「CM作り」で地域をPR! 自治体と連携した独自の探究活動

★こんな先生方にオススメ★

・地域と連携した探究活動に興味がある先生方
・現在、探究の授業準備などで余裕がなくなってしまっている先生方
・探究的な学びにおける生徒との距離感がわからない先生方


埼玉県立松山高等学校は、東松山市に位置する男子校です。

同校は、今年の夏に行われた全国高校野球選手権の埼玉大会でもベスト8の成績をあげながら、スーパー・サイエンス・ハイスクール(以下:SSH)にも指定されているなど、勉学にも部活動にも力を入れています。

そんな松山高校では、東松山市と協力しながら行う地域探究など、独自の探究的な学びが展開されています。

本記事では、同校の探究を推進する加藤義文先生と、地域探究の中心である遠藤司先生に、探究的な学びへの取り組みや地域との連携について伺いました。

普通科、理数科それぞれで! 特色をもつ探究的な学び

松山高校は、普通科と理数科で構成されており、生徒一人ひとりのキャリア選択に沿った環境が整っています。

探究的な学びの面では、普通科と理数科でそれぞれの特色が生かされた取り組みが行われています。

2022年度版松山高校パンフレットより引用

普通科では、探究のサイクルを通じて、身近な問題を解決していくことを目的にカリキュラムが組まれています。
学年が上がるごとに徐々にステップアップできるような設計で、無理なく課題解決の力が身につけられることが特徴です。
のちに触れる地域探究も、普通科での取り組みです。

理数科では、生徒が物理・化学・生物・地学の中から興味のある分野を選択し、3年間を通じて研究を行いながら探究のサイクルを回し続ける「SS科学探究」という取り組みがあります。
実験環境も整っていることや、3年間クラス替えがないことから、生徒が研究に思い切り打ち込めるのは理数科ならではといえます。

また、「SSH生徒英語発表会」では、生徒が研究成果を英語で発表しています。「探究×理科×英語」のように、教科の垣根を越えた取り組みも行っています。
探究を核とした教科横断の学びの、さらなる活性化につながる第一歩だといえます。

全てが先生方の手による探究の難しさから、教材の導入へ

1年生の「総合的な探究の時間」では、普通科、理数科ともに『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~導入編~』)が採用されています。

教材の導入以前は、探究の時間における授業の準備や使用するワークシートの作成などは全て、先生方の手によって行われていたといいます。

生徒たちに合わせて内容や進度を考えられる反面、授業が進むにつれ先生方の肩に負担が重くのしかかることになりました。
また、先生間での指導の違いも目立ち始め、探究自体の存在意義がぶれかねない状態になりました。

この状況を懸念した加藤先生をはじめとする同校の「総合的な探究の時間委員会」(以下、探究委員会)は、少しでも先生方の負担を取り除こうと教材の導入を決めたのです。

各学年から2名ずつの先生が参加している探究委員会で、さまざまな教材から松山高校の生徒たちにぴったりとマッチするものを探したとのこと。

最終的にトモノカイの教材を採用した決め手は、セミナーや研修会といった「先生方向けサポートの充実」と、難しすぎない内容で基本が学べることによる「生徒の取り組みやすさ」だったそうです。


資料を用いながら、トモノカイの取材に答える加藤義文先生
特に松山高校の場合、先生方への負担が大きな問題であったため、サポートの充実度は重要な観点になったといえます。

また、教材を使用するのは、探究的な学習にほぼはじめて触れるような1年生。
まずは探究の基本を着実に身につけてもらうことが重要です。

そのためには、難しすぎず、取り組みやすい教材であるかどうかという観点もひとつの決め手になるといえます。

加えて、依然として手探りでやらざるを得ないことの多い「総合的な探究の時間」を、先生方の手だけでやりきるには限界があります。

そこに教材があれば、「これを使えば授業ができる」という安心を作りだすことができ、先生方の不安や負担を軽減することができるといえます。

松山高校の課題でもあった先生による指導の差も、教材が共通していれば起こりにくくなりますね。

いよいよ本格的に「総合的な探究の時間」へ向き合っていかねばならない現在、同じような課題を抱えている学校は少なくないのではないでしょうか。

東松山市と連携して! 地域の魅力を伝えるCM作り

松山高校は地域に密着した学校で、地元には多くの卒業生も住んでいます。
普通科1年生では、地域に根差した探究活動を実践しているということで、詳しくお話を伺いました。

現在、東松山市の複数の課と連携し、「ひがしまつやまプライド」とコラボレーションをした活動を進めています。

「ひがしまつやまプライド」とは、商工観光課が中心となり推進している、地域ブランド品認定制度です。
東松山市としてもさらに認知度を伸ばしたいような自慢の品々ばかり。

遠藤先生は、これらの商品の認知度をいかに向上させ、売上を伸ばせるかを考えさせるために、「CM作り」を課題として設定しました。

生徒たちはここで、教材で学んだ探究の基本的なサイクルや手法を、実際の活動に生かしていきます。

まずは生徒がグループに分かれ、「ひがしまつやまプライド」の商品を一つ担当します。
※高校生のため「COEDO クラフトビール」を除いた7品を題材にしている。

なお、全グループがCMを完成させられるように、グループ内で最低一人は動画編集ができる生徒が含まれるようになっています。

日頃からYouTubeなどの動画のコンテンツに触れることが多い昨今の高校生。
動画編集ができる生徒も増えているのですね。

また、CMを作る上で欠かせない情報収集も、もちろん生徒自身が行います。

特に、実際の声が聞けるインタビューは、失礼などがないよう配慮しながらも積極的に行わせていきたいという遠藤先生。
インタビューをすることで確かな情報が集められるだけでなく、地域の方々とのコミュニケーションにもなるからです。

