2017年のスタートから今年で3回目を迎える本イベントは、学校の先生をはじめとした教育業界の関係者が集まり、お互いに学び合うことを目的に開催されている。出展団体は、教科教育・芸術・ICT・オルタナティブ教育など幅広い領域をカバー。教室での講演やワークショップのほか、ポスターセッション、ブース展示など合計200以上のプログラムを実施された。
本記事では、いま教育業界で注目を浴びている「探究」に関する3つのプログラムの様子をレポートする。
1.探究教材 設計開発責任者・神原洋子による「探究の行き詰まりへの処方箋」

はじめに紹介するのが、最新の指導方法や教材の情報交換の場作りに取り組む「ESN英語教育総合研究会」企画のワークショップ。
タイトルは「探究あるある行き詰まりポイントへの処方箋〜生徒がイキイキ取り組む探究活動を目指して〜」。教育事業を手掛ける株式会社トモノカイの探究教材 設計開発責任者・神原洋子氏が、参加者と一緒に「探究」への知見を深めた。
ワークショップでは、「探究の困りごと」をテーマに、3〜4人のグループでディスカッションを行い、そこからポイントのレクチャーへ。

ディスカッションでは、参加者から困りごととして挙がったのは、「生徒に課題意識を持たせることが難しい」、「課題が自分ごと化しない」「探究の授業をどう進めていいかわからない」など。
そうした声を受け、神原氏は「探究で行き詰まるポイントは大きく分けて、『計画~運営体制面』『生徒との関わり方』の2つ。そして、その行き詰まる原因として、意識的に手を打つべき観点は、活動の計画立て・先生間の意識統一・生徒との関わりの3つある。生徒たちにどのような能力を育むか、という目的意識が不明瞭のまま、カリキュラムを設計してしまうこと。先生間で探究に対するモチベーションの差や認識の違いがあり、指導のバラつきが生まれていること。生徒が主体的に探究するために、先生はどう関わればいいか分からないこと。こうしたことが、探究を進める上での障害となっている」と話す。
神原氏は上記3つのポイントに対する解決策を紹介。詳細は下記リンクから確認できる。
ワークショップ後、中高一貫校に勤める参加者は、こんな感想を話す。
「学校で探究に取り組んでいるが、『やらされている』という雰囲気を多くの生徒から感じる。その原因の一つが、私たち先生が生徒に何を伝え、どうなってもらいたいかを明確にできていないからだと分かった。今後は計画をイチから練り直し、先生と生徒が一緒に探究できるようにしたい」
教育改革が進む現在、学びの方法はもちろん、教員自身も変化を求められている。探究活動の成功の鍵は、現場の教員にあると言えるだろう。
2.これからの先生に必要なことは? 石川一郎×矢萩邦彦対談プログラム

続いては、教育現場に20年以上携わり、「21世紀型教育」を研究・啓発してきた石川一郎氏と、探究型による能力開発に20年以上携わり、少人数制統合型学習塾「知窓学舎」塾長でもある、実践教育ジャーナリスト・矢萩邦彦氏による対談プログラム。
「『教育改革』時代を生きる先生に必要なこと」をテーマに、探究的な学びをナビゲートする先生の役割について話し合った。
石川氏は「先生自身の探究に対する姿勢が重要。学習指導要領上の制度だから探究するのか、新しい学びとしてワクワクして探究するのか。学ぶことが楽しいと思えなければ、子どもはテストのためだけに勉強してしまう。世の中の事柄に興味を持てるような時間や場を作ることが、これからの先生に求められる」と話す。
一方で、矢萩氏は「RPA(Robotic Process Automation=ロボットによる業務自動化)」を例に挙げ、AI時代の教育について言及する。
「これからはブルーカラーだけでなく、ホワイトカラーの仕事までロボットに取って代わられる。しかし、ロボットは言語(プログラム)で動くもの。そのため、言語化しにくい能力や存在、仕事が大切になるだろう」

