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【連載:佐藤教授に聞く! SDGs時代の探究の姿④】課題の発見から解決へつなげていくには? ―企業の事例を参考に― | 日本探究部 powered by トモノカイ

【連載:佐藤教授に聞く! SDGs時代の探究の姿④】課題の発見から解決へつなげていくには? ―企業の事例を参考に―

第一回の記事では、東京都市大学の佐藤真久教授に「探究の高度化・自律化」について解説していただきました。

そこで登場した「WW型問題解決モデル」におけるプロセスを通じて見つけた課題を、いよいよ解決に近づけていくのが「STEP3 解決策提案の過程」です。

地域での課題をテーマとした探究活動に取り組む学校においては特に重要となるこのプロセスは、学校で取り組むことがなかなか難しいとされている部分でもあります。

課題解決に向けては、様々な立場の人たちと協働して取り組む必要がありますが、校外の人たちと接点を持つ機会が少ない学校にとってはハードルが高いという事情が背景にあるようです。

一方で、多くの企業はこの“他とつながって取り組む”ことを日常で行っています。

彼らは世の中のあらゆる課題に対して、様々な事業を創出していきながらその解決に取り組んでいますが、この解決策を考えていく過程では、例えば他企業と手を組んでみたり、あるいは他企業からヒントを得たりして、企業内にとどまらずに動いているからです。

そこで本記事では、人材開発事業に取り組んでいる株式会社ビジネス・サクセスストーリーの川九健一郎さんが取り組む「STEP3 解決策提案の過程」の研修を中心に、企業における具体的な事例をご紹介します。

今や学校こそ、他校や地域、企業といった学校外とも積極的に関わっていくことが重要です。企業の実践事例を知ることで、学校における探究の実践にも参考にしてみてはいかがでしょうか。

目次

  1. 企業研修としても取り入れられる探究の取り組みにおける具体例
  2. ①新聞記事を活用した地域課題の捉えなおし
  3. ②31の社会課題を関連付けてみる
  4. 解決策の実践を見据えて ―企業と学校が「越境」してみることで広がる可能性―
  5. <参考>社会でも注目が集まる、地域課題解決への取り組み ー環境省での事例ー
  6. <佐藤真久先生からのコメント>
  7. 総括

企業研修としても取り入れられる探究の取り組みにおける具体例

「WW型問題解決モデル」は、探究のモデルを表したものです。

すなわち、課題を解決するための考え方でもあるため、日々あらゆる課題に向き合う社会人にも役立ちます。

川九さんが代表取締役を務める株式会社ビジネス・サクセスストーリーでは、人材育成の一環としてWW型問題解決モデルを活用した企業研修プログラムを展開しています。

“地域と共に取組む探究プログラム”は、そのうちの具体的な一例です。

株式会社ビジネス・サクセスストーリーで実施している探究プログラムの概要図。WW型問題解決モデルをベースに設計されている

それぞれの段階で実施される取り組み

これは、その名の通り企業が日本の様々な地域と協働しながら、WW型問題解決モデルのプロセスに沿って、社会人に必要とされる力を育成する内容です。

WW型問題解決モデルは、学校における探究だけでなく、社会人にも役立つ考え方だということが分かります。

さて、本記事の中心となる「STEP3 解決策提案の過程」では具体的にどんな取り組みを行っているのでしょうか。

①新聞記事を活用した地域課題の捉えなおし

研修内容の具体例

STEP3は解決策提案をしていくために、ツールとして“新聞”を使うことを川九さんや佐藤先生が推奨しています。

なぜなら、過去の事例を参考にすることで、目の前の課題の解像度が上がり、課題の本質を捉えやすくなるからです。

事例を参考にして観察の観点を得て、その観点を通して目の前の課題を見つめることで、解決策についての発想のきっかけも見つけやすくなります。

まずはSTEP2で設定した課題に対する解決策をイメージしてみながら、情報収集として新聞など実際にある記事を参考に思考を巡らせることが、本質に通ずる解決策の提案につながります。

②31の社会課題を関連付けてみる

“31の社会課題”とは、自律的な社会課題解決にむけてリーダー育成を行うNPO法人ETIC.が作成した『社会課題解決中MAP』というツールを活用します。

研修内容の具体例

この研修では、STEP2で見つけた課題を、STEP3の段階で31の社会課題に関連付けてみるといいます。

すると、今見えている課題が分類され、より課題の本質そのものが見えてきます。

本質が見えれば、それを解決するための策を深堀りして考えていけるため、課題と解決策がちぐはぐにならずに、しっかりと本質に基づいた解決策の提案ができるでしょう。

いずれの例にも共通しているのが、ある課題について多角的なアプローチをしている点で、そこには「システム思考」的な物事の捉え方が働いています。

「システム思考」とは、事象と事象がそれぞれに影響を及ぼし合っており、それらの全体像を「システム」として捉える考え方です。各事象が影響を及ぼし合うため、個別に解決したとしても別の事象に影響を与えてしまう。このことを前提として、いま対象としている事象を多角的な視点で分析することで、統合的に解決を目指していくことが可能となります。

ここでは「リアリティある体験を基にして、システム思考のプロセスを踏むということ」を大切にしているという川九さん。

具体的には、例えばインタビュー形式の調査といった体験的な活動から得た情報を、因果ループ図などのビジュアルで表現しているといいます。

また、このように、ツールや自分自身の視点を大切に様々な観点からある物事を捉えるような設計がなされている点こそ、「システム思考」の表れている点といえます。

WW型問題解決モデルにおける「STEP3 解決策提案の過程」においても、STEP2で見つけた課題をシステムと捉えたうえで、様々な視点から考えていくことが、本質にアプローチできる解決策につながります。