その意味では、CM作りを通じて、地域と高校との関係がより良好になることも期待できます。

CMが完成したら、最終的にはコンペを開き、全体で成果物を発表します。
作りっぱなしで終わるのではなく、しっかりと共有の場まで用意されていることで、生徒たちのモチベーションにもつながりますね。

「認知度を上げ、売上を伸ばす」という共通の課題に対し、それぞれが解決手段を考えていくというプロセスはまさに探究的な学びといえます。

「生徒が楽しんで取り組めるのが一番」という遠藤先生。

実際に生徒たちも、CMという、レポートとは違ったアウトプットの仕方に新鮮味を感じるのではないでしょうか。

普段から親和性のある「動画」を用いた探究的な取り組みという点でも、生徒の楽しさを第一に考える遠藤先生らしいアイデアといえます。

地域と連携した探究的な取り組みを推進する遠藤司先生


とはいえ、「市区町村と高校が連携できるのか?」「松山高校は特例なのではないのか?」と思われる方もいるかもしれません。

しかし実際には、自治体としても学校と地域との連携を求めているという状況にあります。

というのも、公立の高校はほとんどが都道府県立であるがゆえに、地元である市区町村の自治体との接点があまり多くありません。
一方で、高校生は小学校・中学校と比べてより社会人に近く、2022年度から成人年齢が18歳に引き下げられることや就職という面からも、自治体側も積極的に関わりを持ちたいと考えているようです。

加えて、文科省の文書などからも学校と地域との連携に対する課題感が明らかとなっています。

総合的な探究の時間では,地域の素材や地域の学習環境を積極的に活用することが期待されている。とりわけ高等学校の総合的な探究の時間では,地域にある大学等の高等教育機関,各種研究機関や団体,市町村の役場や教育委員会,商工会議所や商工会,非営利団体等との連携が期待されている。それは,総合的な探究の時間では,実社会や実生活の事象や現代社会の課題を取り上げるからである。また,この時間では,多様で幅広い学習活動が行われることも期待されている。それは,生徒一人一人の興味・関心に応じた学習活動を実現しようとするからである。

出典:文部科学省『【総合的な探究の時間編】高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説』第11章 第5節 外部との連携の構築

こうした意味でも、探究的な学習を通じて地域と協同して取り組むというのは画期的な例ですね。

さらに、地域の方々と実際に接していくという点では、学校では教えきれない部分まで学ぶことができるという点でも期待ができます。

例えば、他者に対して失礼のないようにふるまうことや、営業しているお店の迷惑にならないように配慮することなどがあります。

「失礼のないように」とはよく言われるけれど、なにが失礼なのかというのは、感覚的な部分もあります。
このように、言葉だけでは少々説明がしにくいことも、身をもって学ぶ機会になりますね。

松山高校のような、地域と連携した探究的な取り組みは、どの学校にとっても参考になるのではないでしょうか。

自由度は高めで! 生徒の自走を見守る探究とは

遠藤先生は、普通科、理数科のいずれの探究的な活動においても生徒に対して「あまり口を出さない」ようにしているといいます。

地域と連携した探究でも、科学的な実験で進めていく探究でも、道をしっかりと整えておけば生徒たちは自走していけるからです。

もちろん、明らかに危険であったり、お店の方に迷惑となったりすることは止めるといいますが、基本的には生徒に任せているといいます。

松山高校の探究への取り組みを二人で振り返りながら


探究とは、生徒自身が自ら主体的に考え、行動することが一つのゴールともいえることを思えば、先生の立ち位置としてはこのぐらいがほどよいのかもしれません。

また、先生方も生徒に「教えなくては」と力が入りすぎてしまうことで、苦しくなってしまう例もよくあります。
基礎が身についていれば生徒は自走していくので、少し肩の力を抜いてみてもよいのかもしれませんね。

総括

本記事では、松山高校における探究的な取り組みについて伺いました。
特に、東松山市と連携した地域での探究の取り組みは、生徒が楽しみながらも自分たちの地元のPRにもなるというような画期的な内容でしたね。

とはいえ、加藤先生も依然として、探究における評価や進路選択へのつながりなどに課題を感じているといいます。
明確な答えや決まりがなく、新しいことに取り組んでいるわけですから、次々に課題が生まれるのも無理もないことでしょう。

こうした中でも、できることから少しずつ取り組んでいくことが大切だといえます。

松山高校のように、徐々に学校全体を巻き込み、地域とも連携しながら、学校の特色を生かした探究的な学習を作りあげていくのも、モデルとして参考になるのではないでしょうか。

◇ ◇ ◇

今後も、探究的な学習においてお悩みの先生方のお役に立てるよう、様々な角度から取材を行い、事例を紹介して参ります。

<松山高等学校に使用していただいている教材>

『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~導入編~』)

トモノカイの探究教材『一生使える探究のコツ』シリーズご紹介ページはこちら


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(執筆:佐瀬友香/トモノカイ)

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