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10年続く「ステージ論文」を探究的な学びへ 課題の再認識と共通理解の重要性 | 日本探究部 powered by トモノカイ

10年続く「ステージ論文」を探究的な学びへ 課題の再認識と共通理解の重要性

★こんな先生方にオススメ★

・学校に根付く取り組みを探究的な活動へと昇華させたい先生方
・探究的な学びを行うにあたっての課題へのアプローチが気になる先生方
・探究におけるチーム体制と学校全体での認識合わせが気になる先生方


全国的にも珍しい中等教育学校のうちの一校である、東京都立三鷹中等教育学校。

同校では、「探究プロジェクトチーム」(以下:探究PT)を中心に、探究的な学習に取り組んでいます。

本記事では、探究PT結成のきっかけの存在であり、チームを推進してきた歌川雄介先生をはじめ、副校長の山本進一先生、細野誠治先生、現在の探究PTのメンバーである石黒直子先生と稲葉侑紀子先生から、同校の探究的な取り組みについて伺いました。

三鷹中等教育学校の探究的な学びをリードする探究PTの先生方

6学年ではぐくむ“探究力” 段階的なステップアップ

三鷹中等教育学校は、中学校1~3年生に該当する前期課程と、高等学校1~3年生に該当する後期課程からなる、6年間の一貫校。
6年という継続した時間軸を生かして、生徒の探究的な学びを積み上げていきます。

前期課程には、学校設定教科として「探究」が令和3年度より設置されました。
生きていく上で大切になる思考力や判断力、表現力や課題解決能力をはぐくむことに重点が置かれています。

また、後期課程における「総合的な探究の時間」の充実もあわせ、6年間を通した探究活動の発展が見込めます。

加えて、三鷹中等教育学校における探究的な学びでは、前期・後期課程を通して2学年ごとにステージを設定することで、生徒たちが段階的にステップアップできる設計になっています。

三鷹中等教育学校における「ステージ探究」。段階的なステップアップができる設計となっている。


ファーストステージでは、まず基本的な探究のプロセスを学びます。
例えば、探究の基礎・基本となる部分を『一生使える探究のコツ 練習編』(旧:『一生使える探究のコツ 思考の手引き ~整理・分析編~』)を用いて学び、座学やワークを通して探究活動の土台を形成しています。

同時に、地域を題材に課題発見や解決を行う手法を身につけていくために、より地域での探究に着眼点を置いた教材として『探究×SDGs』も導入されています。
教材を使って、改めて自分の身近な地域を見つめ直すことで、生徒が自分事化して探究活動に取り組むことができます。

トモノカイの探究教材。『一生使える探究のコツ 練習編』(旧:『一生使える探究のコツ 思考の手引き ~整理・分析編~』)『探究×SDGs』は1・2年生で、『一生使える探究のコツ 実践編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~課題研究編~』)は4年生でそれぞれ用いられている。


続くセカンドステージでは、より実践的な学びとして、課題研究を軸とした探究活動が中心です。
『一生使える探究のコツ 実践編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~課題研究編~』)を用いながら、生徒たちが自分自身で仮説の設定から検証まで行えるようなノウハウを学びます。
また、最終学年での取り組みに向けての準備も始まります。

サードステージでは「ステージ論文」の作成が中心になります。
ステージ論文とは、生徒全員が6年間の集大成として書き上げる課題のことです。
いよいよ最後のステップで自らに向き合いながら論文を書くことで、ここまでに身につけてきた基礎を実践に応用することになります。

  「ステージ探究」のどの段階でも、学習プロセスを反復することが重要視されている。


このように、はじめは探究の基礎的な学習からはじめ、実践を組み込みながら、最終的には生徒が自分自身で探究のサイクルを回せるように設計された三鷹中等教育学校のカリキュラム。

ステップアップを無理なく促す段階的な学びが、生徒たちの“人生設計”にも関わるような、生きていく上で大切な力をはぐくむことへとつながっていました。

6年間の集大成へ 「ステージ論文」の取り組み

後期課程の3年間を通して、生徒一人ひとりが書き上げるステージ論文。
生徒たちが自ら課題を設定し、仮説検証や研究を行って、最終的には論文にまとめて発表をする一連のプロセスは、まさに探究的といえます。

論文のテーマも生徒自身が決定しますが、ドローンなど最新技術を活用した地域の安全対策や、身近な野鳥の鳴き声の研究など、じつに幅広く多様です。
生徒一人ひとりのもつ興味や関心、好奇心に沿ったテーマ設定ができていることがわかります。

また、ポスターセッションなど、生徒全員が参加できる形式によるアウトプットの機会も確保されており、やりっぱなしで終わらない体制も整っています。

今年度12月に予定されているポスターセッションでの発表に向け、日々準備を進めているという石黒先生。どんな学びが共有されるのか、期待が膨らみます。

加えて、4・5年の生徒同士による意見交換を行われているなど、学年の壁を越えた学びの共有もされているのが特徴的。
ステージ論文の中間報告会も、この2学年で行われています。
みんなでよりよい学びを形成していく、学習の協働化が図られているのです。

探究PT結成のきっかけに 「ステージ論文」の課題とは

ここまでに述べてきたように、ステージ論文は三鷹中等教育学校の探究活動における大きなポイントとなっています。
しかしながら、はじめから今のような存在だったわけではありませんでした。

まず、生徒のアウトプット機会の創出という部分に問題がありました。
生徒全員が、ステージ論文に懸命に取り組むものの、それを全体に発表できるのは一部の生徒にならざるを得なかったのです。

せっかく完成した論文を共有できない生徒がいるということに、先生方も課題を感じていました。

また、先生にとっての負担という意味でも、問題がありました。
ステージ論文の指導にあたっては、論文を執筆するというその内容から自然と、国語科での先生方が中心となっていました。
しかし、1学年あたり160人もの生徒が書く論文をすべて国語科の先生方で受け持つには、あまりにも負担が大きかったのです。

