★こんな先生方にオススメ★
・学校でもともと行っている取り組みを探究的な学びに活用したい先生方
・生徒の段階に適した探究教材の選び方が気になる先生方
・探究的な学びにおける評価のつけ方でお悩みの先生方
東京都の杉並区に位置する佼成学園中学校・高等学校は、探究歴4年目。
わずか4年という短い期間にも関わらず、独自の探究的な学習の形は今や、学校全体に広まっています。
「“地に足のついた探究”をしている」と語るのは、探究学習推進委員長である上野裕之先生。
まさに地に足のついたような、しっかりと安定した探究をどのように定着させていったのでしょうか。
本記事では、同校の広報部長である南井秀太先生にも同席していただき、探究的な取り組みについて伺いました。
既存の学校行事と結びつけた独自のカリキュラムと、教材の使い方
佼成学園における総合的な探究の時間のカリキュラムは、中学1年生から高校2年生までの5年間で構成されています。
学年ごとに成果物や発表内容も定まっており、目的やコンセプトもはっきりとしています。
まずは、中学校3年間のカリキュラムに着目します。
ここで興味深いのは、既に行われている学校行事と結びつけてカリキュラムが設計されているということです。
具体的には、まず1年生では、長野県の自然の中で行う「自然教室」において、自然のフィールドを舞台に、自然と触れ合いながら「問い」を出す体験を積みます。その後、夏休みの自由研究として情報収集だけでなく、自然科学的な手法として実験や観察などを行いながら、探究のサイクルを体感させます。
続く2年生では、鎌倉への「校外授業」や京都・奈良で行う「歴史教室」をリサーチの手法を経験する機会と位置付け、それに向けて人文・社会学的なアプローチからの調査や検証方法を学び、1年生の時とは違ったやり方での探究のサイクルを体感させます。
1年生の時は自然科学を題材にした「理系」分野の探究であったのとは対照的に、2年生では人文・社会科学を題材にした「文系」分野での探究活動になっているのは重要な点です。
二つの分野をどちらも経験することで、高校生になった際の文理選択の一助ともなり得ます。
そして3年生では、中学校の集大成として「ゼミ活動」を通じ、生徒それぞれが自分の興味のあるテーマで探究を進めます。
テーマを決める際には、先生が一人ひとりに寄り添い、対話をする中で生まれた問いを拾い上げることで魅力のある内容になるということです。
実際に生徒たちは、芸能やスポーツなど身近な話題からテーマを掘り下げていました。
「お作法だけでは楽しくないから」という上野先生。
型を教え込むことより、まずは探究的な活動に興味をもってもらうことが継続的な学習につながるようです。
だからこそ中学校では、行事を通して楽しみながら基本的な探究のやり方に触れていくことを大切にしているとのことです。
高校では本格的に探究活動を
佼成学園では、本格的な探究活動への取り組みを高校段階に位置づけています。
中学校では型や作法を意識せずに楽しみながら探究的な学びを進め、資質・能力を磨いていくことに重点を置いていましたが、いよいよ高校では本格的な探究活動の手法や考える型を学び始めます。
その基本となるのは、1年生と2年生において用いる2冊の教材です。
1年生:『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~導入編~』)
2年生:『一生使える探究のコツ 実践編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~課題研究編~』)
トモノカイの探究教材、一生使える探究のコツシリーズの2冊
1年生の1学期から2学期の初めにかけて、まず『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~導入編~』)を用いて、探究のプロセスを段階的に学びます。
導入編では、小さな探究のプロセスを繰り返し取り組む構成になっているため、探究的な学習の基礎を徐々に積み上げることができます。
夏休みも活動期間に含むことにより、生徒自身が探究的な学びを実践するアウトプットの時間も確保されています。
そして1年生の3学期から2年生にかけては『一生使える探究のコツ 実践編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~課題研究編~』)を用います。
課題研究編では、自ら問いを立てて課題研究を行っていくプロセスを学ぶことができるので、論文制作には欠かせない一冊です。
佼成学園では、3年生における探究は個別指導に切り替わるため、最終的な成果物となる「卒業論文」を2年生で作成します。
そのためのノウハウを課題研究編で学ぶということです。
生徒たちの段階を把握し、身につけてほしい学びに合わせて、最も適した教材を選択する。
こうした佼成学園の実例は、探究教材の導入に迷っている先生方の参考になるのではないでしょうか。
探究は「教科・科目×総合的な探究の時間」の「両輪」で!
