「社会課題」をテーマにした探究学習の授業実践からみえてきたこと

★こんな先生方にオススメ★

・ドキュメンタリー動画を用いた探究的な授業の実践例を知りたい先生方
・社会課題をテーマにした探究的な学びが気になる先生方
・少人数クラスでの探究活動に興味がある先生方


東京都目黒区に位置する東京都立国際高等学校は、グローバルな校風が特徴的です。
国際学科と国際バカロレアコースという二つの学科で構成され、留学などの国際交流も豊かです。

同校の伊東純子先生は、家庭科の授業で『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』を導入しました。本教材は、以下のように5コマの授業で実践することを想定した構成になっています。

もともとは2年生に導入したところ、その学びの効果を実感したために、1年生にも導入を決定。本記事では、2月に東京都立国際高等学校で行われた『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』を用いた授業における、実践の様子をお伝えします。

ヤフー株式会社と協同制作した探究教材『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』

『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』を用いた授業の様子

今回ご紹介するのは、国際バカロレアコースの1年生10名が参加したPHASE5の授業の様子です。

PHASE5は、本教材のまとめとなる部分で、生徒たちが学びを発表する回になっています。
CM動画やポスター広告などさまざまな発表形式を紹介しており、学校の状況や特徴にあわせて自由に選ぶことができるのが魅力の一つです。

国際高校では、プレゼンテーションによる発表を選択しました。同校ではプレゼンテーションの機会が頻繁に設けられているため、教材での学びが生徒たちの力にも直結します。
国際バカロレアコースの生徒10名は、バリアフリー、人権問題、仕事・貧困をそれぞれテーマにしたグループに分かれて発表を行います。グループごとのテーマは、生徒たちがPHASE2の段階で視聴した動画の中から特に興味のあるものが取り上げられています。

2時間を使って行われた授業は、以下の流れで進みました。

1.前回までの復習
2.発表前の最終調整(グループごと)
3.発表/質疑応答
4.まとめ

それぞれについて、少し詳しくご紹介します。

1.前回までの復習

授業の冒頭では、前回の授業に補足の情報を加えながらひと通りの復習が行われました。生徒たちの記憶を呼び起こすために、それぞれのグループが扱う社会課題に関連する説明を行いました。

例えば、貧困への支援に関する取り組みや、識字に困難をもつ方の文字の見え方、ジェンダーに関する人権問題などが取り上げられていました。

伊東純子先生がスライドを用いて復習を行う様子

伊東先生が独自に作成したスライドは、社会課題への学びをさらに深めていました。

2.発表前の最終調整(グループごと)

発表前には、最終調整の時間をとっていました。
生徒たちは、それぞれで読み上げる箇所の確認や、スライドが問題なく動くかなどを確認し、万全の体制でプレゼンテーションに挑みます。

自分たちが発表できたらよいとするのではなく、しっかりと聞く姿勢を整えるためにも、発表前の最終調整は必要だと感じました。

最終調整で、しっかり発表の確認を行う生徒たち

3.発表/質疑応答

各グループでの最終調整を行ったら、いよいよ発表の時間です。
「どのグループから始める?」という伊東先生の問いかけに対して、「私たちから発表します」という積極的な姿勢が見られました。発表時間は1グループ10分前後です。

① バリアフリーチーム

「聴導犬」に関するドキュメンタリー動画から知った実情を共有しながら、生徒たち自身の考えや感じた違和感、改善策などを発表。一見わかりにくい障がいをもつ人々への配慮の不足や、日本におけるバリアフリーの現状が明確になった。

バリアフリーチームの発表

② 人権問題チーム

「仮放免」や「難民問題」に関するドキュメンタリー動画から得た情報などを発表。「高校生の私たちに、できることは何だろうか?」という視点をもって社会課題に向き合い、しっかりと自分事化できているのが印象的だった。