2019年12月に、教育に関する書籍を共同出版する予定のお二人。同書の中核には、「認知」「想像」「共有」という3つの概念があるという。
矢萩氏は「『認知』とは、情報を集め、整理分析すること。『想像』とは、未来や他人の気持ちなど答えのない事柄を深く考えること。『共有』とは、自分の考えを分かりやすく表現すること。なかでも、『想像』は探究的な学びによってデザインされる部分。子どもと大人が対等な立場で、答えのない問題について意見を交わすことは、子どもにとって重要な経験になる」と話す。
探究的な学びの場では、誰も答えを知らない問題に立ち向かう。そのため、先生もさまざまな物事を探究していく必要がある。生徒だけでなく、先生自身も「問い」を持つことが大切になるだろう。
3.生徒も先生も一緒に学び、面白がる―かえつ有明・探究体験ワークショップ

最後に紹介するのが、「かえつ有明中・高等学校(以下、かえつ有明)」による探究学習体験ワークショップ。
探究的な学びの先進校としてしばしば取り上げられる同校。教員がテーマを用意し、ワークショップ形式で学びを進める「サイエンス科」と、生徒自身がテーマを設定し、実践的な学びを深める「プロジェクト科」を設置するなど、特色ある教育を展開する。
その1つが「スパイダーウェブディスカッション」。これは、アメリカの教育実践者・アレキシス・ウィギンズ氏の著書『最高の授業 スパイダー討論が教室を変える』(新評論)で提唱されたディスカッション方法だ。
生徒は10人前後で円形に座り、あるテーマついて議論する。そして、その様子を観察する役割「エキスパート」の生徒を2人が会話の様子をすべてシートに記録。議論が終わり、グループ内で取り組みについて全体で評価をつけた後、会話の記録シートが共有される。そのシートを見直すことで、発言の偏りや効果的な発言がわかるという。
かえつ有明 中学2年生のスパイダーウェブディスカッションの様子
今回は、「教育はどう変わっていくべきか」をテーマに、参加者がスパイダーウェブディスカッションを体験した。
議論のなかでは、「安心安全な雰囲気を作り、生徒が自由な発想できるようにする」、「まず先生自身がワクワクして学びに取り組む」、「外部と連携して、学校外の学びの場を増やす」などの意見が参加者から挙がった。
20分間のディスカッション終了後、グループ内で自己評価を行い、エキスパートから記録シートが共有。改めて、記録シートを見ると、多くのグループが最初につけた自己評価よりも、厳しい評価をつけ直す結果になった。

同校副教頭の佐野和之氏は「うまく発言できたかよりも、改善点に気付くことが大切。誰かに見られながら議論を行うのは、最初はなかなか難しい。しかし、回数を重ねるうちに客観的な視点が身につき、生徒たちだけで建設な議論を進められる」と話す。
元は英語科の先生同士で自主的に行っていた、スパイダーウェブディスカッション。実践しているうちに楽しくなり、授業へ導入することになったそう。生徒も先生も一緒に学び、面白がれる土壌が、ユニークな授業づくりに繋がっている。
生徒と先生が一緒に学び合う時代へ
3つのプログラムの登壇者が共通して重要視しているのは、生徒と先生の学び合いだ。これまでは先生から生徒へ答えを教えるスタイルが主流だったが、これからは一緒に問いを立て、答えを探る姿勢が大切となる。時代の変化に伴い教育改革が進むなか、先生に求められる役割の変化と現場の保守的な雰囲気のギャップにとまどう声もよく耳にする。一方で、このプログラムで登壇する探究的な学びの実践者たちは、イキイキとして楽しそうだ。現場で閉塞感を抱いている先生は、この教育改革の機会を活用して、新しい教育を実践してはどうだろうか。
(取材・執筆:野阪拓海/ノオト 編集:鬼頭佳代/ノオト)