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「探究を通じて得た経験が、将来を考えるきっかけに」。3校の探究事例から学ぶ、生徒の未来を切りひらく探究の在り方 | 日本探究部 powered by トモノカイ

「探究を通じて得た経験が、将来を考えるきっかけに」。3校の探究事例から学ぶ、生徒の未来を切りひらく探究の在り方

「探究を通じて得た経験が、将来を考えるきっかけに」。3校の探究事例から学ぶ、生徒の未来を切りひらく探究の在り方。

全4つのLIVEセッションで開催した「冬の探究サミット2022」。最後を締めくくるのは、特徴の異なる3校の学校から集まった先生、生徒による講演です。

「3校の先生・生徒から学ぶ、探究的な学びの実践例とその効果」というタイトルの通り、それぞれの学校で行われている探究活動の事例や、探究を推進していくなかでぶつかった壁、成功体験などを語っていただきました。今回登壇した3校は、昨年度夏に開催した探究成果の全国大会「自由すぎる研究グランプリ」でも優秀な成績を収めています。

そんな素晴らしい探究成果が生まれる過程を紐解いていく回となったセッション④の一部を、本記事でお伝えいたします。

探究学習=「学ぶことの大切さを学ぶ」こと。ー長崎県立長崎東高等学校 樫本英人先生

「ここから話すことは綺麗なことばかりと思われるかもしれませんが、実はその裏で九割五分くらいは泥臭いことをやってきました」と語るのは、長崎県立長崎東高等学校の樫本英人先生です。

長崎県内でも大きな学校の一つである同校は、長崎の中心部にある中高一貫の共学校で、WWLの指定も受けています。探究は「総合的な探究の時間」だけでなく、科目での学びの中でも取り入れられているほか、課題研究にはチームで取り組んでいます。

樫本先生は、「探究が“真正な学び”であることを大切にしている」としたうえで、同校の探究においては、「“なんでもやってみる”という環境があることが一番大きいと思います」と語りました。

また、樫本先生は成果よりも経験を重視しており「素晴らしい成果を出してほしいというよりは、これからの社会を生き抜くために、答えのない課題に対して自分なりに答えを出していく経験をしてほしい」とも、力強く述べました。

とにかく生徒自身の好奇心を大切に、あとは生徒が「なんでもやってみる」ことができる環境を整えていることが、生徒の主体的な探究への取り組みにつながっているのだそうです。

「自由すぎる研究グランプリ」でイノベーション大賞を受賞した黒岩夕綺さんら4名のチームにおいても、生徒たちが自ら大会を見つけ、チャレンジしました。

黒岩さんの活動を見守っていた樫本先生は、「企業の人にも自分から連絡を取るなどして、とにかく人と話していましたね」と、彼らの探究活動を先生の視点から振り返りました。

(黒岩夕綺さんら4名が発表した作品『バッタは養殖業を救うのか?』は自由すぎる研究グランプリにおいてイノベーション大賞に選ばれた)

最後に樫本先生は、「自分の好きなことをとにかくやる」、そして「生徒が“ガチ”になれる状況を作り上げる」ことを大切に、と結びました。結果として生徒たちは素晴らしい成果を出しています。

「自由すぎる研究グランプリ」での受賞も含め、数多くの功績を挙げている同校。

セッション内では、これまで樫本先生が“泥臭い”努力を重ね試行錯誤しながら、探究の推進に心血を注ぐ中での気づきを共有しました。

「定時制でもできる、定時制だからこそできる探究を。」 ー宮崎県立宮崎東高等学校定時制夜間部 西山正三先生

「総探を利用して、生徒の得意、好きを見つけられることにつなげています」。

そう語るのは、宮崎県立宮崎東高等学校定時制夜間部で探究を推進する西山正三先生です。

同校に通う生徒たちの特性を尊重しながら設計された探究は、ワークを多く取り入れ、1年次からじっくり基礎を固めながら進みます。

また、「問い、考え、語り、聞くこと」という哲学対話の基礎を大切にしているなど、奥行きのある探究学習が実現されています。

「何か特別なことをやるのでなく、学習指導要領にのっとって、スタンダードを大切にすることで探究を広めていきたい」とも語る西山先生。

実際に同校では、例えば英語や国語といった教科学習の中にも探究的な学びを取り入れる「教科横断的学習」など、学習指導要領を軸にした探究活動を展開しているそうです。当日はこれらの事例の共有や、実際に学校で使っている独自のツールの共有もありました。

こうした探究を進めてきたことで、人前で話すことが苦手だった生徒もどんどん発表できるようになったことや、自分たちでアンケートをとるなど積極的に動けるようになったことなどが成果として表れたといいます。

