★こんな先生方にオススメ★
- 高大接続に興味がある先生方
- 探究的な学びを通じて生徒の主体性を育みたいと考えている先生方
- 総合型選抜など探究を進学につなげたいと考えている先生方
2022年12月17日(土)~18日(日)の2日間に渡って開催された「冬の探究サミット2022」のLIVEセッション。1日目の12月17日(土)に行われた2つのLIVEセッションのうち、セッション②の『探究を通じた高大接続の実例』について、本記事では講演内容の一部をレポートとしてお伝えします。
桜美林大学では2023年4月に、好奇心と探究科学に基づく自己変革力と周りの良い変化を促す発信力を高める「教えて学ぶ」という教育学的学びを実践する「教育探究科学群」の開設を予定しています。その『教育探究科学群』の学類長(就任予定)・設置準備責任者である山崎慎一准教授から『探究を通じた高大接続の実例』をテーマに大学の総合型選抜の実践事例、そして高校の探究に期待することについて講演いただきました。
『教育探究科学群』開設 入試は選抜からマッチングの時代へ
桜美林大学では『教育探究科学群』のプロジェクトが発足する前から探究入試を行い、探究というものをよりしっかり評価して大学への進学に繋げたいという考えを持っていました。
その思いを明確にしたことが教育探究科学群の開設・設計につながっています。
「大学だけではなく高校も含めてどうやってこれからの教育を作っていくのかは当然大きい課題で、特に入試の部分については本当に高校の先生も大学の関係者も日々苦労している」と山崎准教授は語ります。
その状況の中で、探究を重視した入試の作り方の判断基準として単なる選抜ではないマッチングを大事にしており、高校生の良さや、やりたいことに焦点をあてて評価し、大学進学につなげたいと考えているそうです。
探究支援プログラム『ディスカバ!』で未来を見つけるきっかけをつくる
2022年4月から『総合的な探究の時間』が高校で始まり、その授業内容は従来の科目のように学習指導要領に沿ってある程度教えることが決まっている、という状況から変化してきています。
教えることが難しい探究を支援したいという思いから『ディスカバ!』が始まりました。
ディスカバ!の探究支援プログラムでは色々なテーマがあり、生徒自身がやりたいと思うことを他の高校生や大学生と一緒に勉強していく中で、自分に合う進路や大学や分野が何なのかを考える、一つのきっかけを提供しています。
山崎准教授は「ディスカバ!の特徴は正解は一つだというものを扱わないこと」といいます。
正解が一つではない、いわゆる“正解がない学習”といっても生徒を放任するのではなく、プログラムをサポートする大学生メンターを参加させ、彼らとの会話の中で高校生が自分の意見を言いやすくするなど環境づくりにも配慮しているそうです。
『ディスカバ!』が桜美林大学の探究入試『Spiral(スパイラル)』につながる
桜美林大学では『Spiral(スパイラル)』という探究入試を始めています。
探究の学びや経験を積極的に評価していく入試方式で、総合型選抜の一つとして位置づけています。
ディスカバ!を通して実感した高校生の探究への熱気が大学入試という「進学」に繋がることを、大学自らが意思表明しているものと言えます。現在、拡大に向けて3つの方式が設けられるようになりました。
公開されている『Spiral』の評価視点
Spiralの評価視点は、学習指導要領に沿った項目で世の中に示しています。
主体的・協働的に取り組み、課題を設定し情報収集を行い、整理・分析を通して表現していき、それが「自己を分析し、変容する力」や「高等学校での探究学習の枠組みを越えて取り組む力」に繋がっていくようなかたちです。
その中では、思考力、想像力が大事になってきます。
大学は探究入試『Spiral』で生徒の何を見ているか
そして桜美林大学は探究入試Spiralを受ける生徒の何を具体的にチェックしているのか。