「総合的な探究の時間だけでは、日常的に探究的に考える力を身につけるには足りないことがある」という上野先生。
他の教科でも、生徒の「問いを立てる」力を養うことを念頭に置いた授業を展開することがあるそうです。
上野先生が担当する生物基礎での例を見てみましょう。
先生の授業では、生徒自身がインプットしたことをアウトプットするためのノート作りがベースとなっています。
あわせて配布されるプリントは、教科書内容の「幹」をつかむための観点を中心に、生徒に提示する役割を果たしており、中には、教科書を調べるだけでは明快な答えが見出だせない、本質に迫る問いや日常生活に関係する複雑な現象に対する問いなどが与えられます。
これらの問いについて、教科で学んだ知識と自分が探し得た情報を織り交ぜて活用することで自分なりの納得解を見つけていくプロセスは、まさに探究的な学習といえるでしょう。
探究教材で培ったやり方や考え方を、生物基礎の時間でも自然と応用しているのですね。
また、日々の授業の振り返りシートの中で、問いを出すことを習慣化していることもあってか、授業で習って終わりにせず生徒自身が疑問に思ったことを問いとして立ててくることが増えたといいます。
ここでも上野先生は答えを単純に教えるということはしません。
あくまで「情報提供」までにとどめることで、生徒自身が設定した問いを解決しようとします。
時々、上野先生でもすぐには答えられないような問いを投げかけられることもあるそうですが、その際は「先生もわからないから教えて!」ということで、生徒も喜んで答えを探してくるといいます。
上野先生が「先生は専門家ではない」と言うように、先生方がどんな問いにも答えられるというわけではありません。
むしろ、わからないことは生徒と一緒に学んでいくという姿勢が重要だといえます。
このように、総合的な探究の時間と、教科・科目の時間の「両輪」で、生徒たちの探究的に考える力を養っていくという例は、非常に参考になるのではないでしょうか。
見えてきた生徒の変化
佼成学園における探究での学びの成果は、生徒の行動にもしっかり表れていました。
「明らかに生徒の様子が変わってきた」と語るのは、佼成学園の広報部長を務める南井先生です。
特にそれは7月に行われた「学習合宿」での生徒の様子に表れていたといいます。
佼成学園の学習合宿とは、全時間が生徒の探究的な学習になっている特別授業です。
教室もすべて解放しているほか、許可制で学校の外にも出られるなど、まさに生徒一人ひとりが自分の課題や問いに向き合える環境が整えられています。
ここで南井先生は、生徒の「自分から前向きに、自身の課題に取り組んでいる姿勢」に驚いたといいます。
生徒からの積極的な質問や、自発的に行われる生徒同士のディスカッション、疑問を解決する手段を主体的に探して実践する姿勢。
こうした探究に対して積極的かつ主体的に取り組む生徒の姿に、明らかな変化を感じたようです。
従来であれば先生主導で行われがちになる授業の中で、生徒が自ら議論をするというのは素晴らしいことですね。
生徒自身が探究的な学習に楽しさを見出している、確固たる証拠といえます。
評価にはオリジナルの「ルーブリック」と「振り返り」が重要
探究的な学習を進めていくうえで多くの先生方が悩まれるのが「評価」についてでしょう。
佼成学園では独自のルーブリックを作り、それを基にした評価を他教科とは別の「通知表」で生徒に渡しています。
ただし、これはあくまで形成的評価であり、点数をつけるためのものではありません。
佼成学園では、「振り返り」を評価の目的としておいているからです。
なお通知表は、上野先生をはじめとした探究委員の先生方が「どんな力を生徒に身につけていて欲しいか」という観点で考えた評価項目と、生徒へのコメントで構成されています。
共通した基準があることで、先生方による評価のばらつきも抑制でき、また生徒一人ひとりに合わせたコメントによって、生徒自身が振り返りをできるようになっているのです。
生徒は、この通知表の内容を活動の節目で行っている自己評価に照らすことで、自身の探究を振り返り、必要な場合は軌道修正をしながら次の課題に臨んでいきます。
生徒の主体性を重んじながらも、評価という形で先生が適切な方向に導くことで、探究活動自体がスムーズに進むのですね。
その一方で、上野先生は同時に「ルーブリックは生き物だ」といいます。
学年によっても、時代によっても、評価すべき点は常に変わりゆくからです。
二人で思い出を振り返りながら取材に答える上野裕之先生と南井秀太先生
実際に佼成学園では現在、各学年の発達段階に応じてどのような資質・能力を重点的に育てていくかを改めて考え直し、ルーブリックを再編していく段階にいるといいます。
このように、一度完成した形に頼り切らず、生徒の様子や時代の状況を常に見つつ、それに合わせて改良を重ねていくという姿勢が、わずか4年という短期間でも独自の探究を確立できた要因の一つでもあるのでしょう。
総括
本記事では、佼成学園中学校・高等学校における探究的な取り組みをご紹介しました。
通常の授業や行事など、日常の延長線で探究的な学びに触れることで、生徒たちの「問いを考える力」は着実に伸びてきています。
また、4年という短い期間でも、しっかりと「地に足のついた」佼成学園の探究的な取り組みは、背伸びをするのではなく、今できることを最大限に行ってきた結果の表れといえます。
生徒に身につけて欲しい力を考え、そこに最適な探究教材を選ぶ佼成学園のカリキュラムの組み方は、探究教材利用を検討する先生方にとって非常に参考になるのではないでしょうか。
探究的な学習を進めることにお悩みをもつ先生方にとって、本記事がお役に立てましたら幸いです。
◇ ◇ ◇
今後も様々な取材を行い、学校における探究を多様な角度でお伝えして参ります。
次回記事は、佼成学園中学校・高等学校の「探究学習推進委員会」にフォーカスを当てた事例紹介です。
ぜひ、本記事と併せてお読みください。
<佼成学園中学校・高等学校で使用していただいている教材>
1.『一生使える探究のコツ 入門編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~導入編~』)
2.『一生使える探究のコツ 実践編』(旧:『一生使える探究のコツ 実践の手引き ~課題研究編~』)
トモノカイの探究教材『一生使える探究のコツ』シリーズご紹介ページ
>>>これまでの事例取材記事はこちらよりご覧いただけます!<<<
(執筆:佐瀬友香/トモノカイ)