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探究活動を軸に“学びをつなげる” 探究の流れと基礎スキルに重点を置いた取り組みを紹介 | 日本探究部 powered by トモノカイ

探究活動を軸に“学びをつなげる” 探究の流れと基礎スキルに重点を置いた取り組みを紹介

島根県立大社高等学校は、縁結びの神さまとして有名な出雲大社が位置する島根県出雲市にあります。普通科と県内唯一の体育科の2学科が設置されており、地域の未来、スポーツ界の未来を担う人材育成をスクールポリシーに掲げています。同校では、探究活動を通して得られた経験を基に、高校卒業後の進路、人生にどう活かしていくかという取り組みを続けています。

本記事では、普通科の2年生で探究を担当する高橋由美子先生に、探究に必要な基礎力を養う工夫、生徒たちが探究活動を通して培ったスキルを次の学びへとつなげる導きなどについてお話を伺いました。

本記事でお話を伺った先生
    高橋由美子先生(美術教師、2年生普通科の探究担当)

高橋先生

探究を支える基礎力を養う

大社高等学校では、1年生の1〜2学期を通して、まず探究活動の基礎力の醸成に力を入れています。高橋先生は「はじめに論理的思考や多面的に考える力、仮説を立てる力など個別の力を認識して、それぞれの力を身につけてから実際の探究活動に入っていく方が、“学びをつなげる”経験になると考えています」とその狙いを説明します。

“学びをつなげる”とは、探究以外の各教科で学び、身につけた個別のスキルが、探究活動の中で有機的に連携し、さらなる学びや新たな経験へとつながっていくこと。「例えば国語なら、わかりやすく伝えるにはどういうふうに文章を作ればいいか、この文章はどう読み解くのか、数学であれば、どの視点に基づいて物事を考えればいいのかなど、各教科で学んだスキルが探究学習を軸に回っていく、つながっていくというのが本来の姿。そのためには、まずはベースになる力が必要だと思います」(高橋先生)

基礎力の醸成の教材として利用しているのが、『一生使える探究のコツ』シリーズの入門編、練習編です。

『一生使える探究のコツ』入門編・練習編

高橋先生は「探究を進めていると、スキル学習で途切れていたり、その場の学習で終わってしまっていたりする生徒が出てくることがあります。そうしたときに、練習編はドリル形式になっているので、教員から『テキストのここでやったよね』と声掛けをしやすく、指導にもつなげやすいと思います」と教材の効果を実感しているようです。

1年生で2つのミニ探究を経験

1年生の後期からはいよいよ実践に入ります。大社高校では、10月から2月にかけて探究サイクルの一連の流れを2回実施する「ミニ探究」を行います。1回目は、教員が各担当教科の視点で新聞記事から選んだ時事問題の中から、生徒が興味関心のある記事を個別に選び、記事に基づいて関連する情報を集めていきます。最終的に、選んだ新聞記事に対する自分の問いを立て、考察しながら自分の意見をまとめてグループ内で発表するという流れです。

「各教科の視点を生徒に持たせるのも一つの狙いです。加えて、新聞を読む練習や、読んだものから自分の考えを持つ練習、最終的には表現力を高めていくというふうに繋がっていくと思います。こうした活動は、1年生だけではなくて2年生、3年生と全学年を通して取り組んでいます。探究活動は、単なる課題解決にとどまるものではなく、論文を書くことも探究の一つという視点を持っているので、自分の収集した情報をインプットした後、アウトプットできる、まとめて表現できるというところも大事なんだよと生徒には伝えています」(高橋先生)

2回目は、各クラス4〜5人のグループを作り、学校内の課題(問い)を取り上げ、仮説を立て、情報を収集し、検証します。そこから得られた成果をポスター形式でまとめ、全体発表するという形式です。1回目でテーマ設定から発表まで一通りの過程を経験することで、2回目のグループ探究にスムーズにつなげていくという効果が期待できます。

テキストの活用で探究に必要な視点を再確認

3年間の探究活動の中でもメインとなるのが2年生の課題探究です。SDGsに関連する課題を設定し、1年間を通して探究活動を進め、学年全体での発表会に臨みます。

「実際に学年全体での発表会が近づいてくると、生徒たちにとってもやる気の原動力になるようで、締め切りに合わせてきちんと仕上げてくる力にもなっているようです」(高橋先生)

取材時は発表会の一週間前 生徒たちはそれぞれ発表の最終確認を行う
生徒からの質問に応える高橋先生

発表会では、自己評価に加えて、各グループの発表に対する相互評価も行います。高橋先生は「自分たちの成果を客観的に捉える機会になっています。他の発表を見ることで、こういう点が良かったな、こういう探究の方法もあるんだ、といった次につながる学びを得てほしいです」と効果を説明します。

今年度は学校内だけの発表に加え、現場で活躍されている社会人の方々やコンソーシアム委員など外部有識者26人を招いた最終発表会も開催しました。「発表ごとにフィードバックや感想をいただいたり、外部の大人の視点から質問をしていただいたりしました。いろいろなキャリアを経験している方もおられるので、ご自身のキャリアに対する考え方や、探究に限らず学びのつながりに関するお話があったりして、生徒たちにも良い刺激になったようです」(高橋先生)