学校での探究においても、参考になる事例ではないでしょうか。

解決策の実践を見据えて ―企業と学校が「越境」してみることで広がる可能性―

ここまで、企業におけるSTEP3の具体例をみてきました。

そこでシステム思考のアプローチが重要になることがわかりましたが、もう一つ、学校が企業の例から参考にできることがあります。

それは、学校の枠を超えてつながりをもつ「越境」への考え方です。

2022年12月に開催された“冬の探究サミット2022”(トモノカイが主催する先生向け探究ウェビナー)では、高校と企業の「越境学習」をテーマに講演を行った川九さん。ここで「変動・不確実・複雑・曖昧(VUCA)の時代においては、社会課題を解決し、企業の持続的発展に寄与できる人材の育成が不可欠である」とも述べるように、社会全体で「越境」が重要視されています。

<参考>冬の探究サミット2022における川九さんの登壇回については、採録記事をご参照ください。 

特に学校においては、その性質上、学校外との連携をなかなか取りにくいことは確かです。

しかしながら、学校、企業の境目を越えてみると、どんな効果があるでしょうか。

ことSTEP3に関連して述べると、地域の課題解決に積極的に取り組む数多くの企業の取り組みを学校が知ったり、話を聞いたりするだけでも、越境の効果があると言えます。

実践例を知ることで、ある課題に対する解決の仕方を考えるお手本になるため、学校における探究活動においても参考になるからです。

また、企業とともに課題解決に取り組んでみることで、実践の場を創出することは、まさに越境してこそ実現できることでしょう。

ここからはSTEP4 解決策の実行につながる部分ですが、生徒たちの見つけた課題に対し、すでに同じような課題を見つけて取り組んでいる企業や団体などを探してみて、一緒に取り組んでみるのは非常に効果的です。

とはいえ、「学校から企業に連絡をとるのは迷惑をかけてしまうのでは?」というように、なかなか学校外につながりを求める動きにはためらいを持つ先生もいらっしゃるようです。

一方で、筆者が色々な企業とお話しをしてきて感じるのは、むしろ企業側こそ、学校とつながっていきたいと考えているということです。

「企業から学校にお声かけしてよいものか」と悩まれている企業人がまだまだ多いようですが、生徒の皆さんは今後の未来を担っているからこそ、企業も彼らとつながっていきたいと感じているようです。実際に高校生とともに課題解決に取り組んでいる企業や団体も増えてきました。

まずは学校と企業との境目を越えて、一緒に取り組める道を模索してみることが、課題解決策を実行するSTEP4にもつながっていくのではないでしょうか。

<参考>社会でも注目が集まる、地域課題解決への取り組み ー環境省での事例ー

課題解決への取り組みについては、社会からも熱い視線が向けられています。

その一例としては、環境省によって実施された「持続可能な開発目標(SDGs)を活用した地域の環境課題と社会課題を同時解決するための民間活動支援事業」が挙げられます。

▼取り組みについてまとまっている記事
https://tiisys.com/blog/2020/04/04/post-63339/

また、この取り組みの一環としてまとめられた冊子には、全国8事業で行われた地域の課題解決におけるプロセスのポイントがまとめられています。

実際の地域における課題解決策実施の実例は、これから同じように、課題の解決へ取り組んでいく学校にとっても非常に参考になるのではないでしょうか。

▼SDGsを使って、社会を変える(2020,環境省)
http://www.geoc.jp/content/files/japanese/2020/03/doujikaiketsuleaf.pdf

冊子の一部。SDGsを活用した地域の課題解決についてのポイントがまとめられている

冊子の一部。ツールを活用してまとめられた地域課題解決事業の実例や担当者によるコメントは先進例として参考となる

<佐藤真久先生からのコメント>

「STEP3 解決策提案の過程」は、従来のW型問題解決モデル(川喜多1967)で終わらない、WW型問題解決モデル(佐藤、2020)の起点です。これまでの課題を見つけて解決するという発想は、実際の複雑性の高い社会においては、なかなか本質的な課題解決につながりません。「STEP3 解決策提案の過程」では、システム思考のスキルを基礎としており、他者と関わることによる多角的な見方を大切にしています。他者の異なる視点、多角的な見方を活用することを、システム思考では「異なるメンタルモデルを活用する」と言います。世の中の問題は、様々な要素が互いに絡まりあった「複雑な問題」です。このような「複雑な問題」に取り組むためには、物事を線形的な思考で捉えるのではなく、互いの相互作用、意味の多義性、時間の中での変化も踏まえることが重要です。

川九さんが取り組んでおられる企業研修でも、その「複雑な問題」に向き合う姿勢が読み取れます。この背景には、これまでの財務資本を基礎としてた企業経営から、非財務資本(製造、知的、人的、社会関係、自然)との統合と資本の好循環を意図している統合報告の流れを踏まえたものになっていると言えるでしょう。問題を要素に分けて考えるのではなく、全体が相互につながったシステムとして捉え、資本統合・好循環と、統合的問題解決に挑む姿勢であると読み取ることができるでしょう。

 

総括

ここまで、WW型問題解決モデル「STEP3 解決策の提案」に焦点を当て、企業や環境省で実践されている具体的な事例をご紹介してまいりました。

探究を進めるうえでは、その課題を解決するという実践フェーズに近づけば近づくほど難しさを感じるという先生も少なくないなか、日々課題に向き合い、解決に向け動いている企業や団体などの社会の動きは参考になりそうです。

次の記事では、STEP4  解決策の実行の過程におけるヒントを探ります。

あわせてお読みいただくことで、WW型問題解決モデルを実践に落とし込むヒントにつながるかと存じますので、楽しみにお待ちくださいませ。

執筆:佐瀬友香(株式会社トモノカイ)

<参考>これまでの連載記事

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