★こんな先生方にオススメ★
・探究的な学習を推進するチーム体制が気になる先生方
・学校全体で探究活動に取り組みたい先生方
・探究的な学習に対して不安を感じている先生方
佼成学園中学校・高等学校はわずか4年という期間で、「地に足のついた」探究を学校内に定着させました。
前回記事では、同校の探究活動の内容について、上野先生・南井先生にお話を伺いました。
学校内に安定した探究が定着したその一つの要因として、探究的な学習を学校に根付かせるために立ち上げた「探究学習推進委員会」という組織体制があるといえます。
本記事では、探究学習推進委員会をリードする上野裕之先生にお話を伺いながら、学校におけるチーム体制の仕組みを紐解き、探究的な学習を円滑に進めるヒントを探っていきます。
各学年をつなぐ「探究学習推進委員会」
佼成学園には、学校全体で探究的な学習を推し進めていくために、「探究学習推進委員会」が設置されています。
ここには中学校、高校の各学年1~2名ずつの先生と、教務主任の先生が参加し、学校全体の総合的な探究の時間のカリキュラムや運営方法について検討したり、各学年での実施状況を共有したりしています。
週に一度開催される定例会では、探究の時間で使用した教材を持ち寄ったり、活動をしている場面の画像や映像で共有したりして、それをもとに上手くいっていることや課題となっていることを報告し、先生同士で情報交換や議論を行っています。
メンバー全員で振り返ることで、今まさに困っていることも、新しい発見の喜びも共有する場となっているとのことです。
また、このように学年や担当教科の垣根を越えて先生方が集まり、学校全体で協力しながらコツコツと探究的な学習を推進していくことで、学年間で起こりやすい「認識のズレ」も発生しにくくなっています。
探究学習推進委員会というチームの体制が、佼成学園における探究の核となっているのですね。
先生たちの「安心・安全の場」を作ることが大事
探究学習推進委員会で議論されていることは、委員以外の先生方にも共有していく必要があります。
通常の定例会の内容は、委員の先生が所属する学年に持ち帰ってそれぞれで共有をしています。
さらに、佼成学園では年に1~2回、全教員が集まって探究に関するテーマで教員研修会を行い、そこで各学年の探究活動の実施状況を共有したり、探究指導のコツや考え方などを学んだりしていきます。
委員以外の先生からも率直な意見を出してもらいながら、学年の壁を越えて情報交換を行い、よりよい方向性を検討していきます。
委員会や教員研修会の場が先生方にとって「安心・安全の場」でなければならないと上野先生が語るように、ここでは見栄を張ったり、誰かを責めたりするようなことはしません。
うまくいったことも、そうでなかったことも、普段言いにくい悩みも、本音で話し合える環境となっているのです。
はじめは上野先生を中心に行っていたという教員研修会。
今ではこの「安心・安全の場」に信頼を寄せているからこそ、他の先生方も積極的に発言して、お互いを高め合っているといいます。
遠慮せずどんなことも素直に共有できる場づくりは、他の学校にとっても参考となる点ではないでしょうか。
「総合的な探究の時間」は、いよいよ2022年度から本格的に始まりますが、現場の先生方にとっていまだに困惑も多いことでしょう。
どうしたらいいのかも分からない、でも指導や評価は行っていかなければならない。
こうした未知の不安により、探究的な学習に対する “ハードル”ばかりが上がっている傾向も感じざるを得ません。
だからこそ、上野先生は「先生方の感じる“ハードル”の高さ」をいかに共感しながら一歩ずつ前進できるかに重点を置いています。
その結果として、学校全体で、支え合い協力していく体制が、佼成学園全体でしっかりと形成されているのです。
ちなみに、探究に関する教員研修会は今でこそ探究学習推進委員会を中心に同校の先生方で進めることが多くなりましたが、かつて探究に取り組み始めたころには外部協力者を招へいすることもありました。
現在は「佼成学園における探究の姿が見え始めたから」と独自で道を作って進んでいますが、やはり最初は戸惑うこともあったそうです。
手探りの状態の場合、不安を感じながら探究に取り組むよりも、思い切って他校の先生や大学、企業、自治体などいろいろな方面に手助けを求めるのもひとつの手だといえます。
まずは「先生」を全ての起点に
上野先生が探究を根付かせるために必要と考えるのは、「先生方の共感と理解」だといいます。
そのためか、佼成学園では「何よりもまずは先生」として、先生方の取り組みのサポートを全ての起点に置いています。
先生自身が、探究的な学びを楽しいものと認識し、余裕をもって取り組む姿を見せることで生徒にも探究の魅力が伝わります。