人権問題チームの発表

③ 仕事・貧困チーム

「貧困」に関するドキュメンタリー動画から見えた世界での経済格差について発表。具体的な数字やデータを用いて、実情が把握しやすいように伝えていた。貧困の連鎖について意識できており、改善策についても考えられていた。

仕事・貧困チームの発表

3チームに共通していたのは、動画を見て感じた自分なりの考えや違和感を、聞き手に伝わるよう、しっかりと言語化できていたという点です。ただ動画の感想や内容を伝えるだけではなく、それをふまえて自分たちの課題意識にまで結びつけられているのは、社会課題を自分事化して考えられている証です。

また、授業を見学していて印象に残ったのは、質疑応答による学びの深まりです。

例えば、日本での聴導犬への認知度があまり高くないことに関連して起こった「なぜ重大な社会課題なのに、世間への認識が広がっていないのだろうか?」という質問。

非常に重要な問いではあるものの、ぱっと答えられるようなものではなく、また、絶対解は存在しません。生徒たちは、今もっている情報や社会の状況をふまえながら、自分なりの答えを導き出そうと頭をフルに回転させます。

国際高校の生徒が出した答えは、「普段、こうした場面に触れる機会が少ないからこそ、そもそも現状の理解が進んでいないのではないか」というものでした。
質疑応答から、さらに思考が深まり、学びに奥行きがでていることがわかります。

このように、ある事実について考えを深めていく中で、新たな疑問や気づきに出会い、さらに学びの幅が広がっていく。この繰り返しで、探究のサイクルがぐるぐると回ります。
生徒に対するサポートの一つとして、新たな気づきにつながるような問いの投げかけをしていくような意識をしてみてはいかがでしょうか。

4.まとめ

全3グループの発表が終わり、授業はまとめに入ります。

SDGsにおける基礎的な事項を復習しながら、教材のPHASE5後半部分に掲載されている世界におけるSDGsへの取り組みについて触れます。

伊東先生は、本書内で紹介されている「SDGs債」も絡めながら、お金について授業を進めることで、家庭科的な学びにつなげていました。特に世界の富の分配状況などに、生徒が興味を持っていたように感じました。

最後には「自分にできる社会貢献を考えていくこと」とまとめ、本教材を用いた学びを終えました。
加えて、補足資料として、生徒たちがテーマにした「バリアフリー」について取り上げた夕刊の紙面を配布していました。こうした補助的な資料の工夫があると、日常とのつながりを意識でき、より自分事として社会課題を捉えられるでしょう。

最後にまとめを行って、授業を終えた


「家庭科」の授業内で探究教材を用いるということ

伊東先生は、国際高校で家庭科を担当する先生です。そして、この『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』が用いられた授業が行われたのも、家庭科の授業内です。
そこで筆者が気になったのが、なぜ総合的な探究の時間ではなく、家庭科の授業内で探究教材を導入したのか、という点。
その理由の一つとして印象的だったのは、「探究のプロセスが、家庭科のホームプロジェクトと似ている」という伊東先生の言葉でした。
探究のプロセスは、「①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現」となっています。
家庭科におけるホームプロジェクト も、家庭科で学んだことを生かしながら、身の回りの問題を見つけ、解決していく活動という点では、まさに探究のプロセスと似た過程をたどる取り組みだといえます。

トモノカイの取材に、一つ一つ丁寧に答える伊東純子先生

加えて、伊東先生は、学習指導要領にも記されている言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等、学習の基盤となる力の育成を、「どの教科でも意識して取り組んでいくべき」とした上で、「(本教材は)それを網羅的に育成できる点が良かった」と話します。

本教材の特徴でもある「ドキュメンタリー動画」を用いて、まずは世界や日本で起こっている現状を自分の目で見る。そして感じたことを言葉にしたり、共有したりしながら、また考える。はじめて知った社会課題についても情報を集め、自分の言葉でまとめていく。

