都心から近くも、落ち着いた雰囲気をもつ大泉学園駅に、東京都立大泉高等学校附属中学校はあります。
都内で11校ある公立の中高一貫校のひとつで、東京都立大泉高等学校と同じ敷地にあります。
同校は「探究の大泉」を標榜しているように、中高にわたる6年間で探究活動に力を入れているのが特徴。2018年に「知的探究イノベーター」に選ばれたことをきっかけに、日々独自の探究カリキュラムを磨き上げています。
探究を推進する先生方の体制としては、全体設計を「知的探究部」が行い、各学年1名ずついる「探究担当」が各クラスでの実践に落とし込んでいくという形式になっています。
本記事では、同校での探究を推進する3名の先生からお話を伺い、着実に生徒の力を育む探究についてのヒントを探りました。
本記事でお話を伺った先生方
- 三好 健介 先生(中学探究カリキュラム設計、中学2,3年生担当)
- 山口 貴史 先生(高校2年生探究担当者、「OIZUMIAWARD」主担当者)*1
- 上野 洋平 先生(中学3年担任、探究学年主担当者)*2
*1 現 東京都立小石川中等教育学校勤務
*2 現 東京都立大泉桜高等学校勤務
左から、上野洋平先生、三好健介先生、山口貴史先生
探究サイクルを繰り返し回す。中学1年生からはじまる独自のカリキュラム
東京都立大泉高等学校附属中学校では、中学、高校を通した6年間で探究活動を設計しています。
東京都立大泉高等学校・附属中学校の6年間における探究活動のイメージ図
もともと高校では探究活動が行われていましたが、中高一貫という強みを生かして、3年前より中学生からの探究活動を本格的に始めました。
中学校での活動は、
- 社会課題(Social issue)に対して興味・関心をもつ
- 頭の中だけで考えて終わるのではなく、課題解決のためのアクションを実際に起こす
という大きく二つの軸を意識しているとのことです。
探究においては、フィールドワークや、外部とのつながりといった積極的なアクションのハードル(壁)がどうしても上がりがちです。
同校では、例えば企業と連携した探究活動や研究所の訪問など、座学だけでないアクションをカリキュラムに組み込んでいるため、中学生の段階でこの壁をクリアすることができています。
また、いわゆる数学や国語といった一般教科の学びだけでなく、例えば政治や経済の動きなど、社会について学ぶことも生徒たちが生きていくためには重要です。
こうした社会について関心を持てるようにと、中学1年生では、同校の位置する「練馬区」をテーマに探究のサイクルを回していきます。
自分の身近な地域から始めることで、徐々に視野が広がり、社会にも関心を向けられるようになっていくのです。
知的探究部に所属する三好先生は、中学校での探究推進のみならず、全体的な探究の推進も担う
加えて同校では、これら二つの軸を意識したうえで、高校での課題研究へとつなげていくために「問いを立てる、情報収集をする、検証する、まとめ・発表をする」という、基本的な探究サイクルを中学の段階で「何度も何度も回す」ことも重要視しています。
ここで活用されているのが、『SDGs×地域探究』です。
トモノカイの探究教材『SDGs×地域探究』
三好先生は、教材の活用について次のように語ります。
「特に中学1年生の指導にあたる先生方は、探究を指導すること自体初めてということもあります。だからこそ、共通の教材を学年で持つことで、一つ頼れるものがあるというのは、良いスタートを切るために必要だと感じます」。
教材を活用しながら、とにかく探究のサイクルをぐるぐる回して基礎を固め、具体的なアクションにも力を入れる中学校での取り組み。
これによって、高校での課題研究へとつながる効果に期待を寄せるのは山口先生です。
高校での探究や、OIZUMI AWARDの担当をする山口先生。どんな質問にも論理的に整理された明確な回答が印象に残る
「まず練馬区を起点に、世の中には色々な社会課題があるのだということを問いかけていくことで、課題研究時のリサーチクエスチョンの質も上がっていくと感じています。また、探究テーマを頭の中の理論だけで解決しようとして終わるのでなく、実際に社会へ向けて、汎用性のある解決策まで出すところまで落とし込んでいけるようになっていくのではと、今後に期待しています」。
高校での活動は、主に「課題研究」。
高校1、2年生で、生徒一人ひとりがゼミに所属し、自身の興味や関心のあるテーマに沿って課題研究に取り組んでいきます。
「高校での課題研究では、生徒自身の興味や関心をすごく重要視していて、この興味・関心が進路につながっていくように意識しています」と説明する三好先生。生徒の進路につながっていくからこそ、先生がテーマを指定することはなく、生徒が決めたテーマで自由に進めていくことを重視しているのだといいます。
その後、高校3年生での探究は自由選択という仕組みとなっています。
だからこそ、中学生のうちから探究に取り組み始めることで、5年間じっくり探究に力を注げるカリキュラムとなっています。
同校における中学で得た経験が、高校での探究につながっていくような体系立てられた探究活動の設計は、参考になるのではないでしょうか。
学年を超えて探究成果を発表する場。生徒が運営を担う『OIZUMI AWARD』とは?
