地域の未来に「ゲーム」で向き合う? 自治体と学校が協創する探究的な活動とは

「ハローキティにあえる街」としても有名な多摩センターを抱える東京都多摩市。多摩ニュータウン開発とともに都市化が進み、緑が多いという自然の豊かさを持ちながら、都心へのアクセスも良いことから、暮らしやすい街として人気があります。一方、少子高齢化に起因する諸課題への対応に加え、公共施設の維持・更新への対応などが求められています。

そんな街づくりを進める多摩市が高校生と協働して実施したユニークな取り組み「SIMULATIONたま」をご紹介します。

「SIMULATIONたま」とは、一言でいえば「多摩市をモデルにした対話型自治体経営シミュレーションゲーム」で、熊本県庁職員の自主活動グループ「くまもとSMILEネット」が約5か月間で自主開発した「SIMULATION熊本2030」をベースに、多摩市バージョンにアレンジしたものとなっております。

 

<参考:「SIMULATION熊本2030」についての資料>

https://www2.vled.or.jp/archives/vled/symposium2015/training/sim_KUMAMOTO.pdf

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「SIMULATIONたま」の様子

本記事では、「SIMULATIONたま」について、イベントレポートとして内容を紹介するだけでなく、実際に一生徒(一参加者)として参加した筆者の視点から見えてきた発見や気づきについてもまとめてまいります。

 

目次

1.  体験レポート! 実際に市役所で行われているワークショップに参加してみた!

約2時間をかけて行われた「SIMULATIONたま」。

5人組3グループがそれぞれ“たまみらい市”の市役所職員として、この先の施策方針についてシミュレーションを行っていきます。

一連の流れとしては大まかに、以下のように進みました。

 

①イントロ 
②1巡目ワークスタート 2020年~2024年
③施策方針の発表
④2巡目ワークスタート 2025年~2029年
⑤まとめ

それぞれについて、少し詳しくみていきます。

①イントロ 

始めの段階でまず、ゲームの説明が行われます。しかし、淡々とルールが説明されるわけではありません。「市長からの訓示」として、“たまみらい市”の市長からの命を受けた形でゲームが始まるので、まるで自分が本当に市役所職員になった気持ちでゲームの世界に入り込むことができます。また、配布された資料には、“たまみらい市”の地図や、人口、面積などの概要が記されており、リアルに市の存在を感じることができます。

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いよいよゲームスタート!の前に……。市長からの訓示が!

一通り説明を聞き終えたあとは、グループ内で役割分担に入りました。ここで用意されている役職としては「総務部長」「子ども教育部長」「健幸部長」「くらし経済部長」「都市づくり部長」の5つがあり、それぞれで話し合って一人一役を決めます。

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一人ひとりへ、役職が記された辞令が渡されます

その後、いきなりゲームが始まらないのも面白いところ。

まずは今回の施策方針について、会議のような形で、それぞれの立場に割り振られたセリフを読み合わせていくのです。

多摩弁なまりがある総務部長の「高齢化の進展で、税金収入が増えない一方、社会保障費増加への対応に1億円が必要なんよ」というリアルなセリフから始まり、最終的なミッションへの共通認識を図っていきます。

 

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読み合わせ中の様子。声を出すことで、緊張をほぐす効果もあります

実際に読み合わせを行ってみると、一人ひとりが自分の役職のセリフを読みあげていくため、自身に求められていることを自分事化して認識することができた感覚がありました。「私が健幸部長だ」というような実際に市の職員となって施策を考えていくのだという“没入感”が、生徒が自分事化してワークに取り組める工夫になっているといえます。

 

②1巡目ワークスタート 2020年~2024年

【状況】
・超高齢社会に突入
・施設維持費の増加
・AI時代

【ミッション】
・合計2億円の捻出(事業廃止or借金)
・商店街活性化事業(1億円)の実施判断
・STEAM教育推進事業(1億円)の実施判断

イントロが終われば、さっそくシミュレーションの時間。

この時間で、ミッションの達成に向けて施策を削るか、借金をするかの検討をしなくてはなりません。

1ラウンドの15分間で5年の月日が流れる設定なので、ここで5年後の未来を想像しながら、予算と施策を検討していきます。

 

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ワークではそれぞれの役職が持つ施策カードを大きな発表シートに貼って施策方針を可視化していきます。シンプルで分かりやすいです

「高齢者の雇用は今後も力を入れて取り組むべきだから、この施策はカットできない」「教育に力を入れ未来に投資をするには、STEAM教育の取り組みもここで入れるべき」「こうなったら借金もやむを得ない」など、それぞれが自分の役職における立場や責任をもって議論に挑みます。

限られた時間と予算の中で、どんなことを行い、なにを諦め、どこにお金を使うのか。答えのない問いであるからこそ、お互いの主張を聞きながら自分の意見も伝えるという、話し合いが非常に重要になりますね。

 

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議論が白熱するあまり、筆者も気づけば立ち上がっていました

 

