサイクル商品や古着を扱う会社がある。どのような理念のもと、会社を運営されているのか興味がわいた。社会活動のひとつとして、学校で講演してもらえないかコンタクトをとってみよう。その話を聞いた人の、意識が変わるきっかけになるかもしれない。
<気づき>そっか、SDGsの考えとはこういうことなのかな!
このように、“好きなこと”を糸口に問いを重ねることで、そこに潜む問題に気づくことができます。また、社会のなかで自分にできることや、新たな課題を見出すきっかけにもなるでしょう。
授業だけではなく、日常の体験からヒントを得る方法
探究学習では、課題の設定→情報の収集→整理・分析→まとめ・表現のプロセスを繰り返していきます。課題への視点は誰もが同じというわけではなく、また答えもひとつではありません。「総合的な探究の時間」では、教科書内の情報だけでなく、住んでいる地域や社会にも目を向けてみましょう。今まで興味がなく見過ごしてきた日常の景色のなかにも、実は知らないことがたくさんあるのです。
日常からヒントを得るためには、広い視野を持ち、問いを見つけ最適解を見出す作業を繰り返すことが大切です。その作業から小さな成功体験を感じることで探究の意識が身につき、より深いテーマにたどり着ける可能性があります。そして、課題解決へ向け問いを重ねるプロセスのなかで思考力・判断力・表現力が育まれていくことで、やがて多様性のある考察ができるようになっていきます。
ただ、課題を見つけなければと“have to思考”に陥ってしまっては、視野が狭まり、探究学習が目指す「主体的・対話的で深い学び」とはかけ離れてしまいます。そんなときは、あえて対象範囲を狭く設定し観察してみる。焦点を絞ってみると、広範囲で見ていた視点とは異なり、意外な発見などから課題が見つけやすくなることもあります。「あれ?」と思うことがあれば、そこから「なぜ?」の興味や好奇心が芽生え、意図せずとも課題の発見があるかもしれません。
テーマを探究することで気づく、社会の一員としての自分
探究学習は、将来のやりたいことを見つける絶好の機会だといえます。まだ自分の進路や夢が明確に決まっていないからテーマを設定できないと考えるのではなく、決まっていないからこそ、まだ見ぬ世界を深く知るチャンスだと思うのです。
たとえば、地域の産業に目を向けてみる。
はじめは興味を持てなかったとしても、情報を収集し課題を見つけていくプロセスのなかで、今まで気づかなかった側面や魅力に触れ、自身の目指す方向が定まる可能性も秘めています。
さらに、情報を深堀りし課題解決のアイデアを出すには、地域社会との連携が必要になるでしょう。そうした活動で得られる経験は、生徒に他者との協働性の意識を育みます。
このように、探究活動を通して生徒は、主体的な思考を持ち、ときに他者や地域と連携し、問題を解決する能力や資質を身につけることができます。そこで得られた「学びに向かう力」や「人間性」は、予測不可能なこれからの時代に不可欠であり、ひいては生徒自身のキャリアや仕事へとつながる重要な役割を果たすのではないでしょうか。
まとめ
探究学習において、あらかじめ決められたテーマがある場合、興味・関心が持てず何から始めればいいのか分からない生徒もいることでしょう。また、生徒自身にテーマを決めるよう促しても、インプット型の思考が抜けず、なかなか作業を進められないかもしれません。
テーマ設定に悩む際は、まず生徒の“好きなこと”から問いを見つけ深堀りする作業を繰り返し、探究活動そのものを楽しみながらプロセスに慣れていけるよう導いてあげましょう。そこから、段階的なステップアップを目指してみてはいかがでしょうか。
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THINK TANQでは、「探究」を多様な切り口や観点からとらえ、皆さまのヒントになるような情報をお伝えしてまいります。探究的な学びをより楽しく身近に感じていただけるきっかけとなれば幸いです。
(執筆/尾崎朋子)