東京都立大泉高等学校附属中学校では、今年はじめて「OIZUMI AWARD」を開催しました。
中学から高校までの全5学年で行う、校内での探究成果発表会です。
「中学から高校まで探究をやっているので、各学年で発表の場がおのずと増えてきていました。であればいっそ、全学年が同じタイミングで発表できるといいのではないかと、まずは始めてみたのです」と三好先生は開催の背景を説明します。
驚くべきは、企画や運営は中1から高2までの生徒が主体的に行っているということです。
OIZUMI AWARDの企画運営を担当した高校2年生2名、当日発表者として参加した中学校Ⅲ年生2名。
トモノカイからの質問に対し、それぞれの想いや意見をハキハキと、そして分かりやすく伝えてくれた
各学年から3名ずつ、(高校2年生のみ5名ずつ)集まって、
例えば
- 当日の班分けや運営の裏での動きの設計
- 発表室のレイアウト作成、およびそれを説明する動画制作
- チラシの外部発注
- 全体的なスケジューリング
など運営に関わることを、ICTなどのツールも活用しながら、基本すべて生徒が行いました。
中高一貫校だからこそ「縦のつながり」を大切にしたいという想いから、全学年合同で行ったといいます。
OIZUMI AWARDの担当をしていた山口先生は「基本的には、私たちから口出しなどはせず生徒に任せていた」といいます。
「失敗させてみないとわからないことがあるし、やってみたことで次につながることがある。それによってどんどんクオリティも上がっていくのだと思います」と山口先生が述べることからも、生徒がとにかく主体的に動ける環境があったことがわかります。
また、当日は「縦割り班」でまわるという仕組みも、生徒自身の“縦のつながりを大切にしたい”と考えた主体的な発案から実現しました。
実際にOIZUMI AWARDを終えて、上野先生は「中学生からみて、高校生という先輩の探究を見ることができたことが非常によかったようです」と、生徒からの感想を踏まえての所感を教えてくれました。
「例えば同じテーマの内容でも、違った切り口を持つ先輩の探究が中学生にとっては学びになったといいます。また、高校生からみても、中学生の探究すごいな!と思っていたようで。異学年での交流によってお互いに刺激をしあっていけるのがすごく良いことだと感じています」。
英語科の担当でもある上野先生
「日々の担任業務や教科指導で忙しいところを、知的探究部がまとめて動いてくれることがありがたい」と感謝を述べていた
なお、当日には発表を聞いた生徒同士でメモを手渡しするというフィードバックの機会もあります。
ここには、これまで取り組んできた中で得た知的探究部の気づきが生かされていました。
「評価する項目が多すぎると、各項目をチェックすること自体が目的になってしまって、内容に集中できないということから、発表に対するよかったことや新たな疑問など、ざっくりとシンプルなものに変更しました」という三好先生。
発表の場であるOIZUMI AWARDですが、そこで集まるフィードバックや質問などが、生徒にとっては「達成感」を感じるきっかけとなって、自信へとつながっていきます。
探究は、生徒を育てていく共通のツール
東京都立大泉高等学校・附属中学校では、教育目標として「自主」「自律」「創造」を掲げています。
グランドデザイン ー東京都立大泉高等学校・附属中学校公式サイトより
(http://www.oizumi-h.metro.tokyo.jp/main/annai-granddesign.html)