この一連の流れの中で、学習の基盤となる力が、実践を通して鍛えられていくことも、本教材が選ばれた理由だったとのことでした。

探究的な学びは日常にこそ存在している

国際高校では、家庭科の授業内でも探究的な学びが行われていることがわかりました。では、普段におけるいわゆる「探究」としては、どんなことが行われているのでしょうか。

同校では、国際学科の2、3年生で課題研究に取り組みます。
テーマは自由で、生徒一人ひとりが課題や疑問に感じたことについて探究的に考えを深める活動です。それぞれのテーマに従い、専門性の近い先生が指導を担当するため、的確な指摘や気づきを与えることができ、より深く学びを進められるといいます。

『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』を用いる国際高校の生徒たち

さらに驚くべきは、こちらの取り組みが平成2年度より行われてきたものだということ。
「総合的な探究の時間」にあわせて設置されたわけではなく、もとより学校で行っていた取り組みがすでに探究的な学びだったのです。

今この記事を読んでいる先生方は、ぜひこれまで学校で取り組んできたことを振り返ってみてください。それが、実は探究的な学びにつながっているかもしれません。
また、伊東先生は、「生徒からの質問は、普段の授業からよく挙がる」と言います。
ちょっとした気になることなどがあっても、みんなの前では発言しにくいと感じてしまうことは、よくあることです。

国際高校でそうした状況が起こらないのには、気づきや違和感を安心して発言できると思えるような「心理的安全性」が普段から確保されていることも一因でしょう。

取材の中では、伊東純子先生の教育に対する考えや想いを聞くことができた

これから本格的に探究的な学びへの取り組みがはじまりますが、忘れてはいけないのが、なにも目新しいことをする必要はないということだと考えます。

探究学習の進め方にお悩みの先生の中には、「うちの学校では何ができるのか」と悩まれる方もいます。これは、「探究=新しいことを始めなくてはならない」と考えてしまっている背景があるのではないでしょうか。
それより、普段の学校生活の中に、探究的な要素を溶け込ませたり、あるいは今ある取り組みを探究的な学びに接続してみたりすることの方が大切かもしれません。

ぜひ、これから探究学習に本格的に取り組む先生方は、日常の部分を今一度見つめ直してみてみてはいかがでしょうか。

総括

本記事では、国際高校における『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』を用いた授業の様子や、同校での探究的な学びについてご紹介してきました。教科横断的な探究学習という意味でも、参考になる事例だと言えます。

また、伊東先生は、本教材での探究的な学びが、生徒たちの「社会に対するアクションを起こすきっかけ」につながってほしいと、期待を込めています。

伊東純子先生
※撮影時のみマスクを外しています

教材内で扱うドキュメンタリー動画には、「社会をよりよくするために奮闘している大人たち」の姿を見ることができます。その姿こそが、生徒たちの行動におけるモデルになると、伊東先生は考えているからです。自分の行動は、一人ひとりが自由に決められるもの。だからこそ、その選択に迷ってしまう生徒も少なくないでしょう。
その中で、「奮闘する大人たち」の姿を見ることは、生徒自身の「今、何ができるのか」を考えるきっかけとなり得ます。それが結果として、社会に対して起こす行動にもつながっていくのですね。

加えて、前例のない取り組みに対しては「生徒に“どういう力を身につけさせたいか”を決めたら、まずはやってみること」と述べる伊東先生。まず実現してみることで、気づくこともあるといいます。

このように、「生徒に何を考えさせたいか」を大切にしていくことは、これから探究学習をリードしていく先生方にも通ずる考え方だと思います。ぜひ、参考にしてみてください。

※掲載内容は取材時点(2022年2月)のものです。

◇ ◇ ◇

今後も、探究的な学習においてお悩みの先生方のお役に立てるよう、様々な角度から取材を行い、事例を紹介してまいります。

<東京都立国際高等学校にご導入いただいている教材>

『ドキュメンタリーからはじめる探究ステップゼロ』

本教材に関するご紹介ページはこちら


>>>これまでの事例取材記事はこちらよりご覧いただけます!<<<


(執筆:佐瀬友香/トモノカイ)

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