★こんな先生方にオススメ★
- 企業と連携した探究的な取り組みに興味がある方
- 探究活動の幅を広げていきたいと考えている方
- 学校内にとどまらない探究活動を取り入れていきたい方
先日行われた冬の探究サミット2022のLIVEセッション③では、『高校と企業が連携した探究(越境学習)で、社会に開かれた教育へ』と題して、探究(越境学習)を実践している複数企業・団体の担当者の方を講師にお招きし、各企業の取り組み事例について紹介していただきました。
高校と企業が連携を進めるメリットや、越境学習を進めるうえでの注意点など、セッションの内容をレポートします。
講師としてご登壇いただいたのは、株式会社ビジネス・サクセスストーリーの川九健一郎氏、NECマネジメントパートナー株式会社の逢坂浩一郎氏、一般社団法人フィッシャーマン・ジャパンの松本裕也氏、THE SUNTORY UN!ON事務局長の段将大氏です。
最初に、各講師から、それぞれの企業・団体の取り組みについてお話しいただきました。
高校・企業に求められる「社会課題を解決する人材育成」
「経験を通して変容を生み出す」をテーマに、人材開発事業とまちづくり事業を行っている株式会社ビジネス・サクセスストーリーの代表、川九氏。全国の観光地域づくり法人やNPO、行政組織と連携して、地方での実体験を伴った企業研修を進めています。
変動・不確実・複雑・曖昧(VUCA)の時代においては、社会課題を解決し、企業の持続的発展に寄与できる人材の育成が不可欠であると指摘。「社会課題を解決していく人材育成は、高校、企業のどちらにも問われている。高校と企業が連携して、探究を進めることにどんな可能性があるかを一緒に考えたい」と、このセッションの狙いを話しました。
現地・現物・現実に五感で触れる「五感塾」
段氏は、サントリーの労働組合が10年前から進める「五感塾」の取り組みについて話しました。五感塾は、現地・現物・現実に五感で触れる体験を通じて、人間力を磨く体験型研修で、体験を参加者・協力者が共有し気づく力・学ぶ力を高めます。
例えば、島根県・海士町で開かれた「海士五感塾」では、実際に海士町を訪れ、島民との対話やフィールドワーク、島の文化や風土を知る学びなどを実践しました。このような取り組みは、全国各事業所で行われています。
段さんは五感塾での体験に基づき「高校生との異種格闘技には多くの学びがある」と話し、「ダイバーシティやSNSマーケット戦略、ボランティアなどについて高校生と企業が一緒に考えてみると、いろんなことができる可能性があると感じています」と期待を語っていました。
地元企業と若者たちが混ざり合う効果
松本氏は、宮城県石巻市で水産業界の課題解決に取り組むフィッシャーマン・ジャパンの取り組みを紹介しました。同団体は、新しい水産業の形を石巻から作り出し、日本の水産業を変えていくことを目指して活動しています。未来の水産業を担うフィッシャーマンの育成のために、地元の高校生向けの漁業教室や学生向けの水産業インターンなどに、地元の水産業者や漁業者を巻き込みながら取り組んでいます。
「地元の企業と若者たちが混ざり合うことで、共にどう高め合っていけるかといった論点について一緒に考えることができればいいと思います」と共に学ぶ相乗効果への期待を示しました。
長期越境型プログラムで当事者意識を醸成
最後に、逢坂氏はNECの人事部門を担うパートナー会社で社会課題体験型人材開発プログラム「Sense」の企画・運営に携わってきた経験について語りました。Senseは、社会問題解決に取り組む企業やNPO法人にNECの人材を3カ月以上の長期にわたって派遣したり、新規事業創出にチームで参加したりする越境型プログラムです。
逢坂氏は「社会価値を創造しようとしている企業、団体に人材をコラボして、社会課題の最前線や、複雑な問題を抱えている現場を見る、感じる、圧倒的な当事者意識を醸成するといった点を意識してプログラムを進めています」と説明しました。
続いてのパネルディスカッションは、4人の講師の話から作成したファシリテーショングラフィックに基づいて進められました。
主なテーマとして、探究学習、越境学習を進めるなかで企業が感じている課題、高校と企業が連携するために必要な環境整備、地元民を巻き込んだ交流の重要性などが挙げられました。特に、高校と企業の連携については、両者をつなぐ専門的知識を持った第三者的役割への期待が語られました。
ファシリテーショングラフィックには、講師の発言内容からピックアップした重要なキーワードがリアルタイムで書き加えられていき、議論の進行がビジュアルからも分かりやすく示されました。
また、参加者の皆さんからは、チャットを通じて質問をしていただくことで、双方向のやりとりを交えながらのディスカッションとなりました。
現場体験が進路選択の力に
段氏は「セミナーや本では人間力の価値はなかなか伝わらないが、五感塾で現場に行くと、重要性が伝わるし、その後の行動が変わってきます」と越境学習の効果を強く訴えました。
松本氏は、インターンを体験した大学生が、その後の進路を見つめ直すきっかけとなっている実例を紹介。「高校生の段階でこうした体験ができると、大学進学などその後の進路選択を考えるうえでも影響を与えるし、進路指導のやり方にも変化をもたらすのではないか」と、高校生の段階での現場体験の重要性に言及しました。
実際に企業と高校の連携を進めるうえでの課題も指摘されました。
松本氏は「学校でも地域でも企業でもない存在が重要だと思います。それぞれの立場を考えながら動くというのは、学校の先生たちだけではすごく難しい。長い目でそういったことを考え続ける第三者や、別組織をしっかり作っていくことで実践がかなりうまく回るのかなと思います」と指摘しました。
逢坂氏は「企業人も高校生も、一緒に社会を作っている人たちなんだという目線を持つことが大事だと思います。そして、社会の構成員の皆さんを繋げる役割を果たせる存在、仲立ちをしてくれる存在がやはり必要です」と話しました。
総括
セッション中は、参加者の皆さんからチャットで質問を受け付けました。その場で疑問点を解消でき、双方向で議論できたのはライブならではの効果ではないでしょうか。
終了後には、講演とパネルディスカッションの内容をまとめた資料が配布されました。皆さんに持ち帰っていただき、内容を復習しながら、今後の探究活動に役立てていただきたいと思います。
変化の激しい時代のなかで、社会課題を解決していく人材育成は、企業のみならず高校の段階でも求められる喫緊の課題です。
もっとも、高校生と企業人がともに探究に取り組むための課題もいくつか指摘されました。企業、教育現場それぞれの立場や課題を客観的に把握し、両者をつなぐ第三者的存在の必要性も示唆されています。
すでに企業という枠を超えて越境学習に取り組んでいる講師の皆さんは、現場体験から生まれる意識改革や課題発見の効果を肌で感じているようです。さらに、高校生と企業人の交流から生まれる効果に対しても大きな期待が寄せられていることが分かりました。
まずは、探究、越境学習への共通認識を確認することが、連携への第一歩につながるのではないでしょうか。
執筆:李 香
企画:佐瀬 友香(株式会社トモノカイ)