OIZUMI AWARDの企画運営も、生徒自らが主体的に動きながら一つの形を創り上げていったという意味で、まさにこの教育目標を体現していると言えましょう。
「教育目標に基づき、育てたい生徒像を明確にしたうえで、探究をどう活用していくのかということを考えていくのがよいと感じています」と、三好先生が語ります。
このように、探究そのものを、育てたい生徒を育てていくための「学校共通のツール」として考えるという点は、どの学校でも参考にできる考え方ではないでしょうか。
こだわりポイントは、先生それぞれで異なる。
東京都立大泉高等学校附属中学校での探究を推進する重要な役割を持つのは、三好先生や山口先生をはじめとする「知的探究部」の先生方です。
基本的なフレームの設計は知的探究部の先生方が行い、それを上野先生のような、各学年の探究担当の先生へ伝えることで、学校全体で探究を推進しているという構造になっています。
この体制こそ、学校全体で探究に力を入れて取り組める環境の基盤といえます。
担任の先生方は、授業やクラス運営の準備のためどうしても業務が忙しくなりがちです。その中で、探究に関するカリキュラム設計や活動の設計まで推進していくというのは、先生一人に対する負担がかなり大きいといえます。
一方で同校では、探究の全体的な統括を担うのは計6名で構成された知的探究部というように、各学年における担任の先生方とは切り分けて構成されています。
こうすることで、知的探究部の先生方は探究について考える時間を確保でき、担任の先生方もクラスのことに集中することができます。
知的探究部で決まった探究の方針などは、各学年での探究担当により、各クラスに広がっていきます。
こうして知的探究部と各学年の探究担当がしっかりと情報共有をすることが、企画と実践の橋渡しとなり、結果として学校全体に探究が行き届いているのです。
このように、それぞれの役割が明確に分かれていて、連携の体制が取れていることは、先生一人ひとりにかかる負担を最低限に抑えながらも学校全体で探究を推進していくヒントになりそうです。
時折笑いも生まれ、終始明るい雰囲気での取材となった
ここで、同校での探究において大切にしていることを問うと、山口先生は「知的探究部の先生それぞれで、こだわりポイントは全く違うんですよ」と言います。
「ただ、総合的にみたときに、すべてそろえば間違いなく良いものになるという共通認識があってやっています」。
先生方同士で、こだわりポイントが異なる。
それを合わせていこうとするのではなく、違っていてよいとしてそれぞれの良さで進めていくというのが、同校の探究における強みなのかもしれません。
まとめ
OIZUMI AWARD実行委員の幹部であった高校2年生の鈴木君は「探究は物事の考え方の根本であると感じていて。これから大人になるときに、できる・できないで差がつくところだと思います」と述べました。
まさに探究を、自分の「生き方」へ活用していこうとしている姿がはっきりと表れています。
知的探究部と各学年の先生間での連携や、学校の特徴を大いに生かしたカリキュラムの設計など、様々なこだわりがつまった同校の探究が、生徒の前向きな気持ちを作り上げているといえます。
東京都立大泉高等学校附属中学校の取り組みをぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
<東京都立大泉高等学校附属中学校にご導入いただいている教材>
『探究×SDGs 地域課題解決のコツ』
『探究×SDGs “地域の課題”解決のコツ』ご紹介ページはこちら
>>>これまでの事例取材記事はこちらよりご覧いただけます!<<<
執筆:佐瀬友香(株式会社トモノカイ)