また、「自由すぎる研究グランプリ」で奨励賞を受賞した長友光さんは、自身の探究テーマ『ごんぎつね裁判』を進めることで、「自分が将来やりたいことを再確認できた」と話します。

(長友光さんが発表した作品『ごんぎつね裁判』は自由すぎる研究グランプリにおいて奨励賞に選ばれた)

はじめは探究していくテーマがなかなか決まらなかったという長友さんですが、先生方のアドバイスもあり、結果として『ごんぎつね』をテーマとした探究成果を出すことができました。

長友さんが将来関わりたいと考えている「動物愛護」にもつながったという点で、今後の方向性の再確認ができたというのです。

また、裁判を扱うテーマということで、法律のことなど高校生にとっては難しい部分も多かったといいますが、知識不足なところは、先生や外部のアドバイザーの方に頼ることで、一緒に考えながら答えを出していったとのことでした。

その過程の中で、長友さんは「色々な方とのつながりを実感できることもでき、また、自分の好きなことをしていいんだという自信にもなりました」と語ります。

探究への取り組みが、自分に向き合うきっかけと「考えることは面倒くさいことだけど、考えないと答えが出てこないことだらけです。逃げずに向き合うことで、自分がやりたいことにもつながっていくのだと思いました」と結びました。

「走りながら、模索する探究」 ー大妻多摩中学高等学校 久枝昂弘先生

「学校、探究、生徒。この3つのワードを使って、文章を作ってみてください」。

そんな印象的な問いかけから講演を始めたのは、大妻多摩中学高等学校の久枝昂弘先生です。

「文章を作ってみた結果、主語は何になったでしょうか? また、「探究」は動詞として使いましたか? それとも、“科目”として使いましたか?」

自然が豊かな東京都多摩市に位置する同校は、中高一貫の女子校です。この6年間の月日をかけて探究を設計しています。

予測困難なVUCAの時代と言われる現代社会に生徒たちが対応できるよう、「教科の枠を越えた学びで、未来を切り拓く力をつけてほしい」という久枝先生。この力を養うために、同校では数多くの探究プログラムを展開しています。

当日は、多摩市の企業や市役所の方と協働して行うワークや、環境問題の解決を目指したワークショップなど様々な事例が久枝先生から共有されました。

こうした取り組みを行う中で、同校の生徒たちは様々なコンテストなどに“自主的に”参加をしています。

そのうちの一人である小笠原優海さんは「自由すぎる研究グランプリ」で「エンターテインメント大賞」を受賞しました。

小笠原さんは、自身の探究テーマである『心地よい「音楽」を「数学」で奏でる』についての説明をしたうえで、テーマ設定の背景を語ります。

「最初は“ファッション”についてという、今とは全然違うテーマでした。しかし、数学の授業中に、音楽との関連性を考えてみたところ、“非常に自分が興味のあることだ”と気づいたので、これを探究テーマにすることに決めました」と、テーマ設定の背景について語りました。

(小笠原優海さんの作品『心地よい「音楽」を「数学」で奏でる』は自由すぎる研究グランプリにおいてエンターテインメント大賞に選ばれた)

学校で取り組む探究が終わっても、小笠原さんはこのテーマについての探究を自主的に続けてきたといいます。「今も自宅で研究し続けているし、大学でも続ける気満々でございます!」という力強い意気込みもありました。

小笠原さんが熱心に取り組んだ探究の成果やその姿勢は学校外の人の心をも動かし、テレビに取り上げられました。

また、小笠原さんはこれまでの探究を振り返りながら「今のテーマで探究をするまでは将来にこれといった目標がなかったけれど、今では自分の将来やりたいことが明確になりました」と嬉しそうに結びました。  

これまでの講演から、プログラム自体は学校が立てているものの、生徒が主体的に探究に取り組んでいることが分かります。

「興味も関心もゴールも、生徒一人ひとりで異なる。だからこそ、我々教員は生徒に探究をさせるのでなく、生徒が走り出すきっかけを作ることこそが役割なのではないでしょうか」。

そう語る久枝先生は「“学校はなんのためにあるのか“を問いながら、それぞれの学校活動を教育と結び付けていく。その中に探究があるのです」と締めくくりました。

まとめ 探究への取り組み方に正解はない

当日は質疑応答も非常に盛り上がり、チャットへ続々と集まる質問から得ることも多く、大変有意義な場となりました。

また、3校の講演内容から、探究への取り組み方は様々であり、どれか一つの絶対解があるわけではないことが実感できました。一方で、「生徒が主体的に動く 」ための工夫をすることなど、共通して大切にされているポイントを知ることができました。

今後も、様々な学校における探究への向き合い方に触れていきたいです。

執筆:佐瀬友香(株式会社トモノカイ)

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