そして、その生徒たちが探究に積極的になっていくと、また先生のモチベーションにつながっていく、というような良い循環が生まれます。
だからこそ「生徒にどう動いてもらうか」ではなく、まずは「先生にどう動いてもらうか」。
先生方の意識が同じ方向に向くように働きかけることが大切なようです。
また、探究学習推進委員会の在り方や教員研修会における学校全体での取り組みからも、先生方へのサポートを起点としていることがよくわかります。
学年や担当教科の垣根を越えた場づくりが、各学年の先生方に任せきりにせず、負担を軽減しているからです。
佼成学園のように、先生が一人で悩むような場面を作らないよう、学校全体で探究に取り組んでいくという仕組みは、非常に参考になるものではないでしょうか。
先生の安心へ 探究教材の役割とは
佼成学園では、トモノカイの探究教材である『一生使える探究のコツ 実践の手引き~導入編~』『一生使える探究のコツ 実践の手引き~課題研究編~』が採用されています。
探究的な学びにおける教材は授業のサポートだけでなく、先生方が安心できる材料としても機能しているといいます。
探究は自由度が高い教科であるがゆえに、かえって指導の方向性に迷ってしまうことが多くなるといえます。
そこに、軸として探究教材を置くことによって、指導を行う先生がそれぞれ異なっても、学校や学年でのベクトルが揃い、全体での一貫性が生まれるのです。
トモノカイの取材に答える上野裕之先生
探究的な学びを進める上でよくあるパターンとして、クラスや先生によって指導の厚みに差が出てしまう場合があります。
これを受けて上野先生は「まずは佼成学園の先生全員が、“総合的な探究の時間”の運営をできるようにしたい」と考え、「総合的な探究の時間」における先生方の指導方針・方法の“標準化”を目指しました。
だからこそ、どの先生でも探究的な学習を生徒に提供できる体制を整えており、その中心には探究教材や、学校全体で協同して取り組む探究学習推進委員会があるのです。
その上で、上野先生は「個々の先生の得意とする分野や個性をもとに先生方のオリジナリティを発揮しながら、それぞれの生徒の資質・能力を伸ばしていってもらいたい」と考えています。
教材はあくまで授業の基礎部分であり、それをいかに先生自身や生徒に合わせて活用していけるかが重要であるといえます。
先生方の指導に関する“標準化”を図りながらも、先生一人ひとりのもつ“オリジナリティ”を大切にしていくような姿勢が、佼成学園にはありました。
総括
本記事では、佼成学園の探究学習推進委員会を中心に、探究的な学習のヒントを探りました。
印象的であったのは、先生方のもつ意識を学校全体で合わせながら、高め合っていくような工夫です。
「総合的な探究の時間」という新しい学習にも、佼成学園は少しずつ、学校全体で取り組んできたからこそ、安定した探究の学びにつながっているのでしょう。
そして、この先生方の軸ともなっているのが探究教材でした。
佼成学園では、共通する探究教材を基に情報を共有しあい、日々よりよい学びを全員で目指していくという先生方の努力がみえました。
だからこそ生徒たちは自ら進んで、楽しみながら探究的な学びに向き合えるのではないでしょうか。
加えて、上野先生はこれから本格的な探究的な学びに取り組む学校に向けて、「他の学校の進度は気にしなくて大丈夫」とエールを送ります。
探究的な学習への取り組みが他の学校より遅れてしまうと、追いつけないと思って焦ってしまったり、余計に困惑してしまったりすることもあるでしょう。
しかし、探究的な学びの主役はあくまでも生徒であり、彼らが「どう思考してどう成長していくか」が重要だといえます。
そして、これをデザインしていくのが学校の役割であるからこそ、進み具合は学校ごとに異なってよいですし、取り組みへの早い遅いの差も気にしなくてよいのです。
このような上野先生のアドバイスも、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。
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今後も、探究的な学習においてお悩みの先生方のお役に立てるよう、様々な角度から取材を行い、事例をご紹介して参ります。
<佼成学園中学校・高等学校でご活用いただいている教材>
1.『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~導入編~』)
2.『一生使える探究のコツ 実践編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~課題研究編~』)
トモノカイの探究教材『一生使える探究のコツ』シリーズご紹介ページはこちら
>>>これまでの事例取材記事はこちらよりご覧いただけます!<<<
(執筆:佐瀬友香/トモノカイ)