探究PTにおける取り組みがまとめられた資料。現状の課題感や目標が明確に記されている。


生徒にとっても、先生にとっても問題が大きくなっていたステージ論文は、ここ数年で形骸化しつつあったといいます。

一方で、探究的な学びの実践の必要性も、学校教育に求められているものが変化する中で日に日に大きくなっていました。
そうした状況下で、ステージ論文の指導にあたっていた国語科の歌川先生は、実はステージ論文への取り組みが、まさしく探究的な活動であることに気づいたといいます。

論文を完成させるまでの、課題を発見して仮説を立てることや、情報をあつめてまとめるプロセスはまさに探究的な学びです。

そこで歌川先生を中心に結成されたのが、教科の垣根を越えた先生方によるチームでした。
ステージ論文専門のチームを結成することで、国語の先生だけにかかっていた負担を分散した上で、取り組み自体の再起を図ったのです。

このチームが現在、三鷹中等教育学校の探究活動をリードする存在である「探究PT」です。

歴史ある活動 探究学習として再スタート!

歌川先生を中心にした探究PTによって、形骸化しつつあったステージ論文の意味を再認識し、探究的な学びに昇華させる動きが始まります。

探究の先進校での研究会に参加したり、外部講師を招いて定期的な校内研修会を開催したりと、三鷹中等教育学校にとって最適な探究学習の在り方を探っていきました。

積極的に他校に足を運んでいたという細野副校長は、こうした行動を繰り返し行うことにより「探究って何?」という先生方の思いを、少しでも解消したかったといいます。

これまでやってきた取り組みを探究学習として確立するには、もちろん先生方の理解が不可欠ですが、副校長が率先して動くことで先生方へのモチベーションにもつながっていたのではないでしょうか。

「“探究って何?”という先生方の思いをできるだけ解消したかった」と語る細野誠治副校長。
自ら探究の先進事例を吸収しに行くなど、積極的な姿勢が際立つ。

このような経緯を経て、現在のステージ論文は三鷹中等教育学校の探究における中心的な存在になりました。

三鷹中等教育学校での6年間を通した探究活動は、今後の進路につながる要素が大きいため、進路指導部の一部となっています。そのため、進路指導を担当する石黒先生が、探究PTをリードする役割も担っているとのことです。

また、生徒の論文制作をサポートするために、メンター制が導入されています。
先生一人につき、5年生3~4人の生徒を指導する仕組みになっており、副校長も含む全ての先生が生徒についています。

※4年生を担当にもつ先生方は除く。

山本副校長が「生徒の知らなかった面が見ることができて楽しい」と感じているように、メンター制によって生徒一人ひとりにじっくり向き合うことが、先生自身の新たな発見にもなっていることがわかります。

「“ステージ論文”がまさに”探究的な学び”であることに気づいていなかった」と語る山本副校長。
メンター制では、生徒から垣間見える未知の面との出会いを楽しんでいる。


また、年齢的にも高校生とは少し離れている、先生という存在がメンターであることで、
「経験ある大人としてのアドバイスができる」ことも魅力だといいます。

学校全体でステージ論文に取り組むため、従来のように、ある先生にだけに過度な負担がかかることもなくなりました。

とはいえ、先生全員がメンターとなることは、これまではあまりステージ論文に関わりのなかった先生まで巻きこんだ取り組みになります。
先生方からの反発や異論も起こりうる状況ともいえますが、三鷹中等教育学校の先生方にはこうした抵抗はなかったといいます。

これは探究PTを中心として、学校全体で探究への理解を重ねてきたからこそ、ステージ論文の意義も再認識でき、全体で協力する体制ができていたからだといえます。

学校における探究への意識や認識のバラつきを感じている先生方にとっても、参考になる例ではないでしょうか。

三鷹中等教育学校の探究学習を「Will・Cam・Must」で分析した資料から、明確な課題意識と、そこに対する具体的な行動がわかる。


総括

今回は、三鷹中等教育学校における探究活動への取り組みについて、探究PTの先生方に伺いました。

10年も続いているステージ論文に新しい価値を見出し、それを三鷹中等教育学校の探究活動の中心的な存在として確立したということが印象的です。

その背景には、学校自体の探究への理解を大切にしながら、地道に土台を作り上げてきた先生方の努力がありました。

これまでの探究的な取り組みや今後の展望を笑顔で語る、石黒直子先生と稲葉侑紀子先生


探究的な学びへの意識を学校全体に広めるのは大変なことで、一朝一夕でできることではありません。
しかしながら、何か少しでもそのための取り組みを行っているのなら、必ずその成果は積みあがっているのも事実です。

三鷹中等教育学校のように、まずは一部の先生方から始めて、徐々に学校全体への理解を深めていければよいのではないでしょうか。

また、かねてより学校で取り組んでいるけれど、意義が当初より薄れてきているような活動はありませんか。
このような取り組みを改めて見直してみると、意外にも、探究的な要素を持ち合わせていたり、探究活動に結びつけやすい特徴が見つかったりすることがあります。

今一度、皆様の学校における取り組みを振り返ってみてはいかがでしょうか。

◇ ◇ ◇

今後も、探究的な学習においてお悩みの先生方のお役に立てるよう、様々な角度から取材を行い、事例を紹介して参ります。

<三鷹中等教育学校に使用していただいている教材>

『一生使える探究のコツ 練習編』(旧:『一生使える探究のコツ 思考の手引き ~整理・分析編~』)

『一生使える探究のコツ 実践編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~課題研究編~』)

『探究×SDGs』

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(執筆:佐瀬友香/トモノカイ)

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