山崎准教授は「私たちは、教育探究科学群の理念や大学のミッションをとても大事にしています。この学群が何をやるところなのか、どんな考えなのかいうところを知っておいて欲しいし、面白そうだと思って来てもらえたら一番いいなということで、面接ではこの部分について必ずお話を聞くようにしています」と教育探究科学群に対する理解度の重要性に触れます。
また「自分自身のことを問われたときに『なぜか』を説明できることも大事で、そこは高校の先生が生徒の書類を見て聞いて生徒の思考の深化をサポートしていただけるとありがたい」と続けます。
『探究プレゼミ』で身近なロールモデルと探究学習を共有
ディスカバ!のプログラムの一つに、『探究プレゼミ』という教育探究科学群の学びを体験するゼミがあります。
これを探究入試Spiralでは重視しており、このゼミを通過することで入試の書類審査が免除されます。
「一緒に物事について議論したり考えたりすることを通して学群で行っていることを知ってもらう機会を作りたい」と山崎准教授。
『学生団体ASPIRE(アスパイア)』という大学生・大学院生の団体がゼミに参加し身近なロールモデルとして一緒に考えることで、高校生の学群への相性や適性を理解できるのが探究プレゼミの特徴の一つです。
教育者も探究を深く学べる場が広がっている
2022年度から、高校の先生や専門家を招いて探究について話し合う『教育探究オンライン研究会』というイベントを開催しています。
教育の力による地域課題の解決や教育行政の専門職について、または北米の教育最前線などさまざまなテーマで高校での探究について理解を深める会で、山崎准教授自身もこのイベントを通して学び、その内容をまた皆様とシェアできればという思いを持っているそうです。
生徒の未来のため、探究を教える上で大事なことは忍耐力(待つ!)
講演の中で、高校の先生方に伝えたい探究教育の勘所の一つは「忍耐力」つまり「待つ」ということを結論づけています。
生徒ごとに探究の進捗力はさまざま。やりたいことが見つからない生徒もいます。
その時に先生側から助けてあげたくなりますが、それを待つ勇気が大事であると。
山崎准教授は「高校は大学より個々の進捗状況の平均化について厳しい環境なので難しいかもしれないが(前出の)教育探究オンライン研究会で話した先生が共通していうことも『待つしかない』でした。そこを高校の先生方に伝えたい」と。
生徒が先の将来で楽しく生きていくという時に自分のやりたい気持ちや好奇心は大事なので、それを引き出すために「待つ」ことが肝要と説きます。
学生の自己肯定感が育まれ、大学からも評価される「探究的な学び」
世界との比較教育を研究テーマとする山崎准教授は、研究を通じて日本の教育と若者の優秀さを実感しています。
その反面、日本の若者の自己肯定感の低さに危機感を覚えていました。
それだけに「みんなできるんだ」ということを、探究を通じて実感してもらいたいといいます。
「探究的な学びを推進する機運が出てきた今をチャンスとして捉え、大学でも探究は評価され、生徒の将来につながるものになってきていると高校の先生にも認識してもらえるとありがたい」と山崎教授は強く伝えます。
そして「生徒本人がやりたいことが、大学に行ってもやれるというのは、教育に携わるものとしては一つの良い結果だと考えます」と講演を締めました。
まとめ 探究を生徒の未来につなげるために
当日は、ほかにも山崎准教授と司会との間で、探究のプロセスについて踏み込んだ話などディスカッションが盛り上がり、探究における高大接続の現状や、これからの未来について参加者全体で考えることができた貴重なLIVEセッションとなりました。
山崎准教授は講演を通して、現状の日本の教育や生徒の素晴らしさと高校の先生への敬意をベースに、これからの探究による高大接続の重要性、そして世の探究モードへの流れを汲む桜美林大学の画期的な入試の仕組みについて語っていただきました。
大学の探究に対する本気度を感じます。
今後も、高校生の探究に対する自主性・好奇心が大学進学や本人のよりよい未来につながるように、高校・大学での探究教育を教育者側が学び、授業や入試方式・大学のカリキュラムの仕組みを整えていくことが重要だと思えました。
執筆:向井小次郎
企画:佐瀬友香(株式会社トモノカイ)