全国の中高生を対象にした探究成果の博覧会「自由すぎる研究EXPO」。2年目となる今年は、全国から1,469件の応募がありグループでの応募者を含め、参加人数は2,561名に上りました。
最終審査の結果、入賞作品は20作品となりましたが、入賞を逃した作品の中にも、まさに「自由すぎる」研究がたくさんありました。
そこで今回は、大会アンバサダーの高橋晋平氏(株式会社ウサギ)と運営事務局長の佐瀬友香が、印象に残った作品をピックアップしながら今大会を振り返りました。 「自由すぎる、って何?」「どんなテーマでもいいの?」と疑問に思っている皆さん、「好き」や「楽しい」が詰まった作品のパワーをぜひ感じてみてください。
大人に学びを与える作品が増加
自由すぎる研究EXPO2023の最終審査発表を終え、オンライン会議にて今年の受賞作品を振り返る
右:大会アンバサダー 高橋晋平氏(株式会社ウサギ) 左:運営事務局長 佐瀬友香
佐瀬)応募作品数も参加人数も昨年に比べて大幅に増えましたが、今大会を振り返り、全体的な所感をお聞かせいただけますか。
高橋)学校の科目の一つとして始まった探究ですが、それ自体がもうエンターテインメントと言っていいぐらいの素晴らしい活動に進化して、楽しいアクティビティとして成立し得るんだということを実感し、そこに一番感動しました。この大会のコンセプトが先生や生徒さんたちに伝わって、探究をひとつの目標にして楽しんでくれたとすれば、これ以上に嬉しいことはないですね。
佐瀬)称賛団体として参加していただいた企業、今年から参加いただいた大学の方にも、たくさんの作品を審査していただき、今回の盛り上がりはこういう大人たちのご協力があってこそだと感じているところです。
一次審査を通過した作品は軒並み、調べただけで終わらず実践を伴っていたり、自分で大学や企業に話を聞きに行ったりといった行動まで含めて、生徒たちの探究への意識が明らかに違っていた印象でしたが、高橋さんはいかがですか。
高橋)知らないことを学ばせてもらったというのが、まずは率直な感想です。大人も全く知らないことを探究して発信して、大人にヒントを与えるレベルの作品がたくさんありました。仮説で終わらず、ヒアリングに行ったり、文献を調べたりといった大学レベルの活動をちゃんとやっている。昨年からの相当なレベルアップを感じました。
誰かに話したくなるキャッチーな面白さ
佐瀬)ズバリ一番印象に残った作品はどれでしょうか。
高橋)「大きなももはなぜどんぶらこと流れるか」ですね。
佐瀬)「どんぶらこ」と流れることに何の疑いも持たず生きてきたので本当に衝撃でした。かつ、言語的な話にとどまらず、ちゃんと結論を出している。それが社会の何かの役に立つとか、そういった目的は一旦置いて、純粋に「なぜ、どんぶらこなのか」を徹底的に調べて、自分の中の解を出してきたっていうのがすごく面白いと思いました。
高橋)「『される側』と『する側』からの排除アートの考察&脱排除アート案の提示」は、まずこの概念を初めて知りました。
生徒たちが、排除アートは今以上に増える必要はないという自分たちの意見をはっきりとさせているところにも僕はすごく好感は持ちました。そして、椅子は座るものだから、座りにくくはしないけど長居もさせないという折衷案を懸命に考えようとしているのがとても面白いと思いました。
さらにもうひとつ「探究の手法とその拡散方法の研究-探究道場の全国展開を通して-」ですね。これもやはり大人が考えていないことをちゃんと考えて実験までしている。普段「ファシリテーションが大事だ」と言っているビジネスパーソンに読んでもらいたいと思いましたね。
佐瀬)どちらも大人がはっとさせられる作品でしたね。
私の印象に残っているのは「ET 〜静電気の放電による光の発生〜」です。
映画『E.T.』のポスターの指と指が触れて光るシーンの再現を実際にやってみてしまうところが、高校生だからこその発想だなと思い、とても面白く読みました。実験では失敗もしているのですが、失敗を繰り返してもそこでやめないで試行錯誤の末に光るところまでいったのが面白かったですね。
高橋)これもまずタイトルでつかんでいますね。キャッチーかどうかは、社会への伝わりやすさとしてとても重要。結局どんなに素晴らしくても、表紙やタイトルが難しそうだと誰にも知られないまま終わったりするじゃないですか。自由すぎる研究っていうのは、人に面白いと思ってもらうという点が価値に直結するなと思いました。
佐瀬)確かにそうですね。「ゾンビボルボックスの“マイクロ電池”化」も、もちろん印象に残りましたね。
高橋)まず植物をゾンビ化させて安定して動かして、マイクロ装置などの動力源にしようという発想がすごい。ゾンビという言葉の強さに加えて、この研究は見る人それぞれによって、情報やインスピレーションとして何を受け取るかが全く違うものだと思ったのですが、そういう凄みを感じましたね。
社会を変える第一歩になる可能性
佐瀬)次に入選作品についてですが、これは、金賞と特別賞には至らなかったものの、事務局として「面白いな」「称賛すべきだな」と思った作品をピックアップしたものです。自由すぎたり、好きという気持ちがあふれていたり、企業と一緒に本格的にビジネスとして成り立たせたりしている作品などを中心に選出しました。