③施策方針の発表

なんとか15分の議論を終え、3グループそれぞれが、この5年でどんな施策を行い、どこに予算を使って、何に力を入れていくのかという方針を決定しました。

せっかく話し合って出した結論。このタイミングで、他の市にも共有をします。

今回は、3グループ中の2グループがほぼ同じ結論に至りました。

グループで作成したシートをもとに、方針を共有します

筆者が参加したグループを含む2グループは、まず他の教育や福祉に力を入れるべく、「ゆるキャラ」の施策を真っ先に切りました。他1グループは、むしろ「ゆるキャラ」の施策を残し、あえて違う施策を削ったのです。私たちのグループからすると衝撃でしたが、その理由が「まずはゆるキャラの施策によってお客様を誘致することで商店街に活気を戻し、そもそもの経済効果を上げていく」というようなものでした。

「なるほど、確かに。そういう発想もあったのか!」

このように、自分たちだけでなく、他のグループの結論やその理由を聞くと、新しい視点が生まれます。その結果、一つの課題に対して、様々なアプローチがあることや、多様な視点から向き合うことができることを、身をもって学ぶことができます。

 

④2巡目ワークスタート 2025年~2029年

【状況】
・団塊の世代が75歳に
・進む人口減少
・モノレール/リニアの整備

【ミッション】
・合計2億円の捻出(事業廃止or借金)
・スマートモビリティの導入支援(1億円)の実施判断
・移動出張所事業(1億円)の実施判断

 

1巡目で5年が経過し、時は2025年になりました。

社会の状況も変化し、新たに施策方針を調整する必要があります。

そしてもう一つ訪れた変化としては、「部署異動」です。全員の役職が入れ替わります。

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予想だにしなかった展開に、会場からは驚きの声が響きました

なんともリアルです。実際、ずっと同じ立場から、同じことに力を入れ続けるようなことは、現実社会では珍しいことです。だからこそ、臨機応変な対応が求められているのだと言えます。

ゆえに、2巡目では、1巡目で「総務部長」だった人がいきなり「子ども教育部長」になるなど、立場の変化に応じた施策方針の検討が行われます。

私自身も「健幸部長」から「くらし経済部長」になったため、これまでの5年間で優先してきた高齢者向けの事業は後任に託しつつ、新たにくらしや経済に関わる事業について考えることになりました。

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話し合い中、誰かの発言を頭ごなしに否定したりする生徒は一人もいません。どのグループもお互いの意見にしっかり向き合っていました

 

自分の立場にとって大切な施策を守りながら、財政状況を鑑みて、必要になる施策を追加していくこのプロセスは難しいものでしたが、ゲーム内容への理解度も1巡目より深まっていることもあり、参加している生徒の誰もが自身の意思をしっかりと伝え合っていました。

また、「私の部署はとにかくこうしたいんだ」と、利己的な発言をするのではなく、あくまで自分の役職が求める現状と理由をはっきりと述べつつ、お互いの意見にはしっかりと耳を傾ける姿も印象的でした。

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答えがない問いに対し、自分たちの最適解を探っていきます

他者の意見を聞き入れているからこそ、「確かにその意見を踏まえると、高齢者への施策は削れないよね」「私の担当するこの施策は切りたくないけど、子どもたちへの投資の方を優先するなら切っても仕方がないかな」というように、広い視野で発言ができるのだと感じました。

 

⑤まとめ 

本来は3巡目のワークがありますが、今回は2時間と限られた時間の中だったため、2巡目のあとにそれぞれ施策を共有してから、最後のまとめに入りました。

やりっぱなしで終わりにせず、学びを復習するまでが「SIMULATIONたま」です。

ワークを通じて学んだことや感想をグループごとに共有してから、閉幕しました。

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最後のまとめの1スライド。今回のワークを思い返しながら、学びにつなげます

筆者の参加したグループでの感想として印象的だったのは「話し合いの大切さに気づけた」という感想が多かったことです。ワーク中には、自分との立場を踏まえながら、とにかく時間がない中で自分たちの答えを出さなければいけませんでした。その中で、話し合いは鍵となる行動です。

全2回、計10年の施策方針を決める中で、自分の想いを伝え、相手の意見を聞くという話し合いの大切さに気づけたのは、大きな収穫だといえます。

 

2.ワークショップの工夫からみる、探究的な学びに大切なポイント3つとは?

「SIMULATIONたま」で行われていた工夫は、探究的な学びに大切な要素がいくつも盛り込まれていたと感じました。以下にまとめてみます。

①自分の役に入り込める環境で、「自分事化」を促進すること

ワークでは、生徒がそれぞれの役職になりきってセリフの読み合わせをする場面や、自分の部署のものだとわかりやすく色分けされた事業カードがありました。また、市長の訓示からゲームの目的を確認する場面もありました。

これらはすべて、自分の役に入り込める工夫だと捉えられます。

自分の役に入り込める世界があると、生徒たちは「自分事化」してワークに向き合うことができるのではないでしょうか。

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施策内容が書かれたカード。役職ごとに色分けされているので、自分の担当が一目で分かります 