2年生の探究を始めるにあたって、大社高校では、『一生使える探究のコツ』シリーズ入門編をテキストで、再度基礎力の確認を行います。「2年生で実際に1年間かけて探究をするにあたって、もう一度1年生で学んだことを確認する意味があります。『入門編』第3部にある、問いの種類や探究の型という箇所を使って、これから自分が問いを立てていくときにどういう型があるかといったことや、気をつけないといけない点など、探究を進める上で生徒に持って欲しい視点などを確認しています」と高橋先生。「テキストは生徒たちの探究活動のイメージ作りの基になるし、うまくいかないときに戻れる場所になってほしい」と続けます。

大社高校では、令和3年度から『一生使える探究のコツ』シリーズを導入。高橋先生は「手探りで探究学習を進めるなかで、何かテキストのようなものがあった方が生徒も教員も取り組みやすいのではないかということで導入しました」ときっかけを話します。「本校では、探究の流れを学ぶことに力を入れているので、その部分でも使いやすさを感じています。探究に必要なスキルごとに授業が組めるようにまとまっているので、流れがつくりやすく、教員の負担減にもつながっています」

限られた時間数の中で授業を進めていくために、テキストから部分的に章をピックアップして授業に取り入れるという工夫もなされています。「本校の生徒に、より身につけてほしい部分を絞るため、学年の担当者が授業案をつくり、クラス担当者との打ち合わせを経てブラッシュアップしていくことも多いです」(高橋先生)

大学生メンターが生徒への刺激に

大社高校では大学生・大学院生が探究活動をサポートする「探究メンター」も導入しています。

▼探究メンターについては下記を参照ください

導入のきっかけについて、高橋先生は「生徒1人が1課題という探究活動をしていた時期があって、教員だけでは全ての課題に対応しきれないという悩みがあったとき、メンタリングサービスを導入しました」と説明。「大学生・大学院生のメンターに、専門知識を活かして生徒全員にコメントを返してもらっています。生徒はいろんなテーマを出してきますが、教員の知識にも限界があるので、メンターのコメントを見て教員も勉強させてもらっている面があります」

メンターは、生徒が問いを「探究する問い」にブラッシュアップしていく段階や、探究活動を具体的に進めていく段階で利用。2年生の中間発表後にスライドへのフィードバックをもらったり、オンラインメンタリングでアドバイスを聞いたりしています。

「大学生は、生徒にとって身近な未来の姿と感じているようで、興味を示しながらしっかりじっくりフィードバックを見ている生徒が多かったです。オンラインミーティングでも、生徒たちが思いのほか活発にしゃべっていて、議論が盛り上がっている印象でした」

「問いを立て、学びを深める」ことが進路選択の一助に

生徒たちは2年生の最後に、2年間の探究活動で得た成果を「活動報告書」としてまとめます。「この活動報告書を基に、今年の2年生は志望理由書をまとめるところまでを現在進めています。活動報告書だけでなく、キャリアパスポートや、部活などのいろいろな活動で身につけたもの、学んだものを材料として集め、自分の生き方や在り方につなげていくという活動を打っていっているところです」(高橋先生)

3年生の探究活動は「進路探究」として、自分の生き方を考えるという点が目標として設定されています。大社高校では、探究だけでなく、キャリア学習とも横断的に連携して、生徒自身がこれからの人生を考える活動を支えています。「問いを立てて自分で学びを深めていくという探究が一方の柱としてあって、もう一方の柱として、自分の進路に対する学びを深めていくという軸がある。この2本の柱が重要だと思います」

「探究には、受験勉強だけでは得られない学びがある」と高橋先生。「生徒たちの進路は就職から大学進学まで多種多様ですが、探究は、自分たちの成果を客観的に捉えることができる機会にすると同時に、他者の探究活動から『こうやったらよかった』『こんなやり方があるのか』など次につなげるための学びを得るきっかけにもしてほしいです」と期待を込めています。

大学受験においても、総合型選抜などプレゼンテーションや自身の学びが生かせる選抜方法が増えるなか、探究で培ったスキルや学びを受験に生かしている生徒も出てきているそうです。

高橋先生は「探究の学びを大学で実際に継続している生徒も現れており、探究から実際に次の進路へつながっていく流れができていることを考えると、3年間かけて取り組む探究のプロセスは、生徒たちが卒業後の進路に対する考えを整理するための貴重な時間になっていると思います」と話していました。

まとめ

大社高校では、1年生の初期段階だけでなく、2年生の本格的な探究活動の開始時にも、基礎力の確認を行い、確かな基礎スキルに基づいて学びを深めるという点に重きを置いています。こうした方針は、探究活動は単独で存在するものではなく、各教科で学んだスキルや物事を考えるときの視点などが融合して成り立っているという考え方に裏打ちされています。

「学びをつなげる」という言葉には、教科の違いにとらわれず、高校生活を通じての学びが、生徒一人ひとりの次のステージへの礎になってほしいという先生たちの思いが込められているように感じました。

「各教科で学んだスキルが探究学習を軸に回っていく」という高橋先生のお話は、探究活動の原点を振り返る上で参考になるのではないでしょうか。

<島根県立大社高等学校様にご導入いただいている教材>

◆一生使える探究のコツ 入門編

探究のコツ 入門編
入門編

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◆一生使える探究のコツ 練習編

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◆一生使える探究のコツ 実践編

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※掲載内容は取材時点(2023年2月)のものです

執筆:李香
企画/編集:牧野宏季(トモノカイ)

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