高橋)その中では「バスケットボールにおけるフリースローのリバウンドの法則」は表紙からつかまれましたね。
「バスケットボールの新しい戦い方を提案します」って書いてある、この表紙が秀逸。最初の1枚で読ませるっていうこの作りを僕はやってほしかったんですよ。これはみんなに参考にしてほしい。本当かどうかはわからないけど、一応結論を出していて、もしかしたら本当にプロが参考にして、バスケットボールの戦い方の常識が変わるかもしれない、その可能性だってゼロじゃないというところが、まさにこれこそ「自由すぎる研究」。子どもから大人までたくさんの方に届くような見せ方まで探究している好例として挙げました。
もうひとつは「最後まで落とさず食べられる棒アイスのかたちは?」。探究には論証型とアイデア提案型があると思うのですが、僕はアイデア提案型の探究に期待していて「アイス会社さん、お団子型のアイスどうですか」っていう終わり方も大好きです。テーマの設定もいいですよね。だって、アイス落ちちゃいますもんね。バスケもそうですけど、社会をちょっとだけ変える第一歩になり得る研究が印象に残っているのかなと思いましたね。
佐瀬)私が一番印象に残ったのは「キアゲハがサナギになるまでの研究No.2」。
ひたすらキアゲハがサナギになるまでを追ってるんですよ。本当に興味があって好きだからこそずっと見ていられる。実際追いかけるのが難しくて途中から装置まで作って観察できるようにしてましたけど、そういった自分の興味関心を貫き通す感じも含めて「自由すぎる研究」をしているな、と印象に残った作品の一つです。
あともう一つ「ジェットコースターで痩せるには⁇」。
全国のジェットコースターを徹底的にデータとして分析しているのが、まず驚きました。ダイエットに関するテーマはよく見かけますが、この作品はジェットコースターの乗り方や、待ち時間の過ごし方まで総合的に計算した上で、一番痩せる結果を導き出しているのが面白い。良い意味でぶっ飛んでいて、秀逸でした。
高橋)そういう意味では「本当に麺はのびたのか」も「自由すぎる」が過ぎる。
本当に麺は伸びるのかというのも日常からのふとした疑問で、そういった問いを真剣に探究するところがやっぱり大切かなと思っていて、そこが科目としてやらされる探究との大きな違いでしょうね。自分で「これはなんでだろう」と思ったことに対して、他の追随を許さない熱意で取り組んでいくので、結果としてすごく興味深いものになる。どんな自由なテーマでも応募できるのが、このイベントの強みなので、そういった作品がどんどん増えていくと嬉しいと思います。
中高生の今しかできない探究への期待
佐瀬)次年度の開催に向けての期待などあればお聞かせください。
高橋)企業や大学で研究している大人もたくさんいる中で、中高生にしかできない探究というのがあると思うんですよ。例えば10代の感性でなければ発見すらできないこと、有り余る時間や若いからこその行動力。その年齢なりの日常の視点で「これってなんでこうなるんだ」とか「これ面白い」とか、結論に至らなくてもいいので、中高生らしい自由なものがどんどん出てきてほしいなと期待しています。
もう一つはタイトルとビジュアルへのこだわり。どんなビジュアルで何を出してもいいというのがこのイベントの大きな強みなので、だからこそ「これは見たい」と大人に思わせるだけのタイトルや見た目、あるいは動画でのプレゼンで、まずは見てもらう。大人がついついページをめくっちゃう工夫もぜひ探究してほしいですよね。引きが強い見た目も自由すぎる作品にさらに期待したいですね。
佐瀬)探究のサイクルの中でも、最後に行き着くのが、まとめや発表の部分なので、高橋さんがおっしゃるように、人に伝えるデザインの工夫も含めて探究だと思います。せっかく「自由すぎる」とうたっているので、つい読みたくなるようなタイトルやデザインにまでこだわって、そこまで探究した作品が出てくると、さらに面白くなっていくと思いますね。
高橋)来年参加する人たちは、今年の受賞作品から、1ページ目のつかみや、思わず誰かに話したくなるような結論の一言などを学んで、それを自分なりにより良くして出してきてくれたら、もう来年もめちゃくちゃ楽しみですね。
佐瀬)ぜひサイトで公開している受賞作品を参考にしていただいて、自分の作品にも取り入れていただきたいですね。今後も、より“自由すぎる”というところに磨きをかけて尖りを利かせて開催していけるといいな、と思っております。
高橋)アウトプットの仕方や探究の成果の伝え方といった点で新しい発見が生まれると、探究自体がみんなのものになって、情報にアクセスできる人が増えていく。そういうきっかけにもなったらいいですね。
佐瀬)すごくいいですね。本日はありがとうございました。
自由すぎる研究EXPOの受賞作品は、下記の公式サイトに掲載しております。
中高生の「自由すぎる」作品をぜひご覧ください。
▼自由すぎる研究EXPO2023 最終審査結果
https://tankyu-skill.com/expo/irexpo/finalresults/
※入選作品は公開しておりません。あらかじめご了承ください。
執筆:李香