そして「自分事化」された状況では、シミュレーションもただの机上の空論でなく、自身の考えに基づいて議論された結論が出てきます。

探究的な学びにおいては、他人事だとどうしても中身の浅いものになってしまいがち。だからこそ、この「自分事化」が非常に重要であり、そのための工夫は大切な点だと考えられます。

②役割チェンジで多様な視点から物事を考える機会を与えること

一人が一つの役職に縛られるのではなく、途中で変更される場面がありました。

こうすることで、一つの狭い視点からではなく複数の視点から、より広く物事に向き合うことができます。

探究的な学びにおいては絶対解がないことから、様々な視点から課題に向き合うことが必要とされます。そのため、今回のようにゲームとして楽しみながら、複数の視点を得られる工夫は興味深い点でした。

③ゲームとしての工夫で楽しめるポイントが多い活動であること

「SIMULATIONたま」の中には、様々な変化やイベントがちりばめられていました。

ある施策を切り捨てたことが、次のターンでマイナスポイントにつながったり、逆にボーナスポイントにつながったりもします。そして、毎年同じ施策が継続されるのではなく、新しい施策も追加されます。他にもたくさん、ゲームとして面白くなる工夫があったことはこれまでに紹介した通りです。

 

ランダムで議会のチェックが入ることも。しっかり説明できるようにしておかねばなりません

このように、まずは参加する生徒が楽しめるようなゲームとしての工夫が豊富にあることが、生徒が楽しんでワークに参加できていた理由の一つでしょう。

生徒が楽しめない探究的な学びは、ただ無理やりやらされているような形だけの探究になってしまう危険性をはらみます。自分で考えて自分なりの答えを出す力を育てることが学校での探究学習の意義ですから、やらされている探究では意味がありません。その意味でも、まずは生徒が楽しめる工夫が重要なのです。

 

3.積極的な話し合いの秘密は普段からの授業にあり?

前段でも触れている通り、「SIMULATIONたま」に参加した多摩大学附属聖ヶ丘高等学校の生徒は、みなが主体性を持ち、積極的に話し合ってワークを進めていました。

しかし、そうした状況を整えるのは、なかなか簡単なことではありません。ではなぜ同校の生徒は、これほどまでに主体的な行動がとれていたのでしょうか。

その秘訣は、「総合的な探究の時間」における普段の授業の中にありました。

筆者が見学した多摩大学附属聖ヶ丘高等学校の1年生の様子

まず同校の探究学習の時間は、先生の自由な発想で展開されることが大きな特徴です。クラスごとの進め方が、担当する先生それぞれの裁量となっているのです。

そのため、共通したテーマを持っていながらも、決まった進め方はありませんし、マニュアルも存在しません。

筆者が見学した1年生の3クラスにおいても、先生によって問いかけ方や話し合いの時間の取り方などが全く異なっており、それが各クラスの個性として表れていました。

先生ごとに自由な授業展開ができるということは、そのクラスの傾向や特徴に最適な授業形式をとれることと言えます。

「このクラスの生徒の主体性を育むには、どのように授業を進行すると良いのか」。生徒たちの特徴と目指すべきゴールを照らし合わせて、先生ごとに自由な授業展開ができると、探究的な学びの可能性が広がります。

全3クラスで展開される授業は、クラスごとの個性が表れていました。前画像のクラスでは、個人で考えてワークシートにまとめる時間が丁寧な印象で、こちらのクラスでは、問いかけが多く発言重視な印象がありました

特に同校では、どのクラスにおいても、生徒が主体となって活動する場面が多くありました。中でも特に印象的だったのは、クラス内を自由に歩き回ることのできる話し合いの時間です。移動も人数も生徒の裁量のため、隣の人と2人で話しても、一番席の離れている人たちと5人で話してもOK。決められたグループが存在していないため、生徒が主体的に動いて、それぞれで議論を行う必要があります。

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話し合い時の様子。各自が自由な場所や人数でお互いの意見を共有しています


こうした活動によって普段から生徒の主体性が育まれているからこそ、「SIMULATIONたま」のように他者と話し合うことが重要な場面でも、生徒は主体的に議論を進めることができるのではないでしょうか。

総括

今回は、多摩市と多摩大学附属聖ヶ丘高等学校が協働して取り組む「SIMULATIONたま」を中心に、地域と共に創り上げる探究的な活動の実態や、生徒の様子をご紹介してまいりました。また、実際にお邪魔した多摩大学附属聖ヶ丘高等学校での授業との関連性についてもまとめてまいりました。

自分で何かになりきって未来を考える「SIMULATIONたま」のようなワークは、まさに生徒が主体となって行える探究的な活動だといえます。正解はありませんが、自分たちの意思で話し合った結果、自分たちなりの答えを出すというプロセス自体に大きな意味があります。

また、今回のように、地域がワークを作り、そこに高校生が参加するという関係性は、同じ地域に関係するもの同士による「協創」を実現させていました。

このような取り組みは、地域にとっても学校にとっても、学びや関係性の広がりができるため大変画期的です。ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。

 

執筆:佐瀬友香(THINK TANQ編集部)

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